小規模経営は50代からリスク増。働けなくなる将来を見据えたサロン経営を【GULGUL代表 大河内隆広さん】#2
東京や千葉で個室型サロンを展開する「GULGUL」代表の大河内隆広さんは、3店舗目を出店するタイミングで「財務」というロジックに出会います。それまでの通帳経営を見直したことで利益が格段に増え、その後もどんどん出店数を増やしていったそうです。近頃、業界的にフリーランスや一人経営が増えている中、大河内さんらが運営するオンラインサロンでは「多店舗経営」を促しています。
後編では、早くデビューできる仕組み「回数制カリキュラム」の導入や、一人経営のリスクについてわかりやすく教えていただきます。
教えてくれたのは
「株式会社GULGUL」代表取締役 大河内隆広さん
18 歳で美容師となり、25 歳で美容メーカーに転職。30 歳で美容室経営者となり、第一号 店を新小岩にオープン。現在は東京・千葉に美容室、ドライヘッドスパ専門店を合わせて17店舗を展開。美容師仲間の⻄川礼一氏と鈴木淳也氏とともにオンラインサロン「NO LIMIT」「ONE MILLION」を運営。
独学が今の主流。早くから現場で学べた方が効率的
――スタッフ育成について、デビューまでの期間は短い方が良いとお考えのようですね。
技術職は経験してナンボだから、お人形を相手に練習をするより、人頭で練習した方が上手くなりそうですよね。結局、本番は人間を相手にするわけなので、擬似的な練習ばかり増やしても意味がないかなって。
ある程度のリスクヘッジをしながら、一定の水準まで教えたら早く入客させて、未熟な部分は先輩たちがフォローするという環境を整えれば、早く経験が積めるなと。それが「回数制カリキュラム」です。
大抵のアシスタントは技術試験にクリアすることではじめてデビューするわけですが、一発で合格する人もいれば、何年もかかる人もいます。GULGULでは「チェック制度」をやめ、独自の技術カリキュラムを規定の回数通りこなせばデビューできる、というシステムにしました。
――学んだ技術をすぐ現場で実践できる。下積み期間の無駄を省いたやり方ですね。
正解はないですけどね。昔は一人の先生について、その人にだけ教わる、というコピペ型の教育スタイルでしたが、今は違う。SNSなどにコンテンツが溢れ、そこから独学で学ぶ人が多い時代です。刺激になるような情報をあげて、「勝手に上手くなりなさい」という時代になってきていると思います。
一人経営は、体力が衰える30〜40年後にリスク大
――ここ数年、サロン経営の傾向はどのように変わっていますか?
小規模出店が増えました。一人経営でやっていくタイプの。それで苦労している人は多いですよね。
――オンラインサロン「NO LIMIT」でも出店を勧めていますよね。素人目からすると、あまり手を広げない方がリスクが低そうなイメージですが。
色々な考え方がありますけどね。美容室の経営は、先10年まで保たせるのはそこまで難しくなく、問題なのは50代からの経営です。独立するときに一番考えなければいけないのは、誰からも一生お給料を貰えないということ。今は70歳まで働く時代。歳を取ると病気になりやすくなるし、体力も衰える。小規模経営になるほどそのリスクにさらされやすいんです。美容師は労働集客型産業なので、自分が働けなくなったら収入はゼロになりますから。
――個人店の場合、自分が病気でダウンすればお店を閉めなくてはいけませんもんね。
10〜20年先であればまだ若いから大丈夫かもしれないけど、30〜40年先を考えると、意外とリスクは高いなと。しかも、50〜60代だったらまだ自分の子どもが大学生だったりしません? そのときになって人を雇うにしても、30〜40代のときより雇用はしづらいはずです。経営状況も歳を取るほど悪くなるし、年配が経営する店に働き盛りの美容師はなかなか集まらないんじゃないかな。
小規模サロンは長期的に考えたときに先細りになる気がします。だから、自分が体力的に働けなくなる将来のことを見据えた経営をしていた方が良いのかなと。
一人経営をするのであれば、もっと昭和に戻って、「自宅兼サロン」にした方が安泰だと思います。そうすれば家賃もかかりませんから。美容室経営の負担の多くは家賃と人件費なので。
対面職業の美容師はこれからの時代価値が上がる
――オンラインサロン「NO LIMIT」を開講したことで、どんな変化を感じていますか?
もともと、美容師同士が繋がれるようなコミュニティがあったら面白いかなと思ってはじめたんです。昔は、隣の美容師同士は敵でしたが、そういう概念を壊したかったんです。今では、「NO LIMIT」で知り合ったオーナー同士が仲良くなるケースが非常に多く、千葉や東京界隈の交友関係はすごく広がったと思いますよ。オーナー同士が仲良くなると相乗効果も増えるし、お互いのサロンが成長する。そのきっかけを僕らが提供できたんじゃないかと思っています。
――コロナ禍を経て、美容業界の働き方としてはどのような変化を感じていますか?
変化といったらマスクをつけるくらいじゃないですかね(笑)。営業面では変わっていないと思います。美容業は対面ですから。
――対面でしかできない仕事ですもんね。
今後、世の中全体として職業分類が「テレワークなし」か「テレワークあり」で別れると思います。そうすると対面仕事の「美容師」は人気もなくなってくるだろうなと。
――逆に美容師のチャンスは広がりそうですね。
そうですね。美容師の収入は上がってくるんじゃないですか。
――経営者として「お金儲け」は常に頭にありますか?
自分の会社をもっと大きくしようとは常日頃から思っていますよ。だって、経営者が利益を追求しなくなったら終わりですから。お金儲けが全面に出ちゃうとみんな嫌な顔をするかもしれないけど、利益を生まなければ回り回って社員のお給料に響いてくるんですよ。会社が成長していくためにも、利益を追求していくことは大切です。
これからの時代を生き抜くサロン経営とは
1.早いタイミングで現場に入れ、知識・経験を実践で身に付けさせる
2.小規模経営はリスク大。自分が体力的に働けなくなった将来を見据えた経営をする
3.常に利益を追求し続ける
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄