人生は一度きり。コロナ禍をきっかけに、モヤモヤした気持ちを吹っ切って起業を決意【Sourire代表 宇野陽輔さん】#1
サロンで働きながら、「ゆくゆくは独立したい!」と考えている方も多いのでは。さまざまな独立の形を前編と後編にわたってご紹介します。
今回スポットを当てるのは、‘23年5月にご自身のサロン『Sourire』をオープンさせた宇野陽輔さん。専門学校を卒業して以来、25年間ずっと勤め上げたサロンから独立して夢を叶えました。
前編では独立を意識したきっけや、開業にこぎ着けるまでのご苦労や失敗談などをご紹介します。
お話しを伺ったのは…
Sourire代表
宇野陽輔さん
1997年に都内の理美容専門学校を卒業後、横浜市内のサロンに就職。長年にわたってスタッフの育成やサロン運営に携わる。2022年5月20日、横浜市内にプライベートサロン『Sourire』を開業。
居心地がよかったものの消えないモヤモヤ。コロナ禍が独立を後押し!
――宇野さんが美容業界に入ったのはどんなきっかけですか?
実家が床屋で両親が理容師なんです。両親の働く姿を見ていて、自然に自分もこの業界に進みました。実家は弟夫婦が跡を継いでいて、両親も一緒に働いています。
――宇野さんは専門学校を卒業して、美容室に就職。転職はなさったんですか?
転職はしていません。横浜市内にあるサロンに25年間、勤めていました。
僕が就職したのは、ちょうどオーナー夫婦がサロンを開業するタイミングだったんです。オーナー夫妻がスタイリストそしてアシスタントの僕の3人でスタートしました。オーナー夫妻もすごくいい方たちだし、僕が1人目の美容師だったせいもあって、すごく居心地がよかったんです。
――25年の間に独立とか転職は考えませんでしたか?
スターティングメンバーだったこともあって、「ここで定年まで勤めるのもアリかな」という想いがありました。でも、下の子たちに「独立できるようにがんばれよ!」って言ったところで、いちばん古株の僕が店にいると後輩たちは独立しにくいのかも…とも感じていました。
40代になって、新たなチャレンジをしたいという想いが芽生えたのも事実です。50歳で独立するとしたら、融資の面で不安も出てくるだろうから、独立する最後のチャンスかなと覚悟を決めました。
後輩たちは何人も転職したり、独立したりしていきました。その様子を見ていて「こんな形で店を辞めたくないな」とか、「こんなに円満で、みんなに喜んで送り出される形がいいな」とかいろいろ考えましたし、参考になりました(笑)。
――宇野さんに独立を決心させた、最後のひと押しはなんですか?
コロナですね。元気だった方が突然亡くなったり、思い通りにならないことが多かったり。人生は一度きりですから、後悔しない生き方をしたい…と思いました。
それに奥さんの後押しもありました。実はそのとき、僕の貯金はゼロだったんです。強いて言えば500円玉貯金をコツコツしていたくらいで(笑)。奥さんに「独立したい」と相談したら、「あなたがこれからがんばって貯金をしたら、その金額と同じ額だけ投資してあげる」って言ってくれたんですよ。それからがんばりました(笑)。1年も経たないうちに100万円貯まりました。やればできるものなんですね(笑)。
頼りになったのは人との絆。特に参考にしたのがオーナーのアドバイス
――開業までのザックリとしたスケジュールを教えてください。まず、オーナーに「独立する」と話をしたのはいつですか?
‘21年の2月くらいですね。オーナーも薄々と感じていたとは思います。「来年の春くらいに店を持ちたい」という話をしました。独立すると決めてから、開業コンサルタントを紹介してもらいました。まったく何も分からない状態だったので、心強かったですね。彼から「希望する物件はなかなか出てこないから、早めに探した方がいい」と言われたので、資金を貯めつつ何軒も不動産屋をまわりました。
――このサロンの場所に横浜市都筑区の北山田を選んだのはなぜですか?
前のサロンが横浜市営地下鉄沿線にあったので、お客さまが通いやすくて、自宅からも近いエリアがいいなと思っていました。田園都市線沿線も探しましたがなかなか「ここだ!」という物件に出合えなくて。奥さんもちょいちょいネットで検索してくれていて、「北山田に物件が出てるよ」って教えてくれたんです。市営地下鉄沿線だし、広さも家賃も理想通りでした。
‘22年に入ってすぐに賃貸契約を結んで、4月後半から内装工事に入りました。前のサロンは4月20日に退職したので、ゆとりがあるかと思ったら、開業の前にゴールデンウィークがあって、逆にドタバタしちゃいました。連休中は業者も何もかもが止まるので、休みに入る前にすべて終わらせておく必要があったんです。
――働きながら開店準備をするのは大変だったでしょう?
オーナーがすごく気を遣ってくれて、「準備に時間がかかるだろうから、お客さまに迷惑がかからない範囲で店を抜けていいから」って言ってくれたんです。おかげで調度品など、自分の目で確かめて発注することができました。
――すごくいい方ですね。
オープンにあたって、たくさん相談に乗ってもらいました。サロンの設計図を見てもらって、「動線としてどう思います?」とか、「こんな風に進めているんですけど大丈夫ですか?」とか、サロンを開業した先輩として、いろいろアドバイスをもらいました。
ほかにも、先に独立した後輩たちにも助けてもらいました。事業計画書を作るにも、見たことも書いたこともないので途方に暮れていたら、「僕のでよかったら参考にしてください」って。本当にたくさんの人にサポートしてもらいました。
――とても素敵なサロンですが、何かイメージするものがあったんですか?
以前から自分が好きなものを画像とかメモに残していたんです。それを見直してサロンの雰囲気やインテリアを決めました。すごく気に入っているのが川崎市にあるカフェで、サロンづくりの参考にしました。
最初はコンクリート打ちっぱなしで、スチール製の棚があるような尖ったインテリアにしたかったんです。奥さんに相談したら、「確かにカッコいいけど、初めて来店するお客さまが入りにくいんじゃない?」と言われて、「なるほど~」って考えを改めました(笑)。僕には「これじゃなくちゃイヤだ!」というような強いこだわりはありません。ただシンプルであればいい。内装が終わって蓋を開けてみたら、ほどよい感じになっていました。
宇野さん流! 起業を成功させるための3つの努力ポイント
1.みんなから祝福される退職を心がける
2.起業の先輩に、分からないことはとことん聞きまくる
3.自分の好きなものを画像やメモで残しておく
専門学校を卒業してからずっと勤めてきたサロンを辞め、ご自身の理想のサロンをつくった宇野さん。お話しを伺っていると、言葉の端々から前サロンのオーナーを始め後輩スタッフ、そして奥さまなど周りの方たちへの感謝の気持ちが伝わってきました。
後編では、店舗の名前『Sourire』の由来、宇野さんが求めた理想の働き方、起業を考えている方たちへのアドバイスについてご紹介します。
撮影/森 浩司