大事故を乗り越え「半端な美容師では終われない」と訪問美容の道へ 訪問美容師・佐々木祐太さん

訪問美容師として活躍する佐々木祐太さん。前編では訪問美容師の道に進んだきっかけや、訪問美容師としてのあり方を決定づけた、ある利用者さんとのエピソードを伺いました。

一番のきっかけとなったのは、22歳のときに経験した大きな交通事故。一緒に事故にあった仲の良かった先輩を亡くし、辛い時期を過ごされたそうです。そんななか一筋の光となったのは、入院中に仲良くなった女性患者さんに、毎朝ブローをするようになったこと。美容師はどこでもできる仕事だと、可能性を見出したそうです。また訪問美容師になってからしばらくは、サロンワークとの乖離に悩んでいた佐々木さんですが、ある利用者さんとの出会いで気持ちが変わっていったといいます。

今回お話を伺ったのは…

佐々木祐太さん

北海道の美容専門学校を卒業後、都内サロンに8年間勤務。その後、訪問美容の世界に飛び込み、経験を積む。現在はインスタグラムで「訪問美容アドバイザー」を名乗り、訪問美容師や、興味のある人に向けた発信にも力を入れている。

大事故から美容師への復帰。やりたいことはやろうと決めて

現在は訪問美容師として活動する佐々木さん。お休みの日にはサロンワークに入ることも

――訪問美容師に興味を持つようになったきっかけを教えてください。

美容師2年目の22歳のときに経験した大きな事故が、一番大きな原因でした。4か月ほど入院していて、少しずつ回復してきたときに、別の病棟にいるおばちゃんたちに頼まれてブローをするのが日課になって。左手はけがをしたので、右手だけを使ってのブローだったのでそこまでうまくはできなかったのですが、みんなすごく喜んでくれました。美容師はどこでもできると思ったのと、サロンワーク以外にも喜んでもらえることがあると気付いたんです

――そこから訪問美容師の道に進んだのでしょうか?

事故後すぐに決断したわけではなく、むしろ美容師に戻れるかどうかもわからない日々でした。事故が起こった日、カットの練習がうまくいかず落ち込む僕を励まそうと、先輩がツーリングに誘ってくれて事故にあったんです。薄れていく意識のなかで、必死に謝る先輩の声を聞きました。先輩が亡くなったということを知ったときから、自分がいなくなればよかったんじゃないかという思いがずっと消えなくて。左手がうまく使えないこともあり、すぐに復帰を決めることができませんでした。

復帰を決めたのは、中途半端な美容師では終われないという気持ちがわいてきたからです。毎日のように夢に先輩が出てきて、たまに話しかけられることがありました。かけられる言葉はずっと一緒で「無理しないで」と「がんばれ」。その言葉に段々と仕事に対する気持ちが戻ってきて、半年ほどリハビリをして美容師に復帰し、その後6年ほど経験を積みました。そのなかで訪問美容に対する気持ちが徐々に固まっていき、サロンを退職して訪問美容の会社に就職。事故を通じて「生きていればなんとかなる」という思いが強くなり、やりたいことをやらずに終わってしまうなら、やれるところまでやってから考えてみようと思えるようになったんです

サロンワークとの乖離に悩む日々

訪問美容師になりたい人に向けた、講演活動もしている佐々木さん

――実際に訪問美容師を始めてみて、どんな印象でしたか?

最初は、難しいのひと言でしたね。元々おばあちゃん子で、高齢者の方と接するのもまったく抵抗がなく、むしろ大好きだったくらいなので、交流はとても楽しかったのですが、サロンワークとの乖離に1年くらいは悩んでいました。

――乖離とはどんなものでしょうか。

サロンワークの場合は、お客さまにカウンセリングをして、その方に満足してもらえればいいわけですが、訪問美容の場合はお客さまが三者いるんです。利用者さんと、施設の担当者の方、利用者さんのご家族ですね。たとえばその利用者さんの認知度が進んでいる場合、ご本人ではなく施設の担当者の方に仕上げを見てもらうこともあり、施設の方とのコミュニケーションも大切になります。また利用者様とのやりとりをして長さなどを決めても、ご家族が納得しないと切り直しになることもあるんです。自分がこだわって切ったのに、ご家族様から「長いです」のひと言が返ってくることもあり、むなしさを感じることもありました

訪問美容に対する姿勢を変えてくれた一通の手紙

訪問美容師として9年のキャリアを積み、インスタでは訪問美容師向けに発信を続けているという佐々木さん

――そこからどのようにやりがいを感じるようになったのでしょうか?

これには明確にきっかけがあります。訪問美容師1年目くらいのときに、ある高級介護施設に入居されている方に、指名をいただくようになったんです。その方はほかの人と話したくないから個室で施術をしてほしいというくらい、人との関係を断たれている印象があって。いろいろお話を聞いていくとそうなるのもわかるなという感じでした。ご主人に先立たれていて、お子さんはおらず、親族はいるけど嫌い。後見人だけはいるというような状況だったんです。お話していても最初の頃はネガティブな発言が多かった印象があります。

僕が担当するようになって、子どもとか孫のように接してくれるようになりました。2週間に1回は必ず指名をしてくれて、段々と表情も明るくなって。その後、体調を崩されて亡くなられてしまったのですが、施設からその方の手紙を預かっていますと渡されたんです。手紙には「あなたに出会えてよかった」という内容が、たくさん書いてありました。そのときから自分がやってきたことが無駄ではなかったと思えるようになり、自分の技術面ややりがいにこだわるより「利用者さんをどう笑顔にできるか」という方向にシフトしていったんです

――サロンワークとは別のやりがいがあるわけですね。

訪問美容師は、ひとりのお客さまの人生の終盤にかかわらせてもらう仕事なんです。お客さまの感想がサロンワークでいただいていた時の言葉とは違って、すごく重みがあります。サロンで言われる「ありがとうございました」とは違い、手をがっとつかまれて、涙を流しながら感謝されることもたくさんありました。すごい仕事だという思いが、だんだん強くなっていきましたね。
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佐々木さんが訪問美容師としての道を切り開いた3つのきっかけ

佐々木さんが訪問美容師としての道を切り開いたきっかけは、以下の3つでした。

1.大事故から復帰し、自分のやりたいことをやると決めた

2.利用者さんからの手紙によって、技術にこだわるのをやめた

3.たくさんの利用者さんに心から感謝され、サロンワークとは別のやりがいを見つけた

後編では佐々木さんが実践してきた、利用者さんを笑顔にする方法を伺います。何より大切なことは、自分もコミュニケーションを楽しむことだと佐々木さん。またこれまでの訪問美容の世界は、髪型にこだわる人と、短くして介護がしやすいように考える人が両極端だったそうで、佐々木さんはその中間になるようにしているとのこと。利用者さんに喜んでもらえるスタイルでありながら、介護もしやすくなるよう心がけているそうです。後編もお楽しみに!

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