異色の美容師がクチコミを武器にサロン経営を軌道に乗せるまで【AYOMOT 鈴木朋弥さん】#1
ヘアサロン激戦区の表参道で、業界でも一目置かれる存在の「AYOMOT」。オーナー兼トップスタイリストの鈴木朋弥さんは、創業時から看板を出さず、ホームページやSNSにも頼らず、完全紹介制で5つの系列店を展開してきました。
前編では、遠回りしながらも、出会った先々でさまざまな経験を積みあげ、サロン開業に至る軌跡をインタビュー。現在のサロン経営に通じる、鈴木さんの原点が明らかに。
SUZUKI‘S PROFILE
原点:料理人時代の師匠が教えてくれた「本当に」売れるということ
──多くの美容師は高校卒業後すぐ美容学校に通うのが主流ですが、鈴木さんは少し違ったそうですね?
そうなんです。一時は大学進学を目指していましたが、何か違う、自分は手に職をつけて自立したいんだと気づいたもののすぐには目標が見つからなかったので、高校時代にアルバイトしていた地元のレストランでしばらく働くことにしました。このレストランのオーナーこそ、僕にとっては経営の原点ともいえる気づきをくれた方なんです。
──どのような気づきだったのですか?
当時はグルメブームで、レストランにはたくさんの取材依頼がきていました。でも、オーナーはすべて断ってしまうんです。「有名になってお客さまがたくさん来るチャンスなのになぜ?」と不思議に思い、オーナーに理由を聞いたんです。
そうしたら、「急に新しいお客さまが大勢来たらどうなる? 今までのようなサービスはできなくなるし、常連のお客さまが予約できなくなってお店の雰囲気が変わってしまうかもしれない。それに、もし隣のレストランが取材で有名になったら、今度はみんなそっちへ行ってしまうんだよ」って。
──いずれ常連さんも新しいお客さまも、すべて失ってしまうと。
はい。その店はもともと、本当にいいものを知っているお客さまが、お店の味や雰囲気を気に入って、クチコミで評判を広げてくれていて同じようにいいものを知っているお客さまが自然と集まってくる、クチコミの理想形のような集客がなされていたのです。
「いつか経営者になることがあったら、誰に一番喜んでもらいたいかを忘れないで」というオーナーの言葉の重みは、グルメブームが去った今も、変わらず多くのお客さまに愛されているという事実が、何より証明してくれていると思います。
修行~独立:型にとらわれず独自の方法と人脈で自分らしい美容師像を模索
──レストラン時代を経て、美容師を目指したきっかけは?
レストランと並行して飲食店の開業をお手伝いしていた時に、雑誌や広告のヘアメイクという職業を知ったんです。有名人に会えて楽しそうだったし(笑)、ちょうど友人たちが大学卒業を控え就活に励む姿にも感化されて、「よし、ヘアメイクになろう」と。
23歳の時、地元に近い鎌倉で、ヘアサロンを経営しながらヘアメイクもしている方のアシスタントになったんです。そうしたら、やっぱり自分でもお客さまの髪を切りたくなっちゃって(笑)。方向転換して、通信教育で美容師免許を取り、美容師を目指すことにしました。
最初はどこかのお店で経験を積むつもりでした。ところが、鎌倉のサロンのオーナーが、僕の経歴や性格なら「一人でやったほうがいい」と、間貸ししてくれる神谷町のヘアサロンを紹介してくれて。そのお店の一角を間借りして独立。25歳の時でした。
──宣伝もあまりできない間借りでいきなりの独立。不安は感じませんでしたか?
レストラン時代の経験で、「本当に上手い技術があればクチコミでお客さまは集まる」という信念があったので、不安はなかったですね。実際、一年で100人を超える常連さんがついてくれて。間借りでは回らなくなり、自分の店を持つことにしました。
開業:クチコミだけで圧倒的な集客力。「最新ではなく最適なものを提供する」
──なぜヘアサロンの激戦区、表参道で開業したのですか?
一番、競争が激しいところで実力を試したかったんです。1999年、ちょうどサロンブームの時期。表参道という地域を一つの店舗と考えれば、激戦区であるほど逆に集客が望めるという考えもありました。
──開業に際しても、宣伝をしないでクチコミだけの完全紹介制にした理由は?
間借りしていた時の成功経験や、レストラン時代にグルメブームの栄枯盛衰を見たことで、僕のなかで宣伝ありきの集客では不十分という、確固たる信念ができていました。
──どのような戦略で他店と差別化を図ったのですか?
もともとヘアメイクから美容の世界に入ったので、ヘアとメイクは一体であることが不可欠だと考えていて。メイクもセットで提案することにしました。ただし、それにはお客さまの職業や仕事上で求められている姿、ライフスタイルなど、バックグラウンドを知らなければ、本当に「似合う」スタイルは作れません。そこで、30分かけて徹底的にカウンセリングをすることにしました。
ある時、名だたるヘアサロンはほぼ網羅したというお客さまが、「これまでに行ったサロンは、どこも流行りの同じようなスタイルになってしまう。鈴木さんに切ってもらうと、ちゃんと話を聞いて私に似合うスタイルにしてくれる」と言ってくれたんです。
その方は外資系企業に勤めていて、「自分らしさ」をとても大切にしていました。求めているのは、「最新ではなく自分に最適なスタイル」だったのです。これをきっかけに、個々のお客さまに「似合わせる」という自分の信念が間違っていないと確信しました。
──収益面でもすぐに結果は出たのでしょうか?
自分らしさを重視する精神的に大人のお客さまほど、信頼関係が構築されると、こちらの提案をお任せで受け入れてくれます。例えばスカルプケア。当時にしては珍しく9割のお客さまが利用していました。メーカーさんから、どんなコミュニケーションを取っているのか逆に教えを請われたくらいです。
さらには、お客さまが同じようなバックグラウンドを持つお友だちを紹介してくれて、美容意識の高いお客さまが自然と集まるように。一人のお客さまが複数のサービスを組み合わせて利用されるので、結果的に客単価は高くなるという、好循環も生まれていきました。
戦略:お客さまの選択肢を増やすにはトータルビューティサロンしかない!
──「AYOMOT」ではネイルやファッションアドバイスも提供していますが、そうなった経緯は?
何年か続けていると、お客さまに昇進や転職、結婚や出産など、ライフステージに変化が訪れるようになりました。当然ながら、人生におけるキレイの目的も、キャリアアップから婚活、子どもの受験など、どんどん多様化していったのです。
そこで、どんなニーズに対しても「最適なキレイ」を提供できるよう、ネイルやファッションなど、サービスの選択肢を拡充し、トータルビューティサロンを目指すことにしました。
──お客さまの変化を見逃さず、経営に取り入れているのですね。
はい。その根底には、レストランのオーナーにいわれた「誰に一番喜んでもらいたいか」があるんですよね。
アメリカではよく、人生には医者・弁護士・ファイナンシャルプランナーという、3つのプロが必要だといわれます。美容師も、美しくなるための技術や情報を与え、人生に寄り添うという意味では、4つ目のプロといえるのではないでしょうか。
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既存の考え方にとらわれることなく、自分らしい美容師像を追求してきた若き日の鈴木さん。後編では、経営者として直面した「本当に売れる美容室」の壁と、それを打ち破った「仕組み経営」についてうかがいます。
▽後編はこちら▽
固定概念をガラリと変えた「仕組み経営」との出会い【AYOMOT 鈴木朋弥さん】#2>>
取材・文/池田 泉
撮影/岩田 慶
Salon Data
AYOMOT
住所:東京都港区南青山5-12-27
TEL:紹介制の為非公開