20年前の創業当初から「お客さまファースト」。この揺るぎなさが高いブランド力を保つ秘訣【AMATA 美香さん#1】
起業して何よりも難しいことは経営を維持すること。幾多の荒波にもまれながらも順調に業績を伸ばし、成功を収めている経営者にその秘訣を伺います。
今回お話を伺うのは、AMATAの代表であり、ビューティプロデューサーとしても活躍している美香さん。前編ではファッション業界から美容業界に参入したきっかけ、ハイクオリティなブランド力を保つ秘訣などを語っていただきました。
お話を伺ったのは
AMATA オーナー 美香さん
文化服装学院を卒業後、アパレルメーカーでファンションデザイナーとして活躍。2002
年に大人のためのラグジュアリーなサロンAMATAを南青山に開設する。(社)日本毛髪科学協会 毛髪診断士®認定講師、JAPA認定 アーユルヴェーダー アドバイザーの資格を有し、その高い美意識からさまざまな分野で製品のプロデュースやコンサルタントとしても活動している。
お客さまには「ベスト」をお目にかけるべき。「成長の過程」は必要なし
――美香さんはもともと美容業界の方ではなかったとか。
文化服装学院を卒業してからファッションデザイナーとしてがむしゃらに仕事をしていました。自分自身をリセットしたくなって会社を辞めたのが30歳のときです。自宅をリフォームするなど、ゆっくりとした時間を過ごしていました。
――なぜAMATAを開業しようと思ったのですか?
その当時カリスマ美容師のブームがあって、私もそうしたサロンで髪を切ってもらったことがありました。素敵なスタイルに仕上がっても、お会計が終わるとコートや手荷物をさっと渡されて「ありがとうございました」と言われてしまう。余韻に浸れないんです。せっかく髪がきれいに整ったのだから、サロンを出る前にメイクを手直ししたいのに、流れ作業のように送り出されてしまう。
パウダールームが狭かったり、掃除が行き届いていなかったりするサロンもありましたね。「私だったらこうする!」という気持ちになることが多く、もっときめ細やかな女性目線でのサービスを提供したい想いがありました。ヘアだけでない美しさを追求すること、ビューティの最新情報の共有、お客さまのQOL(人生の質)を高めること、ここにしかないオリジナリティを実現すること。このすべてを叶えるためにAMATAを開業しました。
私のパートナーが元美容師だったこともあり、創業当初から経営者としてバックアップしてもらったのも心強かったですね。
――インテリアにもこだわりを感じますが、これは創業当初からですか?
ヘア業界では初めて、内装をインテリアデザイナーの片山正通さんにお願いしました。白を基調にしたエレガントでミニマムなサロンを設計していただきました。「白は汚れが目立つ」という理由で敬遠なさる方が多いのですが、私はあえて白を選びました。その都度きちんと清掃すれば清潔さは保たれますから。コロナ禍にあって、お客さまがご利用になるたびに消毒するサロンが増えましたよね。AMATAは創業以来ずっと、パウダールームもシートも清潔さを保つ姿勢は変わりません。
――サロンの経営が軌道に乗る前に、最初からお金をかけることに勇気がいりませんでしたか?
お客さまの目に触れるものは、常に最上のものでなければ意味がないと思っています。ブラッシュアップしてアップデートすることは大切ですが、作り上げていく過程をお客さまのお目にかける必要はありません。
だからこそ、最初からこだわり抜いたマックスのものを揃えました。
AMATAしかできない濃いオリジナリティを追求する。これがブランド力を高める秘訣
――美香さんは美容師ではなかった分、創業当初はたいへんなご苦労があったとか。
この業界ではサロンの代表、オーナーという肩書きは通用しません。私は美容師ではありませんが、美容師レベル以上の知識を身につけて理論武装する必要性を切実に感じました。そこで当時は美容師でなければ習得できなかった「毛髪診断士」の資格を取りました。今は、診断士のさらに上の認定講師でもあります。
ヘア業界、特に東京エリアでは男性優勢な現実もあります。職人気質で年功序列なところもかいま見えるなか、新参者が成功するのは本当に難しいことです。その中で今年20周年を迎えられたことは、心の底からうれしいです。
――AMATAにはハイクラスなお客さまがほとんど。その理由はどこにありますか?
とにかくAMATAだけしか「できない」という濃いオリジナリティを追求することですね。ゲストがある意味アマータ・ホリックになるように、グレードを絶えずブラッシュアップしています。
例えば、「MiMC」や「BOBBI BROWN」、「sisley」などのビューティーブランドとのコラボレーションもそのひとつ。日本ではAMATAでしか施術を受けられません。パウダールームの充実度にも自信があります。サロンのいたるところに活けられている生花もAMATAならではでしょう。花の様子に合わせて、毎日活け替えています。
多角的に頭髪ケアができるメニューの多さも、お客さまにご好評をいただいています。お帰りになるとき、次にいらっしゃる日を予約なさるお客さまがほとんど。「AMATAで過ごす」という日をスケジュールに組み込んでくださっているんです。
――1つのサロンが成功すると店舗を増やす考えもありますが…
私はまったく考えていません。南青山の隠れ家的なサロンであることが重要なんです。ですからAMATAには看板もありません。サロンの設計をお願いした片山さんにも驚かれましたけれど(笑)。
表参道や銀座といった商業エリアではなく、ひっそりとしていながら品のある南青山にこだわったサロンですから、ほかのエリアに支店をつくるつもりはありません。
――一流のおもてなしをするには、どんな心構えが必要でしょうか。
まずはお客さまのことを知ることですね。普段からどんな生活をなさっているのか、どんなことを求めていらっしゃるのか。経営者としてマーケティングすることが大事です。
ご自身で一流のおもてなしを体験するのもいい。何もヘアサロンに限定することはありません。ホテルやスパ、レストランで実際にサービスを受けてみて感動することが大事です。
ヘアサロンはお客さまに感動を与える場です。ヘアスタイルのご提案だけでなく、サロンの空間や雰囲気、おもてなしの心遣いなど工夫できることはたくさんあると思います。
――美香さんご自身もおもてなしを研究なさることもあるんですか?
私はホテルが大好きで、旅することが趣味でもあります(笑)。このホテルはどんなコンセプトで建てられたのか、サイトで調べたりリーフレットを読み込んだり。ひとつのことを深く知ることが好きなのでしょうね。
いろいろなおもてなしを受けて培われたことが、AMATAに生かされています。
起業で心がけておきたい3つのポイント
1.どんなサロンをつくりたいのかコンセプトを明確にしておく
2.コンセプトが定まったら、中途半端にせず最上のものを形にする
3.想定するお客さまの生活や求めていることをマーケティングする
異業種から美容業界に飛び込んだ美香さん。今となっては想像もできないご苦労がたくさんあったようです。そんな中で20周年を迎えたAMATA。創業からずっと変わらない揺るぎない姿勢に、美香さんのたおやかさと力強さを感じました。
後編では引きも切らずマスコミに登場するようになったきっかけや人材を確保する難しさ、これから起業を考えている方へのアドバイスをご紹介します。
撮影/森 浩司