三条市でUターン開業。SNSが普及して「いない」地域で勝負【KOKUA 代表 梅澤勇人さん】#1
新潟県三条市に2022年6月、新オープンしたフリーランスサロン「KOKUA」。代表の梅澤勇人さんは東京で会社員・フリーランスを両方経験したのち、故郷で開業しました。市街地ではなく、あえて市街地から離れたエリアにサロンを構えた理由は「SNSやネットが普及していなかったから」だそう。その結果、高価格サロンのブランディングに成功。
前編では、会社員からフリーランスに転身したときに感じたギャップ、地元での開業準備、高価格集客が実現できている理由などをお聞きします。
教えてくれたのは…
「KOKUA」代表 梅澤勇人さん
高校卒業後に上京。専門学校卒業後、表参道のサロンに7年勤務。その後、銀座のサロンに業務委託で3年勤務。30歳の節目に故郷の新潟県三条市に戻り、「KOKUA」を開業。県内随一の高単価・高報酬のフリーランスサロンとして注目を集める。現在、2店舗目出店を予定。
手取り収入アップを狙い、会社員からフリーランスへ
――これまでの経歴を教えてください。
東京の専門学校を卒業し、表参道のサロンに7年勤めたのち、銀座のサロンで業務委託で3年間経験を積みました。その後、地元の三条市に戻り、「KOKUA」を開業しました。
――都内時代は正社員とフリーランスの両方を経験されたのですね。
表参道のサロンに勤めていた頃、スタイリストデビュー月の売上は70万円くらいでしたが、そこから思うように上がらず…。手取り収入は15万円ほどでした。そんなときに業務委託の求人を見たら、売上100万円くらいで手取り収入が50〜60万円が可能との記載があったので、業務委託で働いた方が給料が上がるなと単純に思い、フリーランスに転身したんです。
――実際にフリーランスになり、ギャップはありましたか?
カット+カラーの場合、表参道のサロンにいた頃から通ってくれていたお客様からは1万3000円をいただいているのに、フリーランスになって集客した方からは5000円と、単価にバラつきがあったんです。金額によってサービスに差をつけるつもりはありませんでしたが、こちらのモチベーションは下がりますよね。業務委託で働くようになって、最初はそれが嫌でしたね。
――フリーランスとなり、手取り収入アップは叶いましたか?
これは結構グレーな部分ですが…奇跡的に前のサロンのお客様が僕のことを探して来てくださり、初月から報酬額は40万円くらいになりました。そこからは指名のお客様を増やしながら、最終的に70万円くらいまでは稼げるようになりました。なので、手取り収入は2〜3倍になったと思います。
――フリーランスを経験した上で、正社員で働くメリットは改めて何か感じますか?
アシスタント〜スタイリスト1年目くらいの下積み期間は、教育課程がしっかりしているサロンに所属していなければ難しいと思います。人から教えてもらえる、指摘してもらえる環境にいることは大事かなと。ある程度技術力が上がり、売上がついてきたらフリーランスを選択肢の一つにしても良いと思います。
また、もし500〜1000万円の売上をつくりたい場合は、アシスタントをつけなければ難しいと思うので、正社員として働いていた方がいいかもしれません。
――会社員とフリーランスの両方を経験しておいたことで、その後の美容師人生にプラスとなったことはありますか?
どっちが良いか悪いかは各個人で感じ方は異なると思いますが、僕は両方を経験できたことでそれぞれのメリット、デメリットを肌で感じられたことは良かったかなと思っています。何でもそうですが、経験していないのにあーだこーだ言うのは違うんじゃないかと思っていて、まずはやってみる。その上で自分に合う形を取る。というスタイルは今に生きているかなと思っています。僕は、その上でフリーランスサロンを選んだという感じです。
「ほぼ東京」の中心地より、SNSやネットが浸透していないエリアの方が差別化しやすい
――なぜ故郷に戻り、開業したのですか?
もともと30歳で独立したいとは思っていたんです。そこから逆算し、27歳でフリーランスになったわけなんですけど。独立するときは新潟に戻ると決めていましたが、新潟のどのエリアで開業するかまでは特に決めていなくて。
――新潟の都心部からやや離れている三条市を選んだ理由とは?
三条市は正直それほど美容室が発展していないというか…昔ながらのおばちゃん美容室が親しまれているエリアなんです。美容業界は今や集客も予約もSNSやネットが主流になっているのに、三条市ではSNSやネットをメインツールにしている美容室はあまり多くありませんでした。それに気づいたときに「勝てるな」と確信したんです。地方で開業する上で不安が全くなかったわけではないですが、根拠のない自信はありました。
逆に、中心部の新潟市は東京に近いというか。SNSやネットの文化が浸透しきっているエリアなので、差別化はできないだろうなと。
最初はテナント物件を探していたんですが、なかなか理想的な物件には出会えず、思い切って「建てる」という選択に至りました。昔、祖父が経営していた工場を今は誰も使っていないと小耳にはさみ、一度見に行ってみたら「イケるかも!」と思い、改装したんです。工事にはお金がかかりましたが、長い目で見たときに家賃が発生しないということは大きなメリットだなと。
――サロンを建てる際、特にこだわった部分はありますか?
開業するとき、自分の好きなテイストでデザインする美容師が多いですが、僕はお客様とスタッフの目線になってデザインしました。
ごちゃごちゃしないように彩色はなるべく取り入れず、内装は白とグレーのみ。本当はオーシャンビューにしたかったけど三条市ではムリなので(笑)、代わりに田園風景をメインにしようと思ったんです。地元住民は田んぼ景色をのんびり眺めることって意外にないので、あえて田んぼを借景にするのもアリかなと。
あと、スタッフが休憩しやすいようにとバックルームはかなり広く取りました。僕の趣味はほとんど反映させていないですね。
――ほかに、開業準備で苦労したことはありますか?
銀行からお金を借りるのは思いのほか大変でしたね。こっちで開業するとなると当然地方銀行でお金を借りなければいけませんが、僕はずっと東京で活動していたので、こっちでの実績はゼロ。集客をはじめ、全てのことがゼロスタートなわけなので、「お店を出します」と言ったところで銀行の信用を得ることは難しくて…。「根拠あるの?」と結構突っ込まれました(笑)。結局、事業計画の練り直し、練り直しで、予定より2ヶ月遅れでのオープンになりました。
――エリア随一の髪質改善を掲げるこちらのサロンは、エリアの相場からすると高価格帯なのではないでしょうか?
そうですね。縮毛矯正をウリにしているのですが、縮毛矯正コースで2万円と、他のお店よりも高価格にしています。車がなければ来られない場所に建てたこともあり、学生さんは最初から視野に入れていませんでした。
しかし、客層はやはり大人女性が多いですが、19〜20歳の若い方も案外いらっしゃるんです。美容に関してはお金を惜しまない人が多いみたいで、これは予想外でしたね。
――高単価集客が実現できる理由とは?
入り口をぐっと狭めて打ち出すことで必ず一定数のお客様が集まってくれるんです。そのあとは、ご来店いただいたお客様に満足していただければ自然とリピートにつながりますから。「他よりも高い」というブランディングが今は上手くいっています。
あとは先ほどもお話ししたように、地域柄も勝因の一つ。ネットやSNS集客がまだ普及しきっていないエリアなので、オンライン上でサロンの特徴やブランドを上手に発信できていれば目立てるんです。ここ最近は、三条市にもうちと同じように髪質改善を謳うサロンが増えてきましたが、写真の撮り方や見せ方はうちの方が上手だなと思っています(笑)。
会社員とフリーランスの両方を経験した梅澤さんが故郷で立ち上げたのはフリーランスサロン。その理由について後編で詳しくお聞きします。「フリーランス美容師の将来性」を守るための決断だったようです。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)