憧れのヘアメイクアーティストを徹底リサーチして、自ら師匠にアプローチROIヘアメイクアップアーティスト榎田茉季さん♯1

雑誌やタレントのヘアメイクに憧れるけど、どうやったらなれるの?と思っている方も多いのでは? 今回は、有名ヘアメイクアップアーティスト森ユキオさんのアシスタントを経て、ヘアメイクとして活躍中の榎田茉季さんにインタビュー。前編では、榎田さんがどうやってヘアメイク事務所に入ったのか、デビューするまでのアシスタント時代について伺います。

お話を伺ったのは…
ROIヘアメイクアップアーティスト
榎田茉季さん


山野美容芸術短期大学卒業後、静岡の美容室に4年勤務。2019年ヘアメイクになりたいという思いが募り、森ユキオ氏率いるヘアメイク事務所ROI入社。2年間のアシスタントを経て2021年9月ついにヘアメイクとしてデビュー。トレンドを押さえたナチュラルなメイクが得意。ジュニア誌キラピチからCLASSY.、STORY、Marisolなどの女性誌、タレントなど幅広く活躍中。

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美容師時代から積極的にメイクを学んだ

「静岡での美容師時代は、休みの日に入客することも。でも好きなことだったし、それが普通だと思ってました」

――まずは美容業界を目指した理由を教えてください。

小さい頃からリカちゃん人形の髪をとかして遊ぶのが大好き。母親が美容院に行くときは必ずついていき、子どものときからずっと「美容師さん」になりたいという夢がありました。ヘアメイクという仕事を知ったのは、母親と見た「妖怪大戦争」という映画がきっかけでした。

そのときは美しくなるメイクというより、妖怪人間になれる特殊メイクってすごいなと。だんだん大人になるにつれ、特殊メイクのアーティストは狭き門で、もしかしたらAIの進化で特殊メイクの仕事はなくなってしまうかもしれないと知り、まずはきれいになるヘアメイクを学びたいと思うようになりました。

――ヘアメイクを学ぶためにどんな進路に進んだのですか?

山野美容芸術短期大学に入学しました。山野には専門学校もあるのですが、わたしは美容分野だけでなく英語や国際コミュニケーションなども学べる短大に進みました。というのは、親族に教育関係者が多く、美容業界に進みたかった自分が異質だったんですよね。両親はそれほどでもなかったのですが、堅い祖父母を説得させるために短大という道を選んだということもあります。でも短大生活は、とても楽しく学生生活の中でもいちばん充実した2年間でした。

――短大卒業後の進路は?

最初は東京で美容師になるというこだわりがあったんですが、就活でメイクに力を入れている美容室が静岡にあることを知り、縁もゆかりもない静岡に就職しました。当時東京にも2店舗あったのですが、本社のある静岡の方がいろんな先輩からアドバイスをもらえるし、社長に覚えてもらうのも静岡のほうが有利かも。スタートが東京でも静岡でも今後に影響なしと判断して、希望勤務地はどこでもOKという条件で入社しました。

――入社後、ヘアメイクのお仕事はできたのですか?

はい。入社2年目くらいから静岡のテレビ番組でアナウンサーの方のメイクをしたり、関西コレクションのヘアメイクのアシスタントをしたり、わりといろいろさせてもらいました。ふだんからメイク検定の講習に出たり、先輩がヘアをやっているときにメイクで入らせてもらったり、作品撮りでヘアだけじゃなくてメイクにこだわってみるとか、そういう行動をとった上で「ヘアメイクの仕事がやりたい」と発言して、それを実現することができました

――美容師の新人時代に大変だったことは?

だんだん自分が思い描いているヘアメイク像とのギャップが出てきて、悶々としていた時期が辛かったですね。与えられた世界でちょっとがんばったから、入社2年目で関西コレクションのアシスタントに呼んでもらえた。でも3年目には、わたしがやりたいのは先輩にピンを渡すだけじゃない。自分の作品になるようなヘアメイクの仕事がしたいと思い始めていたんです。

美容師としても大型店舗でインカムをつけて、サロン全体を見ていたので楽しくないわけじゃなかったんです。でも今後スタイリストになって、自分のお客様も増えていったら、ヘアメイクの仕事を増やすのは難しくなる。やっぱりヘアメイクの師匠に付きたいという思いが強くなりました。

憧れているヘアメイクの師匠が全員森さんだった

「ヘアメイクになる方法を知らなかったので、まずは森さんのサロンに電話しました」

――ヘアメイクになるためにどんな行動をとったのですか?

サロンに届く雑誌のクレジットを見ては、そのヘアメイクさんのインスタグラムを探して、この人はどんな仕事をしているのか、アシスタントを募集していないかをチェックしていました。美容師になる前から野口由佳さんや林由香里さんなど憧れのヘアメイクさんを追いかけていて、この方たちの師匠は誰なんだろう?と調べていったら、全員の師匠が森ユキオさんだったんです。あ~、この森さんってすごい人なんだ。この人に付きたいと。

――そこから森さんにアプローチするわけですね。

でも師匠に付くにはどうしたらいいの? その方法が分からなかったので、まずはホームページでサロンを探して、ヘアメイクを募集していませんか?と問い合わせたんです。その電話でわたしの連絡先を伝えたら、その後、森さんが私のインスタをフォローしてくださったんです。私は森さんをフォローしていなかったのに…。

――それはびっくりしますね。

はい、びっくりしました。たぶん珍しい苗字なのですぐに分かったんだと思います。しかも鍵垢のプライベートアカウントをフォローしてくれて。慌てて美容師時代のアカウントでフォローを返したらそっちもフォローしてくださり、後日面談することになりました。

――なにか試験みたいなものがあるのですか?

試験はとくになかったのですが、事務所近くのカフェで「面接」という名の森さんの話をひたすら2時間聞くことに。最後に「いまの話を聞いてもやりたい?」と聞かれて、もう緊張しながら「はい。ぜひお願いします」と答えたときから、ヘアメイクアシスタントの生活がスタートしました。

初現場のロケバスでメイク道具を派手にひっくり返す

榎田さんのブックの作品。

――アシスタント時代はどんなことをするのですか?

アシスタントに付いたのが2019年11月。師匠はいわゆる有名ヘアメイクだったので、それから2年間ほぼ休みはなかったですね。現場では師匠がつくるヘアメイクを見て学ぶわけですが、現場では気遣いの方が大事だったりするので、師匠が次に何が必要で、どうやったら動きやすくなるかをヘルプするのがメインの仕事でした。それが身についてきた頃には、モデルさんの後ろ髪を巻いたり。でもそれで師匠の邪魔をしてしまうことも…。

ヘアメイクの師匠とアシスタントの関係性は、オフィスの上司と部下とはちょっと違いますよね。その場でストレートに注意するヘアメイクさんもいると思いますが、わたしの場合は、メイクルームで他のスタッフがいないときにちょっと注意されたりすることが多かったです。現場では目力で訴えられるのみで、あ~、この後、事務所に帰って叱られるなと感じることもしばしば…(笑)。

――なにか失敗談はありますか?

初めての現場がロケバスの中でメイクをする仕事だったんです。初めてなので「スプレー」とか師匠が必要なものを口頭で言ってくれるんですが、狭いバスの中で無理やり取ろうとしたらきれいに並べてあったメイク道具を派手にひっくり返してしまって…。初日で、しかも有名モデルさんの現場だったので頭が真っ白になったのを今でもよく覚えています。

――そのときのヒヤヒヤが伝わってきますね。アシスタント時代、榎田さんの練習の場は?

師匠が空いている時間にモデルさんを呼んだり、アシスタント同士で練習してチェックしてもらっていました。わたしがいちばん苦戦したのは、ブローとアイロンでした。美容師を経験していたので、自分の癖がついていて師匠に教わったことが素直に入ってこないんですよね。だから、それまでやってきたのをゼロと考えて、やりにくくても時間がかかっても師匠のやり方でやっているうちに、自分のものにすることができました

――デビューの条件みたいなものはあるのですか?

ROIの場合は、アシスタントをだいたい2年やってデビューします。デビューが近づいてくると、その後、営業などに持っていく「ブック」を作るための作品撮りがあるのですが、自分でテーマを決めて、それに沿ったヘアメイクをして、師匠にチェックしてもらいます。だんだん師匠との現場が減り、先輩とふたりの現場を経験して、自分ひとりの現場デビューとなります。

後編では、デビュー初仕事や事務所所属のメリット、新人時代をどう過ごしたらいいかなど伺います。

撮影/大崎聡
取材・文/永瀬紀子

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