ネイリストとして再出発。そして、独立開業へ 私の履歴書 【サロンオーナー・ネイリスト marinaさん】#2
幼い頃から美容の世界に興味を持ち、学生時代にはその楽しさに目覚め、夢と希望を携えて足を踏み入れたヘアメイクへの道。しかしmarinaさんを待っていたのは、思い描いていたものとは異なる現実の数々でした。
その後、自分が「本当にやりたかったこと」を仕事にするため、ネイリストへの転身を決意。実行に移すこととなります。
後編では、ネイリストになるまでの過程やデビューしてからの日々、そして独立して自らのネイルサロン「utloi(うつろい)」を開業するまでを語っていただきました。
「自分らしい働き方」とは、一体何でしょうか?
やっと出会えたネイルサロンで、修行を積み重ねる日々
――再び転職先のネイルサロンを探し始めたmarinaさんですが、順調でしたか?
それがそうもいかず、10社以上落ち続けました。下北沢のサロン1件でしかもたった3カ月のみという、サロンワークの経験がほぼないに等しかった経歴も苦戦した理由だったと思います。
そして、「ここでダメだったら、もう実家に帰ろうかな」という思いで最後に訪ねたのが、練馬にある「Step by Step(ステップ バイ ステップ)」というネイルサロンでした。
しかし、ここで自分のニュアンス系のネイルアートのセンスやスキルを目に留めてもらうことができて、社員としての採用が決まったんです。
――やっと所属するサロンが決まったんですね! そこでは、最初からネイリストとして施術されたのでしょうか?
いいえ。7、8カ月くらいかな、ケアの施術のみなどといった他のネイリストのアシスタントや雑務をしながら、営業後に施術の練習をさせてもらっていました。
サロンワークの経験不足から、アートのクオリティは高くてもスピードがなく、そこがネイリストとしての私の課題だったからです。決められた時間内で、お客様の施術を終える必要がありますから。その期間も、きちんと給与はいただいていました。
入社したサロンがネイリストを育てる方針のサロンだったのは、本当にありがたかったです。
その後、サロンのオーナーや店長からのお許しをもらい、晴れてネイリストとしてデビュー、お客様の施術に入らせてもらうようになりました。
ネイリストとしてのキャリアを積み上げ、30歳で独立へ
――ネイリストになってからの日々は、いかがでしたか?
雑誌やInstagramなどを参考にしながら自分がやりたかったニュアンス系のデザインや技術を勉強しつつ、綺麗めでコンサバティブなデザインも合わせて勉強しました。基本的にはお客様のニーズに合わせることが前提なので、自分の引き出しを増やして提案力や対応力を磨くためです。
また、商材の仕入れを担当していたので、流行をしっかり押さえたうえで、新しい商材も積極的に取り入れていました。
――marinaさんの努力が伺えます。印象に残っているお客さんはいましたか?
毎回、絵や写真などを持って来られては、それを描いてほしいとリクエストされるお客様がいました。施術の終わりに「次はこれをお願いします」と、次のリクエスト用の絵や写真を見せて“次回予告”されることもあって(笑)。
時間内に納得できる仕上がりにするため、またお客様がいらっしゃるまでの間に、家でデザインを練習することもありました。毎回刺激になりましたし、結果としてスキルアップにつながったので、とても感謝しています。
――現在は独立されていますが、独立を考えられたきっかけなどはあったのでしょうか?
実は、入社時の面接の時に「将来的に独立を考えていますか?」と聞かれていたんです。思えば、これがきっかけといえばそうなりますね。そこでゆくゆくは独立することを意識し始め、「30歳までに自分のお店を持とう」と決意しました。
だんだんとお客さんからの指名も増えて自信もついてきたので、28歳くらいの時にお店にも改めて独立したいという旨を相談し、許可をもらいました。
しかし、その頃くらいにちょうどコロナ禍に入ってしまって、独立のタイミングとしてはあまり良くない状況になってしまい……。結局2年くらい伸びて、30歳になる年の5月に独立する運びとなります。お店には、6、7年ほどお世話になりました。
場所は、前職のネイルサロンで指名してくださっていたお客様も通いやすい、西武池袋線の保谷駅近くに開業しました。
ネイリストに転身し、独立も達成。「自分らしい働き方ができています」
――ネイリストに転身し、さらに独立までされたmarinaさんですが、転身してよかったと思いますか?
本当に良かったです!
まずネイリストに転身したことで経済的に安定したので、ヘアメイクのアシスタントをしていた頃と比べて気持ちに余裕が生まれました。
開業に必要な準備や手続きはそれなりに大変でしたが、自分で予約をある程度管理できるのも独立することのメリットです。暮らしに必要な分はきちんと稼ぎつつ、自分の時間も大切にする。そんな働き方がしやすくなったと実感しています。
――marinaさんのネイルサロン「utloi」の、名前の由来を教えてください。
ネイルの寿命は大体1カ月程度ですが、そんなネイルに対して“儚いもの”という印象が、自分の中にずっとありました。同時にそれは、日本のように四季があり、それに伴う様々なイベント事がある国にぴったりだとも思ったんです。
日本はネイルアートの技術が高いと世界的にも評価されるようになったのは、四季やイベントなどをはじめとしたいろんな“うつろい”が暮らしの中にあったから。そして、それに寄り添ったデザインを提案し続けた結果なのではないか、と考えました。
そんな四季の“うつろい”や心の“うつろい”といった、日々の変化やその時々の心境に寄り添える、そんなネイルアートを提供していきたいと思い、このサロン名に決めました。「utloi」と書いて「うつろい」と読む、造語です。
――marinaさんが施術をする上で、大切にされていることはありますか?
ネイルアートとは、生活において絶対必要不可欠なものではありません。そのうえ、価格も決して安くはない。いわば「自分へのご褒美」のようなものだと思うんです。
そんな「自分へのご褒美」のための大切な数時間を預けていただくのが、私たちネイリストです。お客様にとって、しばし日常を忘れられるような癒やしを感じられる時間となるように、お客様1人1人に寄り添った施術を心がけています。
施術時間の最初から最後まで、完全に個室でお客様と私とのマンツーマンという環境にしているのも、このためです。
――ヘアメイクの世界からネイリストへ転身し、さらに独立開業まで成し遂げたmarinaさんから、今後、美容業界を目指す方々へアドバイスをいただけますか?
個人的な一意見になりますが、「共有したい欲」が必要な職業だな、とつくづく感じています。
具体的には「自分の技術や知識を、他の人に提供したい」という意識が根底に必要だと思うんです。自分にとって興味があるだけでは、自分に還元した時点で満足して終わってしまうな、と。
同じ専門学校でエステの技術を勉強していた子の話ですが、学んだことで満足し、その後全く別の仕事に就いた、という例もあります。
自分が得た新しい知識や技術を、つい誰かに教えたくなってしまう、提供したくなってしまう。そんなマインドがある人は、きっと美容の仕事を目一杯楽しめると思います。
――marinaさんにとって、「働く」とは?
自分の居場所や自分の役割を、日々再認識する場です。
私が思うネイルの素敵なところは、お客様の反応がその場でわかることです。「キレイ!」や「かわいい!」という言葉やお客様が喜んでいる姿を見ていると、私も嬉しくなって自己肯定感が上がります(笑)!
加えて、1日に何人ものお客様と対面でお話しするのは楽しく、私自身の息抜きにもなっています。一人の時間も大切ですが、それとのバランスが取れているな、と。
ヘアメイクの世界に挫折したのはつらかったけど、思い切ってネイリストに転身して、がんばり続けて本当によかった。今、心からそう思います。
marinaさんの成功の秘訣
1. 本当にやりたいことを追い求める姿勢
2. 地道でもコツコツ努力し続けること
3. 「共有したい欲」が根底にあること
撮影/内田龍
取材・文/勝島春奈
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