仕事と自分を見つめ直してたどり着いた、“二拠点”という選択肢。 私の履歴書 【アイリスト MAIさん】#2
現在、東京・表参道にある眉とまつ毛の専門サロン「CITY eyelash&eyebrow(シティ アイラッシュアンドアイブロウ)」と山形・鶴岡にあるエステサロン「VENUS(ヴィーナス)」との“二拠点”にてサロンワークを営むアイリスト・MAIさん。東京・表参道にある大人気サロン「manhood(マンフッド)」のアイ部門に所属し、満ち足りた日々を送っていましたが、ある疑問から、自らその環境を手放すことに決めました。
一念発起して海外へ飛んだMAIさんが仕事と自分の在り方を見つめ直していく姿、現在の2拠点生活を選んだ理由や実際のライフワーク、そして今後の展望などを、後編ではお届けします。
「もっといい時間」を求めて。向かった先は太陽の街・スペイン
――スペインへの渡航を決めた理由を、改めて聞かせてください。
施術中に過ごすお客様との時間を「もっといい時間」にしたいと思ったからかな。お客様は、予約の取れない人気のアイリストに施術してもらうためだけに来るわけではないと思うんです。技術は前提として、そこで過ごす時間もお客様にとって大切な時間。だから私は一人ひとりのお客様ともっと深く向き合って、その時間をより良いものにしたかったんです。
そのためには、一度現環境を手放して、今後の拠点も含め、もっと広い世界であらゆることを見直す必要がありました。その後、拠点を海外へ移すことすら視野に入れていたくらいです。
――なぜスペインだったんですか?
理由はいくつかありますが、まずは、育った環境と真逆に近い環境だったからかな。私が生まれ育った山形県鶴岡市は、曇りが多くて日照時間が短い気候でした。一方スペインは「太陽の街!」って感じで、晴れの日が多い土地。また、英語圏じゃないうえに、留学への手続きも比較的難易度が高かったので、自分がどこまでできるのか試すのにもいい機会だと思いました。難しい手続きもクリアして、言葉も簡単には通じないような今までと正反対の環境でもやっていけたら、アイリストとしての仕事さえできればどこでも生きていけるかな、と。
――実際にスペインで暮らしてみて、いかがでしたか?
とにかく、全体的に生活がゆったりしていました。店舗が全く開いてない曜日があるなど、諦めなきゃいけないことが多かった。けれど同時に、それは“良い意味での諦め”だとも感じたんです。反面、東京はあらゆることが便利すぎる。自分もお客様に対して同じだけの便利さを与えようと思うと逆に疲れてしまって、100%のコンディションで仕事をするのが難しくなってしまうのだと改めて思いました。
また、実際に行ってみて感じたのが、スペインは意外と田舎だったということ。人が多く集まるのが大型の商業施設などではなく、公園や浜辺といった、自然が豊かな場所なんですよね。そんな、日々の中で自然を感じられる暮らしの方が自分にフィットするということにも気付きました。
――海外へ拠点を移すことも視野に入れていたということですが、渡航先でもアイリストの仕事はされていましたか?
条件付きで就労できる長期留学ビザを取っていたので、Instagramで募集したお客様や、留学先の友人たちなどに、少しだけしていました。最初の頃こそスペインのサロンに入ろうと思い動いていましたが、現地のサロンでの働き方が自分とは合わないと感じて辞めることにしました。あちらのサロン運営は基本的にゆったりとしていて、仕事に対する温度感が私とも、また日本とも違ったからです。
やっぱり仕事が好き。だから、私は「二拠点生活」を選ぶ
――スペインでの経験がMAIさんの仕事に与えた影響には、どんなことがありましたか?
まず、私は「アイリストの仕事が好きだ」ということに気づけました。そして、今後自分がどんな働き方をしたいのかがより鮮明になりました。
生活環境や仕事の仕方を見直し、まず自分のコンディションからしっかり整えながら働きたい。そしてそのためには、お金を払って便利な生活をするだけじゃなく、自然や、ゆったりした暮らしの不便さも楽しむ心の余裕が必要だと感じました。
自分が本当に欲しかったもの――それはお客様と1対1で深く向き合える、いい時間を過ごすことだったんです。
半年間という短い期間でしっかりイメージできたのは、思い切ってスペインという正反対の環境に身を置き、正反対の価値観に触れることができたから。本当に、行って良かったと思います。
――そのために、帰国した後はどのような取り組みをされましたか?
仕事の時間の“質”を上げるために、自らの暮らしをもっとゆったりとさせたい――その実現のために選んだのが、東京と実家がある鶴岡との“二拠点”でのサロンワークです。
幸い、アイリストという仕事は予約を上手に管理すれば、自分を整える時間を作ることも可能です。自然豊かな鶴岡で過ごす時間で自分を整え、鶴岡はもちろん東京でのサロンワークでもお客様とより良い時間を過ごしながら、より良い仕上がりを提供する。私にとっては、それが仕事と生活のちょうどいいバランスになると思ったんです。
――二拠点生活を始めてから、大変だったことなどはありましたか?
むしろ良かったことしかないです! 仕事と生活を上手にマッチさせることができていると実感しています。
――東京と山形・鶴岡との二拠点でサロンワークする中で、両者の違いは何かありますか?
お客様の、お店の探し方が違いますね。東京では、お客様がご自身でお店を探して足を運ぶことが多いと思いますが、鶴岡はもっぱら口コミなんです。私は母が営んでいるエステサロンの一角を借りていることもあってあまり実感していませんが、強いて言えば最初の顧客獲得が大変かもしれませんね。今でも、お客様はゆっくり少しずつ増えています。
働き方は、もっと自由でいい。仕事でも「楽しい」を極めた時間を
――二拠点生活は、今後も続けていきたいと思いますか? 今後の展望などもあれば、合わせて教えてください。
続けていきたいですね。パートナーも鶴岡に移住して職に就いていますし、いずれは子どもも欲しいので、実家のある鶴岡は子育てもしやすいと思っています。
また、将来的には東京でお店を出したいんです。
今までは1人でやってきましたが、その際はスタッフを抱えてやってみたいと考えています。
――それは、何か心境の変化があったのでしょうか?
自分を満たすことができて、それを周りにも還元したくなったのかもしれません。もちろん、自分の心地よさが他人には当てはまらない場合ももちろんありますが、私自身が今、とてもいいバランスで仕事も生活も楽しめているので、そのヒントを伝えていきたいです。
また東京にお店を出したとしても、私は二拠点生活を続けるつもりです。「普通、こうだよね」というような従来の常識に縛られずに、働き方はもっと自由でいいはずだと思います。
――これから美容業界を目指す方へ、アドバイスをお願いします。
私は、これといってやりたいことがない中で流れに身を任せていたら、アイリストという職業に辿り着きました。そこから試行錯誤を重ね続けて、今やっと自分らしい働き方が見えてきたところ。だから、大層な志とか、そんななものはなくても大丈夫です。
それよりも、自分の仕事における「楽しみ」を突き詰めていってほしい。そうすると、「楽しよう」とか「ずるいことしよう」というようなことが、とてもつまらないものに感じられるようになるはず。自分の人生だから、諦めたり腐ったりしたらもったいないです。自分に嘘をつかず、いろいろと試してみてください。
――MAIさんにとって、「働く」とは?
「楽しいこと」を「生み出す」こと。私は、自分を楽しませるために働いているんだと思います。
寝ている時間と同じくらい、仕事に費やす時間って長いもの。せっかくなら、その時間をもっといい時間、楽しい時間にしたいですよね。
これからも自分の楽しみに妥協せず、むしろその精度をもっと上げながら、さらに楽しんで働いていきたいです。
MAIさんの成功の秘訣
1.自分の心の声と向き合う
2.必要なら、快適な環境でも手放す勇気を持つ
3.常識にとらわれず、自分が楽しめる働き方を模索する
取材・文/勝島春奈