美容師としての旬を伸ばすため、カット以外の得意技を育てていく【ITAKURA YUZOさん】#2
新潟市で展開する老舗サロングループ「ITAKURA」。常務兼カラーリストのYUZOさんがサロン経営で大事にしてきたのは「本質」を忘れないこと。エリア・客層・価格に左右されないために、職人気質を備えることを第一と考えてきたそう。新人教育や、スタッフのキャリアチェンジにもITAKURAらしさが光ります。
後編では、美容師の旬を伸ばすためのいくつかの「仕掛け」を教えていただきました。
教えてくれたのは…
YUZOさん
新潟県新潟市(人口約78万人)に8店舗展開する美容サロングループ「ITAKURA」で、常務を務める傍ら、カラーリストとして「女池店」「milli」でサロンワークをこなす。海外の美容学校を卒業後、LAのサロンに2年間勤務。帰国後は恵比寿のサロンに務め、2000年に新潟に帰郷。父親が創業した「ITAKURA」を、同じく美容師の兄とともに継ぐ。
安定はときに残酷。スタッフを鍛えるためにあえて店舗異動をさせる
――スタッフの配属はどのように決めているのですか?
新卒の採用には本部は関与しません。それを決めるのは店長たちです。面接にも本部の人間は立ち会いません。「気に入った子を採って」という感じ。ドラフト制です。店長同士で採用したい子が被った場合は、なぜこの子がほしいのかというプレゼン大会をします(笑)。
チームの中には色々な性格の人間が必要だと思うんです。気の強い子がいるサロンには、同じく気の強い子を入れてしまうと喧嘩になりがちなので、人の気持ちを汲み取れる穏やかな子や頭の良い子が良かったりするんですよ。
サロン内部のことは店長がよくわかっているから、店長自身が欲しいと思っている子を探すのが一番良いかなと。
――新人さんから「店舗異動したい」という要望を受けることはありますか?
逆に「異動したくない」という人の方が多いですね。それが最近の悩みの種なんですよ。
居心地の良い場所にずっと留まっていると伸びが悪くなるので、若いうちはあえて店舗異動を入れたいと思っているんです。美容師としての旬を長くするためにもね。
――美容師としての旬を伸ばすためにも店舗異動が必要なんですね。
慣れすぎると甘えが出て、人への配慮や努力を忘れてしまうんです。人はピンチにならないと頑張らないので、あえて不慣れな環境に置くことも大事かなと。パワハラにならない程度にね。カット料金を上げるのも同じ理由です。安定したところで働かせ続けるというのは、長い目で見ると非常に残酷なことなんですよ。
カット以外の得意技を持てるように。得意が高じてキャリアチェンジしてもOK
――ITAKURAはトータルビューティの考えもお持ちですよね。
今は4〜5店舗がトータルビューティサロンですね。うちでは、美容師からエステティシャンに転向するというキャリアチェンジもOKです。それは美容師からの逃げというわけはなく、何か得意な技術を持った美容師を輩出したいという狙いがあるからです。
昔の例としてこんなことが。あるアシスタントの子にメイクだけをひたすら練習させ、カットの練習をほとんどさせなかったんです。カットで売っている美容師は世の中にたくさんいたし、他に得意技がない人は指名数も50〜100くらいで終わっちゃうので、まずはメイクを得意になってもらおうって。そうしたら、その子はデビュー月に指名数が160人までいきました。メイクで年齢や骨格をカバーする技術が身についていたから、カットにも応用を利かせられたんですよ。その子は3年後にえらい記録をつくりました。
自分の旬を長引かせるためにカット以外に得意分野をつくって、それがいつか自分のメインになって、「私ハサミ置きます」というのもうちではアリです。
――ホームページを見ても、カラーリスト、スパニスト、エステティシャン、受付…とみなさん肩書をお持ちですよね。
産休明けのスタッフが受付に転向する事例もありました。受付はすばらしい職業で、非生産性の仕事と言われながらも、美容師ができない交通整理をしてくれるため、売上の向上には欠かせない存在です。他にもブライダルのチームもあって、彼女たちももともと美容師をしていました。うちのスタッフは全員美容師免許を持っていますよ。
シャンプー指名を評価することで新人の自己重要感を高める
――新人教育についてはどのような取り組みをされていますか?
アシスタント教育については横の交流を大事にしていて、各分野、全店舗から結集されたプロフェッショナルチームで教育しています。カラー教育だったらカラーチームが、パーマだったらパーマチームが担当します。
店舗ごとに教育担当はいますが、全てを任せるとどうしてもその教育担当者の味付けになってしまうんです。でも、全店舗で交流して教育チームをつくることで、色々な視点から教えることができます。
――ニュートラルな教育方針ですね。新人が辞めないための工夫は何かしていますか?
ITAKURAの伝統として「シャンプー指名制度」があります。アシスタントに対して、シャンプー指名一人あたりいくらかの手当てを支給するという制度です。お客様からはシャンプー指名料金はいただきません。アシスタントが指名客を増やせるようになることがこの制度の狙いなんです。指名の多い子だと月2万円ほど行く場合もあります。
指名が取れるために必要なアレンジ力を鍛えてほしくて。新人研修のときにシャンプーのやり方を教えますが、それはあくまで「型」でしかありません。それを土台にして、お客様なりの味付けにしていくことが大切なんです。デビューしても同じことができるから。
シャンプー指名が増えるほどサロンワークの効率は悪くなりますが、創業から50年間ずっとこのシャンプー指名を評価してきました。
――アシスタントさんもやりがいがありますよね。
自己重要感というか、「自分は役に立ってる」「代わりがきかない存在なんだ」という自信につながるため、ある種のエンゲージメントになると思います。
――ITAKURAは新潟出身者が多くを占めていますが、地元出身であることは有利になりますか?
あまり関係ないですね。確かに、知り合いや友達が多い方がデビュー直後に良いスタートダッシュを切れるかもしれないけど、ほんと最初だけです。「クオリティオブライフ」が提供できていなければすぐに飽きられますから。リクルートでも新潟出身であることは全く関係しないです。
――地方で美容師をする魅力とは?
新潟は近くに海があって、僕の家からも毎日地平線に沈む夕日が見えてきれいなんです。釣りにも行けて、山にも登れて、スキーもできて。色々な感情の揺さぶりがあるんですよね、田舎って。
人はときに妬みなどのネガティブなエネルギーも与えるから、人混みにずっといると不健康になるんですよ。人がバランス良くいられるのはこのくらいの街なのかなと思っています。今はSNSもあるし。自然を取り入れながらガツガツ仕事をする。そういう働き方の方が今っぽいのかなと。
ITAKURA流 職人気質に育てる秘訣
1.カット以外の得意技を持たせる
2.広い視野で学べるように、新人教育は全店舗の「横の繋がり」を取り入れる
3.シャンプー指名を評価し、アシスタントのアレンジ力を鍛える
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)