カラー特化型への方針転換で逆転勝ち!専門サロンで差別化に成功【 VIF オーナー 田中元さん】#1
今回のインタビューゲストは、カラー技術のセミナー講師として大活躍中の田中元さん。彼がオーナーを勤める横浜市・大船のヘアサロンVIF(ヴィフ)は、90%以上のお客様がカラーメニューをオーダーするヘアカラー特化型サロンです。田中さんの卓越した技術と知識を目当てに遠方からも多くのファンが訪れる同店は、複雑履歴に悩む方の駆け込み寺的な存在としても知られています。
カラー技術に対する田中さんの熱い思いや、特化型サロンの運営の秘訣などを、前後編に分けて徹底解剖。前編では、経営難に陥った自身のお店をカラー専門店として再生させた経緯をたっぷり語っていただきます!
【お話を伺ったのは…】
VIF (ヴィフ) オーナー 田中元さん
1店舗を経て2014年に「VIF」をオープン。カラーメニューに特化した専門サロンとして人気を集め、その確かな技術力を武器に再来率は80%以上を誇る。年間1,000人以上のヘアカラーを手がける実績から生み出したカラー理論が注目され、セミナー講師としても活躍中。
Instagram:@vif.tanaka
フリーターから美容師へと転身した過去
――美容師を志したきっかけを教えてください。
実は私、美容師としてはあまりスタンダードとは言えないキャリアで…(苦笑)。10代の頃はコンビニや清掃などのアルバイトをして生活していました。美容師を目指したのは21歳の時。バイト仲間から「通信課程で美容師免許が取れる」と聞いたのがきっかけです。
そろそろ安定した職に就かなければと考えていた頃だったし、オシャレをすることも好きだったので、ごく軽い気持ちで美容師へチャレンジすることに。通信制で学びながら、アシスタントとしてサロンに勤務し始めました。
――通信過程だと通常は3年で卒業ですよね。
それが勉強にあまり身が入らなく、資格取得まで4年かかってしまいました。その後も紆余曲折あってなかなかデビューに至らず、結局スタイリストとして一人前になれたのは30歳近くになってからでした。
――田中さんの真面目なイメージとは異なる、意外なキャリアです。独立されたのはいつですか?
32歳の頃です。前の職場にはアシスタント時代も含めて12〜13年くらい勤めていましたが、ある日オーナーが店を畳むという話になって。それで、お店だけでなくお客様やスタッフも丸ごと譲渡してもらったんです。居抜きなら初期費用は最小限で済むし、まぁなんとかなるだろうと。今考えると、かなり見切り発車というか浅はかさを感じますね(笑)。
そういった経緯で思いがけず独立したのが8年前。店名も「VIF」と変え、新たな気持ちで再スタートを切ることになりました。
ドン底からの再生。カラー専門店として差別化に成功
――すでにお客様が付いている状態での開業なら、お店が軌道に乗るのも早かったのでは?
いや、現実はそう甘くはなかったです。以前からのお客様も最初は来店していただけましたが、結局のところ前オーナーの人柄や技術が好きだから通われていたわけで、私に代替わりしたことでやはり何か違うという気持ちになるのか、客足は減っていくばかりでした。
それに、前のお店は専門サロンという程ではないにせよ、カラーやエクステといった少し尖った技術を得意としていました。競合が少なかったこともあり、遠くからでも若いお客様がわざわざいらっしゃるほど。
けれどVIFオープン当時の私は、前のお店のブランディングを踏襲するつもりはあまりなく、オールマイティなお店づくりを目指していました。それも客離れの原因のひとつだったかもしれません。
――現在のようなカラー特化型サロンに方針転換されたのはいつですか?
オープンから丸1年たった頃、初めて営業利益が赤字になった月がありました。
恥ずかしい話ですが、赤字になる前も売上が上向きになるということがなくて。ゆるやかに下降しているという状況が続く中、ついに持ち出しという結果が出てしまい、これはいよいよマズいぞと強い危機感を覚えました。
「とにかく何かを変えなければ」という焦りと苦しさから、限界まで値下げしてみるなど試行錯誤してみたものの全然ダメ。何をやっても希望が見えないドン底の状況に追い詰められた結果、起死回生の策として選んだのが、カラー特化型サロンへの方針転換だったんです。
――どういった方法で専門性を打ち出したのでしょうか?
当時はまだクーポンサイト経由の予約が多かった時代です。ネットから予約できるメニュー項目をカット・カラー・トリートメントだけに絞り、その3つでしか新規客を取らないことにしました。
――メニューの選択肢を少なくするのは、勇気を必要とするチャレンジですね。
正直、めちゃくちゃ怖かったですよ。けれど、メインメニューを絞ったことは、予想以上に大きなアピールとなりました。お客様の心理に「専門店なら技術は間違いないはず」という信頼感を与えることに成功したんです。
一方、私の中では、カラーを前面に打ち出すのはあくまでも新規来店の取っ掛かりと考えていました。リピーター様には以前と変わらず縮毛矯正やパーマも施術していましたし、来店さえしてもらえれば、新たに他のメニューを提案してすることは十分可能だと見込んでいたので。
結果、お店のコンセプトをカラー特化型に変えて以降、売上は上昇を続けており、リピート率も80%超にまで成長しています。
専門性の高い内容もSNSで発信し、信頼感につなげる
――数あるメニューの中でも、ヘアカラーを売りにしようと思った理由は?
ずっと、自分の得意分野が断トツでカラーだったんです。デビューする前もカラーだけはお客様を担当させてもらっていたし、お客様からの感謝の言葉や高い評価をいただく機会は、カラーの時が圧倒的に多かったというのが1番の理由です。
――カラーが得意と自称するだけでは打ち出しが弱いように感じられますが?
おっしゃる通り。そのため、各メーカーの商材を比較するなどコツコツと実証実験を積み重ね、SNSを通じて発信することで、さらなる信憑性と安心感を提供できるように努力しました。
また、カラーに特化した頃が、ちょうどインスタグラムが流行り出したタイミングだったんです。当時はまだ、インスタを集客に活用しているサロンは少数派でしたが、カラーリングはbefore/afterの変化が分かりやすく、特にハイカラーやハイトーンはフォロワーの目を引きますよね。カラーを得意とするうちの店とは非常に融合性があると感じられ、積極的に運用を行いました。
――SNS発信を重視した結果はいかがでしたか?
私のお客様は、今はほとんどがSNS経由になりました。お店全体だと、SNS7:クーポンサイト3くらいの割合でしょうか。
うちの店は最寄駅から徒歩15分かかるため、立地的に恵まれているとは決して言えません。それでも発信さえしっかりやっていれば、少しくらい交通の便が悪くてもお客様は必ず来てくれると実感できました。通りすがりのお客様を期待しなくて済むという、気持ちの余裕を持って経営できています。
カラー特化という思い切った方針転換のおかげで、窮地を脱した田中さん。その後も、技術のアップデートと知識の積み重ねを地道に続けた結果、ヘアカラーの世界においては右に出る者がいない、唯一無二の存在へと成長を遂げました。
後編では、セミナー講師としても活躍する田中さんの、後進育成への熱い想いを中心に伺います。
取材・文/黒木絵美
撮影/喜多二三雄