共同代表同士の高め合いで組織の成長スピードアップ!【FILMS 代表 若林紀元さん】#1
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談を全2回でお届けする本企画。
今回お話を伺ったのは、高い技術力とサービスで人気を集めるヘアサロン「FILMS」代表のひとり、若林紀元さん。共同代表というかたちで独立し、現在では「FILMS」として5店舗を展開。昨年にはセカンドブランド「foto」をオープンしました。
前編となる今回は、若林さんの開業当初のお話。共同代表として独立してよかったこと、開業時に必要な心構えをお聞きします。
お話を伺ったのは…
FILMS 代表 若林紀元さん
専門学校卒業後、山梨県内のサロンに勤務。上京し、表参道の有名サロン2店舗を経て独立。2017年9月「FILMS」を銀座にオープン。現在は芝浦、新宿、柏、渋谷に店舗を展開、2021年9月にセカンドブランド「foto」を新宿にオープン。2022年5月「FILMS Shibuya」オープン予定。
若林さんのインスタグラム:@norimoto_wakabayashi
サロンに関わる人みんなが幸せになる会社を作りたい
写真のFILMのように幸せな記憶を残し続けることを目指す
――まずは独立当時のお話をお伺いします。若林さんは、もともと独立したい派でしたか?
20代前半のころから「ゆくゆくは自分のサロンを」という気持ちはありました。でも具体的に考え始めたのは、30歳になるころ。30代になるというのは、きっかけのひとつでもあったと思います。
日々働いていくうちに、美容師は本当に「人」というものが大切な仕事だなと感じるようになりました。お客様も従業員も、サロンに関わる人たちを大切にできるような会社を作りたい。そう思ったのが、独立を具体的に考え始めたきっかけでした。
――独立を本格的に考え始めてからしたことは?
最初は会社の大枠をぼんやりと構想していました。どんなサロンにしたいのか、会社が目指すべきところはどこなのかと大きく考え、そこから一緒に働く人はどんな人がいいかなとか、細かいところを考えていきました。
美容室の開業って、物件が決まると一気に動き出すんです。だからそれまでに大枠を決めておいて、物件が決まったタイミングでいろいろ細かく決めて、一気に準備が加速した感じでした。
――1店舗めを銀座にした理由は?
ずっと表参道で働いていたので、表参道の厳しさは自分なりにわかっていました。それを踏まえて、一緒に働くスタッフや今後入ってくるであろう後輩たちのために、どこに一番チャンスがあるかと考えたんです。すそ野の広さや競合の多さなど、いろいろなことを考えた結果、銀座が適しているなという結論になりました。
あと、昔からゆくゆくは海外に出店したいという気持ちがあったんですよね。店舗を展開していくとしたら1店舗目が本店になるので、そこで「銀座」という地名が持つメリットは大きいと思いました。海外からすると、表参道よりも銀座のほうがネームバリューは強いんじゃないかな、と。
共同代表はお互いを補い合いフラットに話せるパートナー
――共同代表での独立でしたが、構想段階からその予定でしたか?
そうですね。自分の強みと弱みを客観的に見たときに、作品作りや集客面、人を引っ張っていくところには、ある程度自信を持っていたんですが、人を教育する上で伝えることや細かい作業が本当に苦手で…。弱みを補ってくれる人や強みを活かしてカバーしてくれる人がいないかなというのは、ずっと考えていました。
――ぴったりな相手と出会えたんですね。
それに人としてもすごく尊敬できたので、共同代表というかたちで開業しました。だから、うちは最初から部署制なんです。代表全員がトップとしてフラットにいて、各担当の部署を管轄する。僕は開業当初は人事や広報面を担当していました。
というのも、美容室をする上でスタート時に一番大切なのは、お客様を呼ぶことと求人をとることだから。そこにしっかり力を入れてスタートしたかったんですよね。今は任せられる幹部たちが育ち、フェーズが変わったので、僕は経営戦略、財務部分を担当しています。
――共同代表でよかったことは?
お互いの強みを伸ばして弱みを補い合えるという点は、イメージ通りとてもよかったです。フラットな関係なのできちんといろいろ言い合えるし、お互いに価値発揮をしたいという気持ちから伸ばし合えるので、僕たち自身の成長速度が上がったんじゃないかと思います。そうして各々が得意な分野を尖らせていけることで、全部ひとりでやるよりも組織の成長スピードも速く、強さもあると感じています。
あとはやっぱり、精神的につらいときは多少あるので、そういうときにフラットに話せる存在がいるのは、かなり大きいですね。
――逆に共同代表で難しかったことはありますか?
とくにはないですね。強いて言うなら、いわゆる友だちではなくなるかな(笑)。仲が悪いという意味ではなく、友だちじゃなくてビジネスパートナーという感じになっていくので。そういう意味では、それぞれの持ち場でお互いが努力してきたことも知っていますし、友だちよりも信頼できる関係になったと思います。
好調だと思えるのは最悪のケースまで考え抜いてスタートしたから
――独立したときに不安はありましたか?
あまりありませんでした。2年以上かけて準備をしっかりしましたから、「もうやるしかない」って感じで。本当に何回も話し合ったし、いろんな側面からリスクまで考えていましたからね。
今でもそうなんですが、当時から常に最悪のケースを考えるようにしていました。リスクをいかに減らせるかという点は、今でもすごく意識して考えています。
――では、開業前と後でイメージのギャップはありませんでしたか?
考えていたよりも、いい方向でのギャップはありますね。すごくいい人材も集まっているし、いいお客様も来てくださっているので。最悪のケースを考えていた分、今はいい感じに展開できているなと思います。
――起業から5年目になりますが、大変だったなということはありますか?
強いて言うなら、新型コロナウイルスが流行し始めたころですかね。オープンしてから半分以上をコロナ禍で過ごしているんですが、やっぱり流行当初は資金面やスタッフの不安感の払拭についてすごく悩みました。代表として、会社は大丈夫だよ、みんなの雇用をしっかり守るよというメッセージを伝えながら、資金調達に動いていましたね。
すごく大変でしたけど、この期間があってよかったと思う部分もあります。固定費などの無駄の見直しもできたし、考える時間ができたことで本当に大切なものが何かを見つめ直すことができました。ちょうど店舗展開がありスタッフも増えてきた時期だったので、改めて美容室の仕事の本質がくっきりと見えたのは、すごく良かったと思います。
――開業してから取り入れた業績アップの取り組みはありますか?
これに関しては、もうマジックみたいなことはなくて。地道にお客さんの声を取り入れて、しっかりと全員で改善して行動し、また出てきた問題を改善して行動する…もう本当にその繰り返しですね。
いろんな集客の仕方とか、うまい方法はあると思うんですけど、やっぱり僕らはこれに尽きるなと思います。そうしてきたからこその今だなと。
――これから独立を目指す方がしておくといいことは何でしょうか?
すごくいっぱい思いついたんですけど(笑)、結局やれることは全部やっておいた方がいいなと思います。やりたいこと、作りたい会社のことを、いろんな角度から深く考えて準備する。「やれるだけやった」と思えたら、あとはやるしかありませんから。
僕自身がしたことで1つおすすめするとしたら、経営やリーダーシップ、ファイナンスの本を読み漁ること。そこで学んだことは、かなりFILMSの運営につながっているので、すごくよかったなと思います。
ゼロからお店を始めるために大切なこと3か条
1.ゴールから考え始めて目的、目標を明確にする
2.スピーディな行動→改善→行動の習慣を作る
3.サービスの本質を忘れない
ゴール(目的)を明確にして、そこから逆算してスタートするというのが、美容室に限らず会社をするうえで大切なこと。それをトップが自分事として伝えていかないと、従業員が迷ってしまいます。
また経営をしていくうえで、自分が思い描いていたようにいくケースは本当に稀だと思います。想定外のことは起こるので、その時いかにすぐ改善して行動に移せるかが重要。その思考の習慣を持てるかどうかは、会社を続けるうえですごく大きいと思います。
そして大切なのが、一番のサービスは「お客様の不満足をなくすこと」という点を見失わないこと。新規開業をするときは、何か新しいものを生み出したいとか、新しい切り口でという考えに行きがちです。だけど美容室としてシンプルに本質を突き詰めてサービスを作っていくというのが、やっぱり成長が早いのかなと感じます。
…………………………………………………………………………………………………
共同代表と共に事前準備をしっかりと行って独立した若林さん。コロナ禍でも安定感のある「FILMS」の成長の理由は、そんな土台の強さにあるのかもしれません。次回後編では、開業からの理念でもある「人が辞めない組織作り」と、昨年オープンしたセカンドブランド「foto」を通した経営戦略についてお聞きします。
取材・文:山本二季
撮影:米玉利朋子(G.P.FLAG)