人が育たない時代だからこそ、本物の美容師を育てて美容業界に恩返しを【ROSSOグループ 原田タダシさん】#2
西荻窪・下北沢でヘアサロンROSSOを展開する原田タダシさん。美容業界でも一目置かれる感度の高さを持ちながら、時代の流れを柔軟に取り込み、次々と新しいチャレンジを続けています。
後編では、若手の育成を兼ねた新店舗rosso-santèやオリジナル商品の開発など、現場の課題から生まれた新しい取り組みについてお聞きします。
いいスタッフが育てばお客さまが増える。4店舗という数字は力のあるスタッフが育った証拠
──西荻窪店に続き2000年には原宿店、2005年には西荻窪店の向かいにLivingをオープンします。
僕は何店舗やりたいとか、どこにお店を出そうとか、目標を設定して進むことはまずありません。いいスタッフが育てばお客さまも増える。それがお店を増やす唯一の理由です。
ただ原宿店の時は、ちょうど原宿がフィーチャーされている時で、珍しくトライしてみたいと思ったんです。場所が場所だけに出店にはものすごくお金もかかりました。でも怖くはなかったですね。それよりも、スタッフやお客さまが盛り上がることをしたほうが楽しいので。
──原宿店はビルが取り壊しになるタイミングで下北沢へ移転。なぜ下北沢に?
原宿で11年続けて、予約をお断りするほどたくさんのお客様にも恵まれました。でも、ある種やりきった感がありました。どうせ箱を変えるなら場所も変えようと、僕がその当時気になっていた下北沢に移ることにしたんです。ただし、取引先や同業者からは「商圏が違う」とものすごく反対されました。それでも決行したので、「言うこと聞かないヤツ」と思われたかもしれません(笑)。
下北沢店のオープン後、時間はかかりましたが、原宿時代のお客さまが全員一度は新店舗に来てくれたんです。この時に、お客さんとのつながり以上に大事なものはないなと実感しました。それは僕だけじゃなくて、スタイリスト全員にいえること。だからスタッフには、お客さま一人一人との関係を大切にするよう伝えています。
40年美容師を続けてもやっぱり現場が好き
──ROSSOは10年以上働くスタッフがとても多いそうですが、意識的にマネジメントしていることはありますか?
僕は「今」と向き合うのが得意なので、先々を考えて行動するのが苦手。スタッフのマネジメントも同様で、あまり綿密には考えていません。それでも大事にしていることはいくつかあって、特にコミュニケーションはおろそかにならないよう気をつけています。
スタッフは各店舗に分散しているので、僕も順番に全ての店舗に入るようにしています。その結果、週6日勤務していますが、サロンに出てお客さまやスタッフに会うのが大好きなので全く苦になりません。
──この25年間で方針を大きく変えたことはありますか?
ROSSOがというより、サロン業界を取り巻く環境のほうが大きく変化しています。サロンのあり方が多様化し、スタイリストになる周期はどんどん短くなっています。その一方で、スタイリストが育ちにくいともいわれています。
だからこそ、本物の美容師を育てたい。いずれ独立したり、出産・育児でキャリアが中断したりしても、一生楽しく美容師が続けられるよう、より深く、より時間をかけて丁寧に育てようという思いは強くなっています。
失敗も含めた経験が本物の技術を身につける糧になる
──今年3月にオープンしたrosso-santèは、若手スタッフを中心に運営しているそうですね?
ROSSOでは10年前からヘッドスパに力を入れていて、若手を中心にチームを作り、メニューを年々ブラッシュアップさせてきました。その進化版が、下北沢に4号店としてオープンしたrosso-santèです。
最新機能を備えたシャンプー台を導入し、4店舗の中でもっとも充実したヘッドスパが受けられるのが特長。10年前の立ち上げスタッフも交えつつ、あえて若手中心で運営することで、本物の美容師として通過するべきトライ&エラーをしっかり経験して欲しいという願いも込めています。
忙しくても講師やヘアショーを引き受ける。日本中の美容室がこの先もずっと輝いていて欲しいから
──サロンワークのかたわら、美容師業界の活性化に向けた活動にも積極的に参加されていますね?
この十数年、定期的に行っているのが地方での技術講習会です。地方の美容師さんたちのスキルアップに貢献したい一心で講師を務めてきましたが、ここ10年でスキルもセンスも東京を凌ぐレベルになっていると思います。
ヘアショーも積極的に開催しています。ROSSO単独でもやりますし、「美容習慣」の実行委員長をしたご縁でいろいろなサロンの皆さんとも共同で開催することもあります。
講師もヘアショーも、最終的な目的はサロンワークと同じ。美容師業界が今の輝きを維持するお手伝いがしたい、そんな思いで取り組んでいます。
サロンワークのほかにもお客さまのためにできること
──昨年は、オリジナルのシャンプーとバームも発売。ロットを抱えるリスクを負いながら製造に打って出た理由は?
肌が敏感なお客さまから、ワックスがつけられないと聞いていたんです。だったら、逆につけたほうが調子がいい製品を作ればいい、と考えたのがきっかけです。
工場と何度もやり取りして、香料・着色料はオールフリー、防腐剤も天然素材を使用するなど、「これなら大丈夫」という納得のバームができました。お客さまからも調子がいいと聞いて、作ったかいがありましたね。
本当は全身で使えるヘアオイルも発売予定だったのですが、コロナ禍で製造が一時的に保留になってしまって。時期をみて再開させる予定です。
今の年齢だからこそ発見できることもある
──目標を立てるのが苦手という原田さん。にもかかわらず、常に前を向き、新しいことに取り組んでいますね?
やっぱり、この年になっても目の前のことに向き合うのが好き、キラキラとしたサロンの雰囲気が好き、ということに尽きると思います。
今はアシスタントが育たない時代といわれていますが、アシスタントが育たないと美容業界全体が先細りして、キラキラとした世界でなくなってしまう。だから、今は育成が一番大事だとも考えています。rosso-santèをつくったのも、僕から美容業界への恩返しのようなものですね。
課題をみつけては解決の糸口を探していく。その繰り返しが積み重なって、今があるのだと思います。僕の美容師人生はまだまだ続きますよ!
原田さんの成功の秘訣
1. あえて目標をつくらず目の前の課題としっかり向き合う
2. 時代によってスタッフの気質が変わっても、コミュニケーションの重要性は変わらない
3. 美容業界全体が輝くことは積極的に参加する
取材・文/池田 泉
撮影/岩田 慶(fort)
Salon Data
rosso-santè
住所:東京都世田谷区北沢2-26-12-1F
TEL:03-3481-3405