「化け子」ブランディングでYouTube登録者数8万人超え! 仕掛人は3人のアラフィフ女性たち
華々しい芸能界のヘアメイクとして、キャリア33年目。専属ヘアメイクとして担当するのは日本を代表するトップ女優…。岸順子さんは、順調にキャリアを重ねてきました。しかし50歳を超えた頃から少しずつ状況が変化し、このままではいけないと飛び込んだのがYouTubeの世界だったそうです。チャンネル開設からわずか半年で登録者数が8万人を超えるという大きな飛躍の陰にあったのは、2人の女性の存在でした。
前編では、チームとして魅力的なコンテンツを作っていくうえでのルールを伺いました。もっとも大切なのは「関わっている人間が嘘をつかない」ということだそうです。
今回お話を伺ったのは、GOBAL株式会社のヘアメイク岸順子さん、マーケティングなどSNS戦略を担当する井川貴子さん、経営を担う社長の渡邊さおりさんです。
岸順子さん
主に芸能界で一流の女優達の専属ヘアメイクとして活動して33年目。54歳のときに始めたYouTubeチャンネル「ヘアメイク職人化け子の駆け込み寺」が評判となり、チャンネル開設から半年で登録者数8万人を超える。
YouTube:ヘアメイク職人化け子の駆け込み寺
Instagram:@bakeko_kishi
井川貴子さん
印刷物や看板等の看板デザイン業に従事して22年目、独立から11年目を迎える。SNS集客のコンサルをしていたところ、岸さんと出逢いYouTubeプロデュースをスタート。現在は同世代の女性起業家さんを中心にサポート中。
渡邊さおりさん
外資系企業でバックオフィスから社内コンサルを経て、IT企業の経営に携わる。外国人と日本で働いてきた経験を活かし、個性を大切にする個性的な組織づくりを実践中。
メイク技術×リサーチ力で、チャンネル開設から半年で登録者数8万人越え!
————芸能界のヘアメイクとして活躍されてきた岸さんが、なぜYouTubeをやることになったのでしょうか?
岸さん:50代を過ぎて、仕事の状況が変わってきて、自分で仕事を作りださなければいけないんだということを実感したからです。私はキャリアのほとんどを、とあるベテラン女優の方の専属ヘアメイクという形でやってきたのですが、その方が亡くなり、仕事が大きく減ったんです。子どもにもこれからお金がかかるというときだったので、これではいけないと一念発起しました。
プロフィール写真の撮影会やオンラインサロン、SNSの発信などをやってきたのですが、ビジネスセンスがなく、お客様はたくさんきてくださるのに赤字だったり(笑)。起業塾に通いだしたのですが、やはりそこでもビジネスセンスを身に付けることはできませんでした。その起業塾で知り合った井川が、SNSのコンサルティングやマーケティングをやっていたので、起業塾の先生のすすめで組むことになりました。そこで選んだのが、ずっと興味があったYouTubeです。
————ここまで登録者が増えた理由は?
井川さん:ビフォーアフターの画像を見ていただくとわかるのですが、根底にあるのは岸の確かな技術力です。岸は長年の経験から女性の悩み、視聴者がどんなことを知りたいかを肌感覚で知っているので、岸から提案を受けた内容を私が徹底的にリサーチして、バズる動画に仕上げています。調査の方法は企業秘密なので、お伝えできないのですが(笑)。
動画をアップしたあとの分析も欠かせません。アップ後2、3日経ってもクリック数が悪かったり、再生数が伸びないときは、サムネイルや動画のタイトルを微妙に修正したりしています。SEO対策も徹底的に行っていますね。
魅力的なコンテンツを作るコツは、出演者が嘘をつかずに楽しめること
————YouTubeを作るときに、こだわっていることはありますか?
井川さん:とにかく企画に携わっている人間が、嘘をつかないことです。岸がやりたいことをヒアリングしたうえで、私は調査をしますが、その結果を押し付けることはありません。岸がそれをやりたくないと言ったときには、企画がなくなることもあります。最も優先するのは、岸がいかに楽しく、いかに飽きずに取り組めるかということなんです。またチームの誰かが完成したものに納得していないときも、スケジュールを優先にはせず、立ち止まります。納得のいくものを完成させてから、アップするようにしていますね。
————なぜ岸さんが飽きずに楽しくできるかを優先するんですか?
井川さん:岸は表にでる人なわけですから、岸がつまらないと感じていたり、自分に何か嘘をついたまま動画を作ったりすると、画面を通じて必ず視聴者に伝わってしまうからです。
そういう動画を視聴者は見たいと思わないはず。また、そのような作り方では岸も辛くなるので、コンテンツ作りが長続きしません。なので、ただ売れればいいというわけではなくて、楽しめることが最優先なんです。
————なるほど。そのこだわりが一番出たのはどこでしょうか?
岸さん:最初のコンセプト決めですね。YouTubeのタイトルを決めるときに「メイクアップアーティスト岸順子」という平凡なタイトルでした。その時点で、ちょっと違和感がありました。撮影はもう済んでいたので、その動画の編集をしてくれた方がオープニングも作ってくれたんですが、それがすごく格好いい感じのものだったんです。井川はすごく喜んでいたけど、私はこのキラキラしたポジションでやる自信がない、ちょっと考えさせてくれと言って(笑)。
そんなときに、インスタの企業コンサルをやっている知り合いに相談したところ「化け子」って名前が出てきて、すごくしっくりきたんです。
過去に一般の方向けのメイク講座をやっていた経験から、40代50代は美容に悩みが多く、それを解決してほしいというニーズが高いことも知っていたので、悩んだときに駆け込む場所ということで、「ヘアメイク職人化け子の駆け込み寺」というチャンネルタイトルにしました。
井川さん:岸が感じた違和感を大切に立ち止まった結果、コンセプトの決定に3ヵ月くらいかかりましたね。決まったあとは新しくオープニングを作ったり、岸の知り合いだった全盲のシンガーソングライター佐藤ひらりさんにテーマソングを作ってもらったりして、チャンネルに動画をアップしたのは12月の末でした。
「これ以上、謝るならもうできない」、その言葉で気付いたチームとして動くということ
————元々、岸さんと井川さんがチームとして組んでいたそうですが、渡邊さんはどのような経緯で?
井川さん:今後のことを考えて会社を設立しようと考えていたときに、周りから「社長になって」と元々言われていました。でも会社作りも経営もしたことがないし、私は抜けているところがあって、どうなんだろうなと思っていて…。そんなときに声をかけてきてくれたのが渡邊でした。
渡邊さん:私は知り合いの会社の経営に10年携わっていました。ありがたいことにそちらが軌道に乗ってきて、自分も何かをやってみたいと思っているタイミングだったんです。二人と組むことになるとは思っていませんでしたけど(笑)、YouTubeに取り組む二人の様子を見て、ぽろっと「やろうか?」という言葉が出てきて。3人の会社「GOBAL」を立ち上げました。私は自分以外の人が本領を発揮できるようなサポートが好きで、しかも向いているので、とてもやりがいを感じています。
————今まで別々のことをやられていた3人が、チームとしてすぐに連携をとることはできたんですか?
岸さん:井川とは最初の頃、ギクシャクしたことがありました(笑)。私は、チームで動くという経験があまりなくて、どこまで頼んでいいのかがまったくわからなかったんです。だから何かを頼むとき、「ごめんね」とか「こんなにやってもらって申し訳ない」と、よく伝えていたんです。そんなあるとき、井川に「これ以上申し訳ないって謝ったり、お願いしますとか言うなら、もう一緒にできない」って言われて。
チームでやるって言ったのに、私は1人でやるつもりになってたんですよね。謙虚のつもりが傲慢だったなと気付きました。
————井川さんはそのとき、どんなお気持ちだったんですか?
井川さん:遠慮をしていたらビジネスってできないんですね。だから最初にお互い嘘をつかないと決めていたのに、岸の態度に違和感がありました。嘘とまではいかないけれど、気を遣われていたし、遠慮をしていることがわかって。チームとしてやる以上、私だってお金も労力も出すわけで、同じスタンスで仕事に取り組めないなら、無理だと思ったんです。私も嘘をつかないって決めていたから、そのことを正直に話しました。
————そう言われた岸さんは?
岸さん:井川がいなければYouTubeは絶対に無理ですから、それは困る! と思って、遠慮をするのはやめようと決めました。そこで私の立ち位置というか、役割がはっきりとわかって。とにかく自分はメイクのことと、YouTubeの視聴者の方に集中しようと。マーケティングのことは井川に、経営のことは渡邊に、もう100%任せよう、甘えようと決めました。そこからは、連携がすごくとれるようになったと思います。
GOBAL流、チームとして魅力的なコンテンツを作るための3つの掟
岸さん、井川さん、渡邊さん、3人がそれぞれの力を発揮して立ち上げた会社「GOBAL」。チームとして魅力的なコンテンツを作るための3つの掟は下記の通りでした。
1. かかわる人すべてが、自分に嘘をつかない
2. チームの誰か1人でも違和感を持ったら立ち止まり、時間をかけてでも解消する
3. 相手に遠慮せず、100%信頼して任せる
芸能界という競争の激しい世界で、33年間第一線で活躍し続けてきた岸さん。それがなぜできたのかをお聞きするなかで見えてきたのは、自分が作りたいメイクを押し通すのではなく、相手の意見を取り入れながら最高のものを作ろうとする姿勢でした。後編で詳しく伺います。
▽後編はこちら▽
芸能界で33年。ヘアメイク岸順子さんが大切にしてきたのは、コミュニケ-ションをとり、女優が気持ちよく仕事ができるヘアメイクをすること>>