センスだけに頼らない! 理論で見つける最適なヘアセット【株式会社 galdy. 代表取締役 大友和子さん】#1
美容師・美容室向けのヘアセット・カウンセリング講習を専門に行うgaldy.代表の大友和子さん。これまでにない教育メソッドを研究・確立したことで、多くの美容師やサロンオーナーから厚い信頼を得ています。
前編では大友さんがヘアセットの理論づくりを始めたきっかけから、研究の日々、そして起業に至るまでの道のりを紹介します。自信を胸にぶれない姿勢で行動し続けることの大切さが語られています。
OTOMO‘S PROFILE
ヘアセットは「センス」? その一言への疑問から始まった挑戦
──大友さんがヘアセットを研究しようと思ったきっかけは?
もともと地元の福岡で美容師になったのですが、私が新人だった当時はカットやカラーこそノウハウや指導カリキュラムが確立されていましたが、ヘアセットにはそうしたシステムがありませんでした。
当時のオーナーも「ヘアセットは生まれ持ったセンス次第」と話していて、教えてもわかるものじゃない、というのが暗黙の了解でした。でも、私はセンスのあるなしで片づけていいのかなと、ずっと疑問に思っていたんです。
──確かにセンスという指標は不確かなところがありますね。
私自身センスがあるとは自信を持って言えないタイプでした。周りを見渡しても、美容師が自分のセンスや好みに任せてお客様にそぐわないセットをしてしまうケースを、いくどとなく見てきました。
実際に私がカットモデルをした時のこと。担当してくれた美容師さんが、私の服装やメイクは一切無視して、私にとっては違和感のあるガーリーなセットをしてくれたことがありました。「カットやカラーの技術は素晴らしいのになぜ?」と、強く疑問に思ったこともあります。
そういった経験を経て、ヘアセットの似合わせを理論として確立すれば、多くのミスマッチを解決できるのでは? という思いが日に日に強くなっていきました。
試行錯誤し、学び続けたからこそ結実した「ヘアセット理論」
──これまでにない理論ですから、完成までの道のりは険しかったのでは?
すべて独学でゼロからのスタート。美容業界に限らずさまざまな分野の本を読んだり、セミナーに参加したりしました。とくに、見た目の印象や立ち振る舞いから「理想の自分」をコンサルタントする、イメージコンサルティング理論は学ぶところが大きかったですね。
研究していくなかで、イメージをつくるための体系化された知識と、美容業界のしっかりとした技術体系を上手く結びつければ、ヘアセットにも理論を確立できると確信するようになりました。
──ご自分で考えた理論は、どのように試していったのでしょうか?
一日に20人、月に400名近くのヘアセットをこなし、実戦で試していきました。それぞれのお客様の個性とセットの相性を常に考え、データを集めながら、ブラッシュアップを重ねていったんです。
ちょうど勤務先で教育担当になったので、後輩を指導していくなかでも試しました。ヘアセットに自信が持てず時間がかかってしまう人でも理解しやすく、着実にスキルアップできる教え方を意識することで、「誰でも実践できる」視点を盛り込むことができました。
その結果、後輩が目に見えて上達していくのを見るうちに、この理論をもっと多くの美容師さんに広めたいという思いが強まり、サロンを辞めることにしたんです。
──フリーになってから、どのように理論を広めていったのでしょうか?
ちょうど、東京のヘアメイクスクールにヘアセットの講師として招かれたのをきっかけに上京。そのスクールで、駆け出しの美容師さんから、スタッフの指導に悩むオーナーさんまで、多くの美容師さんにヘアセット理論をお伝えする機会に恵まれました。
そして、受講した方が「自分の店に大友さんの理論をカリキュラムとして導入したいので、独立したらぜひ講習に来て」と言ってくださったのをきっかけに、2013年、株式会社galdy.を設立しました。
美容業界に更なる変化を。起業後も続くチャレンジ
──ひとりの美容師から起業、不安はありませんでしたか?
それが、恐れは感じませんでした(笑)。根拠のない自信と使命感で走り出した部分もありますが、とてもありがたいことに、多くのサロンオーナーさんや美容師さんが想いに共感してくださり、力強く後押しいただきました。
クチコミでgaldy.を知ってくださった方や、受講サロン様からのご紹介により順調に依頼をいただけるようになりました。
──現在は講習の範囲をヘアセットからさらに拡げていますね?
多くの美容師さんやオーナーさんにヘアセットの講習を続けるなかで、似合うイメージとなりたいイメージをフィッティングさせる理論を、カウンセリングにも応用して欲しい、というお声をいただくことが多くなりました。
カウンセリングの満足度は、お客様のリピートにつながる重要な要素。しかしどうすればお客様に合ったスタイルを提案できるのか、どのように仕上がりイメージを伝えれば安心していただけるのかは、それこそ個人のセンスに任されていたんです。
──確かにカウンセリング次第で仕上がりも変わってきます。
自分にぴったりで期待以上の仕上がりなら、また通いたいと思っていただけますよね。でも、カットの技術や美容師さん個人のセンスだけに任せると、お客様のなりたい理想と仕上がりにギャップが生じることは珍しくありません。
例えばキュートな顔立ちだけどクールな仕上がりを求めている方に対し、どちらかのイメージに寄せてしまっても、中途半端に両方のいいとこ取りをしても、お客様に本当に似合うスタイルは提案できません。
そこで、「似合う」と「なりたい」のフィッティングを助けるためにどうするべきか模索し、これまでの理論をブラッシュアップしたビューティーフィッター理論を新たに構築しました。
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ふとした疑問から美容業界を変えるアイデアを生み出し、理論の進化・深化にむけて絶えず行動し続ける大友さん。その姿勢には業界問わず学ぶ点が大きいはず。後編では大友さんが新たに提唱するビューティーフィッター理論について、さらに経営者としての心得についてもお話しいただきます。
取材・文/杉本 陸
撮影/石原麻里絵(fort)