自分をとことん分析して失敗から学ぶ。スタイリストになっても勉強は続く!【六本木美容室 常法寺一輝さん】#2
新人時代をどう乗り越えてきたのかを伺うこの企画。前編に続いて、六本木美容室 白金店のスタイリスト、常法寺一輝さんのインタビューをお届けします。
前編では、美容師になるきっかけになったサロン「OCEAN TOKYO」に入社することはかないませんでしたが、それでも前向きに努力を続ける決意をした姿をご紹介しました。後編では、アシスタントからスタイリストになるまでの技術の壁をどう乗り越えたのか、スタイリストになってから顧客を増やすためにやっていることを伺います。
お話しを伺ったのは…
六本木美容室 白金店
スタイリスト常法寺一輝さん
2019年3月に早稲田美容専門学校を卒業。4月に六本木美容室に入社。アシスタント修行を経て、2022年4月にスタイリストデビュー。現在、入社5年目。
不器用な自分を自覚してから「逃げない」ことを決意
――アシスタントのときは、どんな風に技術を学んだんですか?
六本木美容室はカリキュラムがしっかり決まっています。与えられた課題をしっかり練習してテストを受けて、パスしたら次の課題…という具合に進んでいきます。僕はほぼそのテストに落ちているんです(笑)。
テストに向けてちゃんと練習しているんですが、不器用なので人一倍、時間がかかるんですね。先輩たちがお客さまにやっている技術を観察して、営業時間後に自分でやってみる。それでも分からなければ、先輩に「どうやっているんですか?」って教わります。
――ご自身のことを不器用だと思うんですか?
思ってます。高校の時は友だちよりヘアセットが上手かったので、専門学校に進むときも「できるタイプ」だと思っていました。でも周りにはもっと上手い子たちがたくさんいて、僕は不器用だと自覚しました(笑)。学校でも点数が取れませんでしたから。
アシスタントになって、周りと同じ練習をしているのに上達しない。毎日のように怒られていました。技術的なことは練習すれば何とかなりますけれど、「気が利かない」って言われるのは困りました。どうやって気を利かせればいいのか分からなくて。
――確かに「気を利かせる」のは、どう学べばいいのか分かりませんね。
よく動いて気が利く先輩がいて、その人のやることを観察しました。「こういうときに、こうすればいいのか」とか、何となく分かるようになりました。
カットモデルをサロンに呼んで、シャンプーからカットまで全部一人でやるときにも、気づくことが多かったですね。「このときに、コレを用意しておくと助かるな」とか、実際に自分でやってみて分かることもあります。
――辞めたくなったりしませんでしたか?
やっぱり隣の芝生は青いですね(笑)。アシスタントとして働いている頃、同級生たちは大学生で夜遅くまで遊んだり、アルバイトしてお金を稼いだりしていました。彼らを見ていたら、自分もサラリーマンになったら、もっとラクだし稼げるんだろうな…なんて思っていました。
――辞めずに踏みとどまったのはなぜ?
代表の小松比奈恵の存在が大きいですね。目指すべき理想の美容師が近くにいたので、壁に当たったときは小松の美容師としての姿を見て、足りない部分を吸収しようと思っています。
――どうやって壁を乗り越えましたか?
練習しかなかったですね。ラクな方に進めば、そのときはいいでしょうが、後々辛くなることに気づいてから、逃げずに問題と向き合うことにしました。
技術的なことは人一倍練習する。気の利かなさは先輩がやっていることを見て勉強する。これに限ります。
――逆にアシスタント時代に楽しかったことや嬉しかったことはありますか?
シャンプーの指名をいただいたことですね。お客さまに名前を覚えていただいたことが嬉しかったです。美容師として少し認められた気がして、仕事も楽しくなりました。
ゴールが見えるまで考え抜く。そこから先は行動あるのみ
――スタイリストデビューはちょうど2年前。いかがですか?
デビューしたばかりの頃は、「やっとスタイリストになれた!」という嬉しさしかありませんでした。2年目になって、ようやく「スタイリストはゴールじゃなくて、やっとスタートラインに立てたんだ!」ということに気づきました。今以上に自分の力を伸ばすには、アラをつぶしていくしかないですね。順調ではありますが、やらなくてはならないことがたくさんあります。
――先輩たちのアドバイスとかあるんですか?
それはないです。アシスタントの時は先輩たちが見ていてくれましたが、今はもう自己分析するしかありません。
カウンセリングのどこを工夫をすればよかったのかとか、技術的な問題があるならSNSをチェックして勉強するとか。お客さまを幸せにしたくて美容師になったのに、数字がついてこない。初めて指名してくださったお客さまを次につなげるのが大事なんですよね。
逃してしまったお客さまに対して、どこが悪かったのかをカルテにメモすることもあります。失敗することは悔しいし、イヤな思い出になるので、メモしなくても記憶に残るんですよ。だから次に生かせる。
オーシャントーキョーの高木琢也さんと三科光平さんが「こんなときはどうしていますか?」的なインタビュー記事を読んで、参考にすることもあります。尊敬している人たちの言葉なので、すんなり入ってきます。
――自己分析は自分を俯瞰で観察しないと難しいことですよね?
友だちが僕と同じような悩みを相談してきて、その解決法を考える…ってイメージすると、周りがよく見えてきます。答えが見つかったら、あとはそのゴールに近づくために行動を起こす。以前はただ悶々と悩んで、プライベートでも仕事のことばかり考えていましたが、最近は気持ちの切り替えができるようになりました。ストレスがだいぶなくなったと思います。
――どなたかに相談しないんですか?
相談できない性格なんですよ。それでも、最近は打ち明けられるようになりました。言えばラクになるのが分かったんです。「大丈夫だよ」って言われるだけで、安心できるし、ポジティブになれる。昔は「こんなことで悩んでいるの?」みたいに思われるのがイヤで、弱みを見せたくなかったんでしょうね。しょうもないプライドでした。
――美容師になって良かったことを教えてください。
人生の節目に携われることです。成人式や結婚式のヘアセットなど、お客さまのライフイベントに携わりながら、お客さまの人生にお付き合いできるのは、本当に嬉しいことです。
――常法寺さんが美容師を続けている原動力は何ですか?
もっとたくさんの人を笑顔にしたいことでしょうか。もっとカッコいい髪型を提案したい。自分のカットで喜んでくださる笑顔を見ると、次回はもっとカッコよく、キレイにしようと思えます。お客さまの笑顔が原動力ですね。
――美容師を目指している人にアドバイスをお願いします。
「美容が好き」という気持ちを忘れないでください。たとえ就活で希望したところに入れなくても、美容師になりたい気持ちはあるはず。目的を叶えるためなら、1つのサロンにこだわらなくていいと思います。
常法寺さん流! 壁を突き破るための3つのポイント
1.気が利く人の様子を観察して真似てみる。
2.失敗の悔しさから学んで、次の接客に生かす。
3.抱えきれない悩みは先輩に相談して、受け止めてもらう。
スタイリストになって2年経った今でも先輩たちの技術を観察し、SNSの動画を観るなど勉強を欠かさない常法寺さん。今はお客さまを幸せにするのはもちろん、売上の数字にもこだわっていきたいそうです。
撮影/森 浩司