スタッフに不安な思いをさせてはいけない…これが代表を務める者の責任。【mime オーナー 川島典子さん#2】

美容業界で働きながら「いつかは独立を」と考えている人に、起業した先輩たちに経験をお話しいただくこの企画。前編に続いて、2006年に眉とまつ毛ケア専門のサロン『mime』を開業した川島典子さんにご登場いただきます。

前編では、16年前はまだ珍しかった眉に特化したサロンを始めたきっかけや、男性の眉ケアをいち早く取り入れたいきさつなどをご紹介しました。後半では、東日本大震災やコロナ禍をどう乗り切ったのか、16年も経営を続けられた秘訣についてお話しいただきます。

お話しを伺ったのは…
mime オーナー
川島典子さん

4年制の音楽大学を卒業後、老舗専門店の外商部に配属され6年ほど勤務。結婚を機に退職し、PR代理店に転職。その後、化粧品会社の広報担当となる。2006年に退職し、女性2人で株式会社FLOWを立ち上げて共同代表取締役となり、目もと中心の化粧品ブランド『LyuVie』、眉専門のサロン『mime』を切り盛りしている。

順調な経営が一変! 東日本大震災とコロナの影響を受けて大ピンチに

創業当初から手がけているオリジナル化粧品の『LyuVie』。今ではリップ、スキンケアアイテムも加わり、サロンがクローズしていた間も売上に貢献してくれたとか。

――16年もずっと続けていられるのはすごいこと。ダメージを受けたことはあるんですか?

もちろんあります。私たちの業種は、「必要がない」と言えばその通りで、サロンへ行かなくても生活できてしまうんです。リーマンショックの影響で一気に景気が冷え込んだときも、お客さまの数が減りました。

私たちのサロンでは比較的3月と12月の売上がよく、2011年の2月あたりからようやく予約が増え始め、「戻りつつあるね」と喜んでいました。それが3月11日にあの震災。東京でも余震は続き、計画停電が実施されたエリアもありました。3月に入って「持ち直した」と思ったら、ほんの10日で売上がほぼゼロの日が続きました。

こんな状態で「店は大丈夫なのか」スタッフは不安になりますよね。「お客さまはいずれ戻ってくださるから店は続けます。もちろんお給料はちゃんと支払います」と約束しました

――売上ゼロなのに? 辞めてもらうとか、考えなかったんですか?

スタッフを手放してしまったら、お客さまが戻られたときに施術する人がいなくなります。お客さまがお戻りになるまで、ただひたすら待ち続けました。予約が入っていなくてもスタッフは出勤します。やることがなかったので床にワックスをかけてピカピカに磨いてました(笑)。

自分たちの努力が足りなくてお客さまがいらっしゃらなくなるのなら、私たちにもやりようがあります。でも、自分たちの力ではどうにもならないことが起きると、何をやっていいのか分からなくて本当に困りました。

仕事は「やりがい」ではないんですよね。スタッフも私も生活がかかっているんです

――震災は被災地でなくても、影響がありましたよね。2020年のコロナはどうでしたか?

私たちのサロンは、緊急事態宣言が出る前から休業を決めていました(笑)。
まだまだコロナの正体が分からない時期で、情報も錯綜していました。スタッフの間にも「コロナにかかるんじゃないか」という不安が出てきたので、4月の中旬ごろ「店を閉めよう!」と決めました。スタッフが不安を感じながら働くことは、経営者として本意ではありません。10日かけて1か月分の予約をキャンセルしていただくお願いをしました。

――どのくらい休業したんですか?

1か月です。緊急事態宣言は延長されましたが、私たちは1か月後には店を開けました。休業中、サロンの売り上げはゼロでも、オンラインショップで『LyuVie』の化粧品を販売していたので、会社の売上はゼロにはなりませんでした。金額としてはわずかでしたが、ゼロではないことが気持ちの面でありがたく、お財布が1つでなくてよかったと思いました

――未だにコロナの影響が抜けませんが、どんな対策をなさっているんですか?

特別なことはしていませんが、基本的な感染対策を丁寧にきちんとすることを徹底しています。予約時間をゆったり取ってお客さま同士がかぶる時間を少なくしたり、手指の消毒を徹底したり、施術道具やイスなど設備をこまめに除菌したり、換気に気を配ったり。いずれも普通だけど、大切なことです。スタッフにも休憩をずらしてもらって、休憩室の「密」を避けています。スタッフはお弁当派が多いんですが、休憩室が密になるときは、ランチ代を会社が補助して外食してもらっています。

――すごい徹底ぶりですね。

私たちのサロンは美容所登録を受けていて、保健所の管理下にあります。もともと意識が高かったのと、スタッフ同士のコミュニケーションがよくとれているので徹底できているんだと思います。スタッフの衛生管理に対する意識がものすごく高くなりました。大人数の会社だったら、ここまで徹底することは難しかったかもしれません。

もうひとつ幸運だったのは、ここが眉と目もと専用のサロンだったことですね。お客さまはマスクをしたまま施術を受けられますし、眉の施術なら45分ほどで終わります。感染のリスクが比較的低いと言えるかもしれません。今のところ、サロンからお客さまにもスタッフにも感染者は出ていません。

カリスマはいらない。高レベルの技術者を揃えることが重要

起業してよかったのは「頭の硬い上司がいない」「大嫌いな会議に出なくていい」ことだとか。

――16年もの間、途切れることなくずっと続いている理由は何だと思いますか?

清潔な環境を保っていることは基本ですが、何よりも高い技術レベルを維持し続けていることだと思います。眉の形にも流行はありますが、スタッフ同士で情報を共有しているので特別に研修会を開くことはありません。私の理想通り、みんなが一定以上のレベルでお客さまに施術しています。『mime』ではお客さまの骨格に似合う眉の形を12パターンの中から選びますが、眉メイクやちょっとしたことに技術者それぞれの個性が出ることは、いいことだと思っています。

――ヘアサロンのようにカリスマ技術者は作らないんですか?

カリスマ美容師がいるサロンって、通いづらくないですか? 上手な人はカリスマだけということが多いし、当人の予約はなかなか取れないし。うちは子育て中のママさんスタッフも多くて、お子さんに何かあると急に休まざるをえないこともあります。そうすると、予約なさっていたお客さまには日程を変更していただくか、ほかの技術者が担当してもいいか選んでいただきます。担当者が変わっても、満足していただける技術をスタッフ全員が身につけていれば、お客さまの予定を変えていただかなくても済むかもしれません。
「最低限ここまでできる」というレベルが、16年の間にどんどん上がってきている
ので、入社した新人さんが施術者としてデビューするのが大変になってきていますが(笑)

――技術者ではない川島さんが、そのレベルをどう実感なさっているんですか?

技術的なことはすべてスタッフに任せています。私は「口うるさい客」として、よく施術を受けているんですよ(笑)。技術的な細かいことは分からないし、何もできない分、施術を受けている経験値が高いので、施術者には気づかないことも分かることがあります。気づいた点があればそのたびに言って、スタッフの間で共有してもらっています。

――順調に経営を続けてきて、2店舗目、3店舗目は考えなかったんですか?

私は会社を大きくしようとは、まったく考えていないんです。そもそも社長になりたくて起業したわけでもなく、起業には向いていない人間だと今でも思っています(笑)。

店舗を増やすには2店舗、3店舗では効率が悪く、5店舗くらい展開しないと割に合わない気がします。そうなると資本が必要ですが、経営に関して何も言わずに黙って資金だけ出してくれる人なんていませんよね。誰かのために働くのは、会社員時代だけで充分(笑)。自分の身の丈に合わせた経営がいちばんです

これから先のことはよく考えます。頭が時代についていけなくなったり、身体が動けなくなったりしたらどうするのか。いいときに、次のステップに進めるように準備しないと…と模索中です。

――これから起業をしようと考えている人にアドバイスをお願いします。

何かを始めるとき、同業他社との差別化は必要です。でも「〇〇で流行っている△△△」のようなものを唐突に持ち込むのではなくて、今お持ちのスキルをブラッシュアップさせた先を考えるといいと思います。経営をする上では、判断する力とスピードが重要です。考えることは必要ですが悩み過ぎると不安になるし時間の無駄。やれることとやれないことの判断をきちんとしていくことですね。

私が16年も会社をつぶさずにやってこられたのは、無茶をしなかったからだと思います。多少の無理は必要ですが、無茶はだめです。スタッフとの関わり方も、以前は「こうあるべき」という話をしていましたが、今は時代も変わり、自分の考えがベストではないかもしれないと常に考え、スタッフの判断に任せる部分が多くなってきました。「私はこう考えるけど、みんなはどうしたいのか?」といった感じです

――川島さんは前職で広報の仕事をなさっていました。取材をしてもらうためにはどうしたらいいですか?

私は専門店の営業からPR代理店に転職しました。その会社の社長が「営業は商品を売るのが仕事。PRは情報を売るのが仕事。売るモノが変わるだけ」とアドバイスしてくれました。マスコミに取材されたいなら、まずは自分たちの強みをしっかり整理した上で、取材者の視点に立つこと。今は自ら情報を発信できる時代。取材を待つだけでなく、SNSを使ってどんどん発信してはどうでしょうか。

経営を軌道に乗せて順調に続けるための3つのポイント

1.スタッフが不安を感じ始めたら、すぐ原因を取り除くこと

2.店全体の技術力を高いレベルで維持すること

3.サロンの施術だけでなく、ほかの収入方法も確保しておくこと

起業して変わったことを伺ったら「胃薬を飲まなくなった」とおっしゃった川島さん。会社員時代は「理不尽」と感じることも多く、「これはおかしい!」と上司に訴えても、受け入れてもらえなかったことがあったそう。ご自身では「経営者に向いてない」と分析していらっしゃいましたが、「身の丈に合った経営」を続けるのは意外に難しいこと。「多少の無理はしても無茶はしない」経営にヒントがありそうです。

撮影/古谷利幸(F-REXon)

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Salon Data

mime
住所:東京都中央区銀座1-6-1 銀座クレッセントビル9F
TEL:03-5856-9305
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