一つに固執せず、個性が集うセレクトショップのようなサロンを目指して【VeLO /vetica代表・鳥羽直泰さん】#2

渡英後、クリエイティブチーム「DADA(現DADA CuBiC)」の一員として活躍し、帰国後は雑誌への出演も多数こなしてきた鳥羽直泰さん。独立後は色々な個性が集まるサロンを目指し、現在ご自身が代表を務める「VeLO」「vetica」には個性派美容師が揃います。

後編では、帰国後にギャップに苦しんだこと、師匠のもとから独立を決意したときのお話、そして、スタッフの個性を活かすための育て方についてお聞きします。独立志向の強いこの業界で、鳥羽さんが理想とする独立の形とは…?

人種の壁に直面し、カットを見直す日々

――帰国後、イギリスとのギャップはありましたか?

ものすごく。イギリスではやれるだけのことをやってきたけど、やっぱりイギリスはイギリスでしかなく、日本とは違うんです。個性の差、文化の差、好き嫌いの差があり、加えて人種の違いも大きい。

骨格・体格・髪質はカットする上でとても大切な土台ですが、イギリス人と日本人は根底から違う生き物なので、同じカットをしても同じ髪型にならない。向こうで散々勉強してきたことが、日本では通用しなかったんです。

ベースの技術は同じですが、日本人に対応するためにはどのくらいの味付けが必要なのか、帰国後も勉強&研究の毎日でした。例えば、日本人は頭が絶壁の人が多いので、イギリス人のように丸みを帯びたボブにするためには段の付け方をそう変えるか、とかね。

一方、当時の日本では、梳いたり、ラフにしたりという独自の技術が発達しすぎたことで、ベースの技術が曖昧になってしまっていました。幸いにも僕らはイギリスのカットも日本のカットも経験できたので、DADA(現DADA CuBiC)では両方の良さを取り入れていくことにしたんです

――お客様の反応は?

帰国した当初はガッカリさせてしまった方もいたと思います。

日本人は外国人のように面と向かって文句を言う人はあまりいないので、表面上ではニコニコしておいて、気に入らなければフェードアウト。最初の頃は「日本人ってなんて優しいんだろう」と感激していましたが、次第に「『素敵ね〜』と言ってくれたのに何でもう来てくれないんだろう。日本人って怖い」と思うようになりました(笑)。喜んでいる姿が本心なのか演技なのかわからず、人間不信になっていたこともあります。

その頃は、一生懸命やったことが空回りしていることが苦痛でした。クレームを言われることの方がまだマシでしたね。もう26歳でしたし、自己分析も出来るようになっていたので、未熟な自分と向き合うのはキツかったですね

本が大好きという鳥羽さん。
サロンには天井まで届くほどの巨大な本棚が!
「いつか上の段まで全て本で埋めたいです」

目指したのはセレクトショップのようなサロン

――独立したきっかけというのは?

DADAが大きくなったことで方向性にほんの少しズレを感じることはありましたが、DADAというお店は好きだったので、辞めるつもりはなかったんです。「もし自分でお店を持ったらこんなことをしたい」というアイディアを持っていたくらい。

父親が大病をしたことで、ぼんやり頭に浮かんでいたことが一気に現実味を帯びてきたというか…。父親に散々大口を叩いて上京したこともあって、田舎にいる父親に納得してもらえるような、わかりやすい結果を早く見せたいと思ったんです。

メディアの仕事もたくさんこなしていたし、ある程度お客様も付いていたので、独立できるという自信はありました。しかし、代表の植村に相談したところ「まだ、いけるだろう」と言われて。

――引き留められたということですか?

引き留め…とはちょっと違うかな。「俺が求めるレベルまであと1年で到達してみろ。それが出来たら独立して良い」と、要は課題を出されたんです。それから1年で課題を全部クリアし、植村にもOKをもらって、円満退社しました。

――独立するにあたり、どのようなサロンをつくろうと考えていたのですか?

DADAはコンセプトの持つ力が強く、ブランド力がすごくしっかりしているサロンでした。そんなDADAも好きだったけど、僕はもう少し個性を活かしたたサロンをつくりたいと考えていました

クリエイションが好きな人もいれば、お客様と話すのが好きな人もいる。原宿っぽい髪型が好きな人がいれば、青山っぽい髪型が好きな人もいる。色々な個性の美容師が存在する、いわばセレクトショップみたいなサロンをつくりたかったんです。「このサロンにいるからこういうスタイルをやらなきゃいけない」ではなく、「こういうスタイルもアリだよね」と個性を起点にしたいなと

答えを探させる教育で、個性を伸ばす

「答えを一つに絞る教育は好きじゃない」と鳥羽さん。
それぞれの個性を引き出す教育論を教えてくださいました

――個性を潰さずにスタッフを育てるのは中々大変なのでは?

難しいですね。僕が新人の頃は個性を出しすぎると怒られましたからね(笑)。

DADAがやっていたようなブランディングや、サロンスタッフの統一性も大事なことだと思うので、否定するつもりは全くありません。大事なのはその塩梅かなと。

美容師はお金をいただく仕事なので、最低限の知識と技術は必要だけど、その先は色々なプロセスがあっても良いと僕は思っています。この店では、スタイルにしても、仕事のこなし方にしても、技術の習得にしても、一つに固執したくないんです

――「わがまま」と「個性」、その境目を見極めるのも難しいのでは?

美容師をやっていく上で必要な、根幹の部分を習得できていないのに個性を主張するのは単なるわがまま。基礎がしっかり出来た上で初めて色々なスタイルに派生していけるものですから。それを踏まえた上で、どこまで基礎を教えるか、どこから突き放して自由にやらせるか、そのバランスをずっと考えながらやっています

今の時代、情報だけで判断して自分で試さない人が多いですよね。何が正しいのかを自分で考え、そして自分なりのやり方で実践できるか。これが個性が育つかどうかの分かれ道だと思います。やってみた結果が成功でも失敗でも、彼らの美容人生において財産になるような教育ができれば良いなと思っています。

――手を離すタイミングまできちんと考えていらっしゃるのですね。

でもね、「上司が言ったことをやって失敗した」と捉えるか「上司が助言してくれたが、自分が未熟で失敗してしまった」と捉えるか、結局は本人の性格によるものなので、僕がどうこうできない領域もあるんですよ。だからこそスタッフ一人ひとりとコミュニケーションが重要になってくるので、僕は他の店のオーナーよりも密にコミュニケーションを取っているつもりです。スタッフからしたら鬱陶しいときもあるかもしれないけど(笑)。

――スタッフの独立についてはどのように考えていますか?

美容業界は円満退社ができない人、結構多いですよね。一期一会というか、出会った人を大切にできないようなら、美容師としても、人としても少しレベルが低いかなと思うんです。

独立するときは自分本位になってはダメ。オーナーが「4ヶ月だけ待って」とお願いしたときに、「じゃあ3ヶ月なら待てます」と言うのか、「いや待てません」と言うのか。お互いすり合わせをきちんとして、双方マイナスにならない形で辞めるべきだと思うんです。

僕が独立したとき、良い意味でDADAをライバル視していましたし、向こうも僕のことを意識していたと思います。立つ鳥跡を濁さずと言いますか、色々なところと関係を崩さないまま、自分を高め、相手も高めていけるのが僕の理想の「独立」です。うちから独立したスタッフの中で理想的な独立をした人はまだ一人しかいませんけどね。

――最後に、鳥羽さんの成功の秘訣とは?

理想的な独立を成し遂げたスタッフはまだ一人しかいないし、お店の運営や営業スタイルなどに対しても100%納得は出来ていないので、まだ成功したとは言えません。

というか、僕はきっと職人気質で、理想が高いから、何をもって成功なのか掴めないのかもしれません。きっと死ぬときにわかるんじゃないかと思っています。

一つ言えるのは、ここまで来られたのは、逃げなかったからだということ。器用でもないし、飛び抜けてセンスがあったわけではないけれど、必要なことをきちんとやってきたから、そして人並み以上に真摯に向き合ってきたから、今があるのかなと思っています。

鳥羽さんの成功の秘訣

1. 好奇心を忘れない
2. お互いを高めていける形で独立する
3. 何事も実践あるのみ! 一つひとつの課題に誠実に向き合う

取材/文:佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/柴田大地(fort)

Salon Data

VeLO hair&salon

住所:東京都渋谷区神宮前3-25-5 5F
TEL:03-5411-5051

vetica

住所:東京都渋谷区神宮前3-25-5 4F
TEL:03-6438-9272

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