ほぼ「紹介」で集まる幅広い客層に応えるためには「万能さ」が必要【ambino オーナー 蛸井タケミネさん】#2
「ambino」オーナーの蛸井タケミネさんは原宿・銀座で店長経験を積んだのち、地元・山形県鶴岡市で開業。「ambino」は2022年春に5周年を迎えましたが、オープン当初からこれまで売上に苦労したことはなかったとのこと。東京での当たり前が地元ではそうではないということに気づき、地域性に合わせたスタイルでやってきたことが功を奏したようです。
後編では、地方ならではのメニュー展開&物販、客層が広いゆえに求められることについて教えていただきました。
教えてくれたのは…
「ambino」オーナー 蛸井タケミネさん
千葉県船橋市のサロンでスタイリストデビュー後、原宿の店長を5年ほど経験。その後独立し、共同経営として銀座にサロンをオープン。都内で10年以上働いたのち、故郷の山形県鶴岡市(人口約12万人)にUターンし、「ambino」を開業。都会と格差のない技術力&商材はもちろん、距離感の近いお客様づきあいで、現在の新規来店は紹介によるものがほとんど。
Instagram:@ambino.tsuruoka
地方の方が情報に敏感。だからこそ「高品質」が響く
――価格帯やメニュー展開を考える上で、何か戦略はありましたか?
原宿で店長をしていたときの失敗を踏まえ、周辺地域で一番高いサロンよりやや安めの価格に設定しました。逆に高くしすぎると、学生さんが通いにくくなるので。エリアによって客層が変わる都内と違い、学区単位での集客になるため、どの年代でも通いやすい価格にした方が良いと考えたんです。
やはり、東京とは少し相場が違うので、料金設定は一番苦労しましたね。ただ、よくある「初回だけ安くて、そのあとは高い」「一年以上ご来店のない方は半額!」のようなことはせず、毎月ご来店の方が一番安くなる設定にしてきました。
また、メニューの話とは少し逸れるかもしれませんが、「高品質」なものを揃えるようにしました。カラー剤やトリートメントなどの商材はもちろん、シャンプー台もタカラベルモントさんの「YUMEシャンプー」を導入するなど、一つひとつに一流のものを選びました。
――価格帯で勝負するというよりも、品質にこだわるサロンを目指したのですね。
情報量の多い都心に比べ、ローカルな地域ではシャンプー台一つとっても話題になりやすい。
「とりあえずambinoに行っておけば間違いないよね」と絶対的な安心感があるサロンにしたかったんです。
地元に戻ってきてから感じたのは、都会より田舎の方が情報を求めているということ。テレビもきちんと見ているし、Instagramもよくチェックしていて、「よく知ってるな〜」とこちらが驚かされることもあるくらい(笑)。もしかすると銀座のお客様の方が疎いかもしれません。
ambinoでも東京で一位二位のディーラーさんを使い、都内と同じ商材を仕入れることができています。実は地方ならではの良い面もあって、「ちょっと遅れて」入ってくるため、東京で結果が出たものだけを入れることができるんですよ(笑)。
――トリートメントなどのケアメニューが豊富に用意されているようですが、ambinoではトリートメントの需要も高いのでしょうか?
トリートメントを受ける方は多いですね。背景の一つに、こっちの地域では最新のヘアケアアイテムを売っているお店が少ないんです。デパートなどがないので、ドラックストアか美容室くらいでしかヘアケア用品や化粧品が手に入らないのかもしれませんね。
ambinoでも様々なホームケアアイテムを販売していますが、物販の売上は結構高いですね。
地方は客層が広い分、オールマイティさが求められる
――ambinoの客層について教えてください。
色々な世代のお客様がいらっしゃいますが、ボリュームゾーンは20〜50代。また、サロンの近くに大学があるため、大学生さんの来店も多いです。車を持っていない大学生さんにとっては「歩いて来られる」という利便性もポイントになっているようです。
――現在、メインの集客ツールは何ですか?
実は、ご新規様の約8割はご紹介なんですよ。それが一番のやりがいですね。地元で開業して良かったと心から思えます。
都内に勤務していた頃は、同じ駅でも「南口には行くけど、北口には行かない」という人が多かったんですが、こっちだとそれがないんです。「同じ職場の人に教えてもらった」「家族の紹介で」という理由で、隣の市からわざわざ通ってくれる方もいるくらい。「紹介」はエリアを超えるんです。しかも、即日です。「旦那もここに連れて来たいんだけど」となっても、都内ではなかなか難しいですが、こっちではその日のうちに来てくれるんです(笑)。
――ローカルな地域では紹介力が強いんですね。ちなみに、スタッフさんは現在何人体制ですか?
4月に新卒の子が入社してくれて、僕を含め現在は6人で回しています。スタイリストが4人、アシスタントが2人です。
――スタッフさんも蛸井さんと同じようにUターン組なのでしょうか?
Uターンしてきた子が多いですね。
オープニングスタッフとして入ってくれたスタイリストは、原宿時代の僕の後輩で、僕の幼なじみと結婚して山形に嫁いできたんです。実は、彼女の存在もUターン開業に踏み切れた大きなきっかけでした。
他にも、埼玉で働いていたけど戻ってきた子、東京の学校を卒業してうちに入社してくれた子もいますね。
――東京を経験していることも、採用する上でポイントになりますか?
僕自身も東京で働いていたし、「美容師になるからには一度は原宿でやってみたい!」という気持ちのある子だと嬉しいですね。
けれど、東京での勤務経験がないからといって、引け目に感じる必要もなくて。よく「東京のお客さんの方が難しい」と思われがちですが、逆にこっちの方が難易度は高い気がします。
――東京よりも地方の方が難しい、というのは?
例えば、都内では原宿と銀座とでは客層がだいぶ違いますよね。原宿は学生が多いけど、銀座では働いている世代が多く、技術に対する目も厳しめでした。技術面でも、原宿ではブリーチのオーダーが多く、白髪染めの知識はほとんど不要だったのに対し、銀座ではブリーチより白髪染めの知識を要しました。さらに、千葉のサロンで働いていた頃は、大型の店だったのでメンズ客も多く、理容室や1000円カットのようなスピード感が求められていました。
こっちの地域ではその3つが求められるんですよ。僕は経験してきたから良かったけど、若手スタッフたちは大変だろうなと思います。オールマイティな技術力は都心部よりも必要かもしれません。
――最後に、地域で愛される美容室の秘訣を教えてください。
僕はお客様以上にスタッフを大事にしてきました。これまで売上に困ったことがないのも、全てスタッフたちのおかげ。離職率が高い業界で、オープン当初から誰も辞めずにいてくれているのでありがたいです。
母の職場の人が「お母さんにいつもお世話になって〜」と来てくださることも多いし、今度はその娘さんが通いはじめてくださったりもします。「満員電車のように二度と会わない人をカットするより身近な人をカットしたい」という僕の願いは叶っていると思います。