教育制度の確立と業務のIT化で最大のピンチを乗り越える【フットブルー 西谷裕子さん #2】

美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談をお届けする本企画。

前回に引き続き、ドイツ式フットケアサロン「フットブルー」オーナーの西谷裕子さんにインタビュー。ご自身の出産で会社が経営危機に陥ったのを機に、会社のシステムを一気にデジタル化。教育システムも見直したことで、ピンチを乗り越えたそう。

経営していくうえで避けて通れない会社の危機。西谷さん流の対処方法を教えていただきました。

出産を機に売り上げが激減!

「フットブルー」オーナー西谷裕子さん
サロン勤務を経て「フットブルー」を立ち上げる。
現在、銀座・青山・横浜・横濱元町に計4店舗を構える。
フットケア専門スクール「ペディキュールアカデミー」も主宰

──現在4店舗を運営。大成功ですね?

いえいえ。何度もピンチが訪れ、そのたびに乗り越えてきました。なかでも最大の危機は8年目を迎えた34歳の時。私が産休に入ったことがきっかけでした。

ずっと現場に出ていた私が休んだことで、スタッフは会社を守ろうと一致団結。本当に頑張ってくれました。でも客観的に見る人がいなくなり、どこかぬるま湯になっていたのでしょう。売り上げが激減したのです。

同じ時期に横浜店を今の場所に移してリニューアルするために融資も受けていたので、資金繰りがかなり厳しくなってしまいました。

──それは大打撃ですね。

出産前は多少のピンチがあっても、稼ぎ頭である私が365日頑張ればなんとかなっていたんです。ところが幼い子どもがいては以前のように働けないし、稼げない。そんな現実に直面し、急に自信を喪失。お客様と話すこともできなくなってしまいました。

10年ぶりの学び直しで社内教育を大改革

──どのようにして乗り越えたのですか?

今でこそ笑い話にできますが、当時は周りの誰にも話せないくらい精神的にズタズタで。全てをいったんリセットしたくて、あらためてフットケアの学校で学び直したんです。

外の世界に出たことで、10年近く現場にいればスキルは上がっていくけれど、インプットがなければ新しいアウトプットもできないということに気づかされました。これを機に、私がするべきアウトプットって何だろう?と真剣に考え、行きついたのが教育でした。

──成果はすぐに出ましたか?

なかなか難しいですね。恵比寿店を出した時に2人目の出産と重なってしまったので、オープニングをスタッフに任せたのですが、見事にコケてしまいました。私が開店準備に必要な教育をしていなかったのが原因です。

とにかく悔しくて、社会人大学で経営や教育をイチから学び直しました。

最初の10年がお店という「箱」を作る時期だとしたら、次の10年は箱の中の「人」を育てる時期。技術、接客、カウンセリングのノウハウが詰まった教科書を作り、それを基にカリキュラムを組み、評価システムに落とし込むところまで、すべて体系化していきました。

経営者には、「会社や業界を俯瞰で見渡し、
これから先のあるべき姿を探す視野も重要」と西谷さん

バックヤード業務を全面デジタル化

──ピンチをチャンスに変える大変革ですね。

もう1つ、出産をきっかけに大きく変えたのが、業務のデジタル化です。

ポスレジを導入して売り上げを日次で把握。書類はドロップボックスで共有し、イントラネットを整備して情報網も一括管理。全店舗の予約状況はパソコンで把握できるようにしました。そして月次決算を正確に出すところまで精度を高め、パソコン1台あれば施術以外の仕事はすべてこなせる環境を整えたんです。

アナログでしかできないこと、デジタルでできることが明確になったのも収穫でした。接客はアナログでしかできないけど、そのぶんバックヤードの仕事をデジタル化で圧縮すれば、仕事の質は落とさず、より効率のいいパフォーマンスが発揮できるとわかったんです。

──業務のデジタル化でポジティブな変化が生まれたのですね!

ライフステージの変化と直面しながらそれでも前に進んでいくには、自分を変えるしかありません。私はデジタルという道具を使うことで、自分を変えることができました。出産がなかったら長時間労働のままだったと思いますし、会社がこうして一皮むけることもなかったかもしれません。

ただ、デジタルに慣れるまでは社内から反発もありました。女性の世界って阿吽の呼吸で成り立つ部分が多々あって、デジタルとは真逆なので。

──どうやって納得してもらったのですか?

なぜそれが必要か、ひたすら説明しました。社員とは置かれている立場が違うので、考えが異なるのは当然のことだと思っています。

事業を牽引する立場として、私は会社やフットケア業界をさまざまな視点や規模から俯瞰で見るように心がけています。そこから生まれたアイデアが新たな道を開く原点になるので、社員に反対されるのはある程度、承知のうえです。

フットケアの重要性を伝える手段としてスクールの運営やオリジナル商品も開発

──現在は、フットケア専門のスクール「ペディキュールアカデミー」も運営されています。

スクールを始めた理由は2つあって、1つはフットケアを学びたいという需要が多かったから。もう1つは、多くの人に足の大切さを知って欲しいからです。

よく肌の曲がり角は25歳といわれますが、足の曲がり角は50歳。自分の足で歩けなくなると、トイレで排泄ができなくなる。そうなると、下半身が弱り筋力が落ちて食べられなくなります。移動の手段としての足は、想像以上に重要な役割をしているんです。

それを伝える手段がサロンかスクールかの違いで、足の大切さを伝えたい、という根本の思いは同じです。

サロンへ来られない時でも
自分の足と向き合って欲しいと開発した「fori」

──オリジナルのフットケア製品「fori」を販売しているのも、同じ理由からですか?

そうですね。私のなかでずっと、本当に足が悪い人はサロンに来られないという葛藤があったんです。ある時、足を骨折したお客様から「サロンに行けないから家で使えるクリームが欲しい」と言われ、「セルフケア用の製品があれば、自宅で自分の足をケアできるな」とひらめきました。

「fori」というネーミングには、「自分のために、自分の足と向き合う習慣をつけて欲しい」という思いを込めているんですよ。

フットケアを通じて女性の自立支援ができる制度をつくりたい

──今後の展望を教えてください。

社員や生徒には、技術を身に着けて社会的・経済的・精神的自立のきっかけを持って欲しいと願ってきました。そのための教育を与えることは、会社としての使命でもあると考えています。

ただ、独立しても途中でキャリアを断念してしまう人も少なくありません。理由は明白で、技術の上手さと経営の上手さは別物なのです。

そこを埋めるために、今後は独立支援制度も仕組み化したいと考えています。一人でも多くの人に、フットケアを通してお客様の自立歩行と、自分自身の自立を実現してもらえたら嬉しいですね。

独立を目指すあなたに

私が独立にあたって一番大事だと思っているのは、人の期待にこたえる努力は惜しまない、ということ。そのためには、1つでも多く失敗したほうがいいんです。失敗するから自分に足りないことが分かるし、克服するために工夫もする。その過程で得た知恵と経験があるから成長できると信じています。

▽前編はこちら▽
修業時代は独立に向けたテストマーケティングの場【フットブルー 西谷裕子さん #1】>>

取材・文/池田 泉
撮影/柴田大地(fort)

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Salon Data

フットブルー

銀座店
住所:東京都中央区銀座3丁目11−17 銀座パトリアタワー10F
電話:03-6260-6355(10:00〜19:00 不定休)

青山店
住所:東京都港区南青山3丁目12−11 ボワゼ青山9F
電話:03-3470-6855(10:00〜19:00 不定休)

横浜店
住所:神奈川県横浜市西区岡野1丁目12−14 横浜NYビル5F
電話:045-313-1991(10:00〜19:00 不定休)

横濱元町店
住所:神奈川県横浜市中区元町2丁目90 アンフィニ元町ビル2F
電話:045-305-6654(10:00〜19:00 不定休)

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