店舗の客層に甘えないこと。職人集団を目指す新潟のサロングループ【ITAKURA YUZOさん】#1
新潟県新潟市に8店舗の美容サロンを展開する「ITAKURA」。創業50年という老舗でありながら、トレンドやセンスを磨き続け、今なお新潟の美容業界の第一線を走るサロングループです。今回お話を伺ったのは、常務兼カラーリストのYUZOさん。故郷に戻って来たとき、父が築いた「職人気質」が失われていたことに危機感を持ち、改めて職人集団にするための奔走がはじまりました。
前編では、職人気質を持った美容師にするためのカット料金の設定や、老舗店舗を置き去りにしないための工夫などについてお聞きしました。
教えてくれたのは
YUZOさん
新潟県新潟市(人口約78万人)に8店舗展開する美容サロングループ「ITAKURA」で、常務を務める傍ら、カラーリストとして「女池店」「milli」でサロンワークをこなす。海外の美容学校を卒業後、LAのサロンに2年間勤務。帰国後は恵比寿のサロンに務め、2000年に新潟に帰郷。父親が創業した「ITAKURA」を、同じく美容師の兄とともに継ぐ。
回転率重視の経営ではなく、職人気質の美容室に回帰
――創業50年という老舗サロン。現在は新潟市内に8店舗を展開されていますが、これまでの歩みについて簡単に教えてください。
僕の父が創業者なのですが、男性がキッチンに立ってはいけない時代で、「男性が女性の身なりを整えて差し上げる」というのは世間的によろしくなかったんですね。美容師の社会的地位もまだ低く、給料も良くありませんでした。
美容師の地位を上げるためにも、うちの父は一流ホテルなどに出店していました。その後、新潟にショッピングモールが乱立するようになり、出店の場をそちらに移すようになりました。今はショッピングモールへの出店はやめて、全ての店舗を路面店に変えました。
――なぜ路面店に変えたのですか?
時代の変化と、スタッフの成長です。ファストファッションが流行る中、コンビニエンス感覚で楽しめるショッピングモール内の美容ではなく、コンセプトサロンの確立を目指したんです。出店スピードはスタッフの成長とともにあるので、10年をかけて着実に移行してきました。
――ITAKURAが目指したのは職人集団のようですね。
僕らが掲げるのは「クオリティオブライフ」です。僕らとの出会いをきっかけに、お客様の人生が豊かになったら良いなと思って。女性はライフステージの変化に伴って、どうしても美容が後回しになってしまいますよね。決して悪いことではないですが、美容師の立場で考えると、そういう女性を放っておくとお客様の心が老けてしまう。心を元気にすることで、体の仕組みも元気になるので、見た目から、体から、心から変化をもたらすことができるように、スタッフ一同、勉強を重ねています。
そして、本質を見失わないこと。本物の技術を備え、新潟だけでなく、全国のどこでも通用する美容師を育てることを目指しています。
――20年前、YUZOさんが東京から新潟に帰ってきたとき、新潟の美容業界にギャップは感じましたか?
情報の伝わり方が鈍く、伝言ゲームのような感じでした。カットもカラーもメイクも、全部に違和感があったのを覚えています。つながっていない感じですかね。
あと、隣のサロン同士が敵なんですよ。会うとどっちが正しいかという争いばかりしていて。そんな争いは不毛だと思い、2003年にヘアカラー研究会を立ち上げたんです。「新潟の女性をきれいにする」というコンセプトのもと、みんなで考え方や技術などを惜しまず出し合って、学びを深めていく場をつくったんです。
今となっては「新潟って美容にアツいよね」と言われることも多いですが、僕らが一緒に築いてきた文化がやっと根付いてきたなと思いますね。
地域差は些末なこと。大枠の中で美容師を育てたい
――カット料金は全店舗で一律なのでしょうか?
そうですね。最初は4500円からスタートし、月100万円の売上が3ヶ月続いたらカット料金を5500円にします。もっと価値のある美容師になってもらうために、ある程度の売上を達成したら金額を上げるようにしているんです。
――エリアごとに客層は変わらないのですか?
地域差は多少なりともありますが、それに合わせてテイストや価格を変えるということはあまりやっていないんです。クオリティオブライフの仕事をするためにも、「安いから」「近いから」というベクトルだけに頼ってはいけないなと。まっすぐ美容師をやっていれば、どのエリアでも通用するからです。
――ここ最近の新潟の美容室事情はどのように変化してきていますか?
市街地の万代エリアや古町エリアはやはり低価格帯のサロンがすごく増えました。だいぶやられていますね(笑)。
スマホで技術や知識を学べるようになったことで、美容室が提供する技術の平均化が行われているんです。SNSでアクセス数が多いものが正しいと思われがちですよね。それを見てどのサロンの美容師も「勉強になった」って言うんですよ。これは新潟に限った話ではなく、全国的にも言えることだと思います。
――どのサロンに行っても技術力に差がない。極端なことを言うと、どのサロンに行っても同じような髪型になるということでしょうか?
はい。低価格帯のサロンと高価格帯サロンとで提供するものがあまり変わらないのであれば「安いサロンで良いわ」となっちゃう。
センスや感情などといった仕組み化できない技術にもっとフォーカスしていかなければ、これからの美容室は厳しいかなと思います。
トレンドに差が生まれないように、全店舗でアップデートをはかる
――店舗を出店する上で大事にしていることはありますか?
一番大事にしていることは、人が育ってきたら、店長に足るハートが育ってきたら出店すること。「責任感を持つ」とか「お店を支える」というのは、自分ではできているつもりでも、意外にハートが足りていなかったりするんですよ。例えば、子どもを育てるにしても、愛情や責任は、学校の先生と親とでは圧倒的に違いますよね。店長はそれほど大きいポジションなんです。どれだけマネジメント力を持っていても、「俺が支えるんだ」という気持ちがなければ達成できないものってあると思うんですよ。
――老舗の店舗と、最近オープンしたばかり店舗とでは、トレンド力や技術力に差が出たりしませんか?
新しい店舗ほどトレンドを打ち出しやすいですよね。古い店舗でありがちなのは、美容師自身が勉強をしなくなり、お客様にも新しいことをさせなくなること。そうなると美容師もお客様も古くなってしまうので、うちではきちんと新しい技術にトライさせています。また、「○○店ではどんなものを打ち出していきますか?」と打ち合わせをして、方向性を決めるようにしています。
インプットの場として、トレンドの勉強会を開いたり、発表会をしたり、コンテストへ積極的に参加させたり、メーカーを交えた講習会を開いたりしています。また、外部講師として活動しているスタッフを各店舗におくことで、全店舗でトレンドのアップデートをはかっています。
老舗サロンが第一線で活躍し続けている秘訣
1.センスや感情など、仕組み化できないスキルを教える
2.経営ありきの出店をしない。人が育ったときに出店を考える
3.古い店舗も、トレンドや新しい技術を学べる機会を設ける
ITAKURAが重きをおくのは、地域性に合わせた集客スキルよりも、美容師としての本質を育てること。どこでも通用する力を持った美容師を育てるために、ITAKURAがどんな教育を行っているのか、後編で深掘りしていきます。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)