iiiの経営方針から学ぶ! スタッフが長く定着する働き方&学生に選ばれるサロンのポイントとは?【iii代表取締役 寺村優太さん】#2
昨今、学生がサロンを選ぶ基準は何なのか? サロン側が求めている人材を確保するために取り組むべきこととは? それらのお悩みについて、美容業界にある問題点を改善し、より良くしていくために立ち上げたiii(スリー)代表取締役の寺村優太さんにインタビュー。
前編では、スタッフの健康管理が一人一人の生産性を上げ、会社の事業発展につながるというテーマのセミナーのもと、寺村さんがiiiで実際に行っている健康管理について伺いました。後編では、サロンでの働き手に充足感を持ってもらうことを目指しているⅢの取り組みをもとに、多くの各サロンが多くの志望者を集めるために取り組むべきことについて深掘りしていきます。
お話を伺ったのは…
iii代表取締役 寺村優太さん
山野美容専門学校を卒業後、都内のサロン勤務を経てフリーランスに転身。「髪質改善」にいち早く注目したことで話題を集め、数多くの著書を執筆。2020年には、株式会社iii(スリー)を立ち上げ、 VRやAIを駆使した教育改革やプロダクトのプロデュース・開発に注力。さらには、採用・求人、集客、SNS活用法のコンサルティングや講習活動など、活動は多岐にわたる。
iiiの起業背景から取り組みまで。全員がチームとして働ける仕組みづくりを考案
――はじめに、iiiを起業した経緯をお聞かせください。
僕は昔から何か気になってしまうと放っておけないんです。僕が「髪質改善」へフォーカスしたのもその性格から。常々、デザインを生み出したり作ったりする美容師はたくさんいるのに、クセに悩む人にはサロンが販売している商品をすすめるくらいで、アプローチが狭過ぎると感じていました。一例に髪質改善を挙げましたが…ほかにも気になる点はいっぱいありました。
僕にとって、美容師はとても魅力的な仕事です。だからこそ、この業界を良くしていきたいと思い、iiiを立ち上げたのです。
――現在、iiiが行っている主な取り組みを教えてください。
美容業界を良くしていくために、iiiが向き合っている軸は「教育・働き方・所得」の3つ。この3つの安定力がないために、美容師の道を途中で諦めざるを得ない人が続出しているのが現状なんです。
女性で言えば、ライフステージが変わるとともに働く環境も変えなければいけなくなったり、働き方が変わると所得が減ってさらに現場との距離も離れてしまったり…。女性に限らず、今まで美容業界で働いている人たちがさまざまな変化により続けられなくなったところを見てきました。
iiiでは、スタッフ一人一人が気持ちよく、楽しくイキイキと働ける場所を作るために、3つの軸を決めて取り組んでいます。
――3つの軸について詳しく伺います。
まずは、各方面からのアプローチ方法を教えてください。
教育については、知識を得るための方法としてVR教育の導入を専門学校やサロンに勧めています。
働き方でいうと、美容師の在宅化を可能にする取り組みを行っています。具体的には、zoomを使用し、後輩のカットをチェックしてもらうような。子どもがいる美容師を例にすると、育休中は子どもを軸に動くのでどうしても現場に立つことが難しいんですね。朝は保育園に送り届け、夕方までには迎えにいかなければいけない…そうなると、わずかな時間の中でしか稼働できませんし、子どもの体調によっては急なお休みも必要になります。美容師は予約ありきな仕事ですから、急なお休みは致命的。それならばと、育休中の稼働できる限られた時間に注目しました。
あとは、所得の問題について。美容師が個人でSNSを発信するのは当たり前の時代になりました。ただ、多くの美容師が就業時間外に行っているにも関わらず、無償で稼働している状態です。発信しないと集客に困りますから、やめるわけにもいかない…そこで考えたのが、「スターズプロジェクト」なんです。
――どういうプロジェクトなのでしょう?
若手の無償の努力を収益化するために、メーカーをスポンサーにつけるプロジェクトです。
ヘアアイロンやドライヤーなどアイテムを使用したセルフアレンジの投稿をしている美容師にメーカーが売り出しているアイテムを支給して実際に使っているところを動画で撮影してもらい、その動画を買い取るという仕組みづくりを試みました。
メーカー側が対象にしているのは若手の美容師なので、人気インフルエンサー美容師への案件依頼に比べても、コストを抑えることもできるため依頼しやすい。さらに、美容師側も今まで無償だったところ、対価がもらえて嬉しいですよね。
サロン側も仕事として与えている業務のため、SNS上での発信方法に対していろいろ指導することでブランド力を保つことができます。美容師はあくまで施術することが本業。本来の業務の重荷にならない方法を考えた結果でした。
各サロンが人材を確保するために必要なことは正当な評価方法と学生を知ること
――iiiは専門学校への教育に携わっている観点から、スタッフに長く定着してもらうためにサロン側がするべきことは何だと思いますか?
今やサロンのブランド力は昔ほど影響していないように感じます。学生に選ばれるために必要なことは、一人一人の伸び代をしっかり把握して評価できるサロンだと思っています。
昔は、売上が高ければ何でも良いという風潮がありました。遅刻をしても許されたり、売上げがあるので少々サボっても許されたり。売上や技術はもちろん大事ですが、サロンが大きくなるには売上や技術力だけでなく協調性、真面目さを感じられる人が必要です。売上ばかりフォーカスされて何でも許してしまう現場は荒れていきます。真面目に働いている人たちは不満に感じますよね。
――解決するためにはどうしたら?
iiiで実際に行っている取り組みをお聞かせください。
iiiでは、努力している人が報われる会社にしたい気持ちから、自己評価と他者評価を組み合わせた評価制度を作りました。
僕は、ちょっとしたズレが人間関係を悪化させ、組織構造を乱すと考えています。例えば、評価項目にある「誠実な対応」は、指摘されたことに対して素直に「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えるのか、態度に表せるのか、当たり前の礼儀ができるかを可視化することができるんです。
――ともに働いているスタッフ同士で評価し合うのは、的確で納得できる仕組みに思えます。
そうですね。出世する人、給料が上がる人の特徴は影響力によって決まります。社内でも社外でも「この人についていきたい」と思われれば、それは影響力があると言えます。いくら仕事ができても「ついていきたくない」と思われる人は影響力があるとは言えませんよね。
――信頼される人を一人でも多く育てることがサロン全体の士気向上につながるのですね。
では、サロン側が人材を確保するために必要なことは何だと思いますか?
学生を知ることだと考えます。
今の学生の多くは昔のように、サロンのブランド力だけで選ばない傾向です。サロン側が理想とする人材を確保するためにはまずは、市場を知ること。つまり、「今」の学生がどんなものに興味があって、どういう勉強をしているのか細かく知っておくべきだと思うんですね。
呼びかけずに学生から来てもらうのが難しくなった今、サロンが「王様」のごとく、偉そうにしていては来てもらえません。学生に来てもらいたいなら、学生の興味や関心があることなどを調べて知っておく。しっかり学生が興味のあるものごとを理解することで、学生へのアプローチ方法も見つかります。
――学生について知るためにどんな方法が?
いろいろ方法はあって、そのうちの一つが就活イベントや説明会に積極的に参加すること。大体、意欲の高い学生はイベントに必ず来ているため、こちらから話しかけてつながれるチャンスがあります。ほかにも、専門学校と連携をとり、そのときの学生の特性を共有しておくなどいくらでも方法はあるので、サロンの特性に合った方法を選択して実行すると良いと考えます。
美容業界でiiiが目指している立ち位置は「美容師としてのキャリアアップ」
――最終的にiiiが目指している働き方についてお聞かせください。
iiiに入社した人たちが胸を張って、キャリアアップの場としてiiiが認知されるようなったら嬉しいですね。
現在、iiiで働いているスタッフの半分は、元美容師。iiiの業務の傍ら、今でも施術を依頼されて担当しているお客様を持つスタッフも一定数います。僕は、サロンを辞めたからといって、キャリアを諦めたと思って欲しくないと思っていて。
僕の意見ですが、そもそも美容師の仕事はライフステージやさまざまな理由から、ずっと一本でやっていくというのは難しいと考えています。そこで、美容師を活かしたキャリアが活かせる会社=iiiがあれば良いんじゃないかと。美容業界が好きで、今よりもっと良い環境にしていきたいと思う方たちとこれから一緒に歩んでいきたいと考えています。
取材・文/東 菜々(レ・キャトル)