美容業界の課題に真摯に向き合うことで生まれた、業界の新時代を牽引するサロン「Null」
「クリエイターが輝く世界を作る」ために2023年6月にオープンしたブランドサロン「Null」。前編では立ち上げのきっかけやスタッフの個性を生かすためのオーダーメイドの教育等について伺いました。後編ではお客さまにとって価値のある店舗にするための施策について掘り下げていきます。さらに、人材の育成や美容業界をどのように変えていきたいかなど、3名が共通して掲げる目標を教えてくれました。
今回、お話を伺ったのは…
(左)内海風我(以下フウガ)さん、(中央)松岡諒さん、(右)川久保直明さん
美容師/「Null」代表
川久保直明さん
18歳で美容師免許を取得後、19〜20歳まで渡英し、ロンドンにあるsassoon academyのディプロマを取得。唯一無二なスタイルと圧倒的な技術力で日本だけでなく海外からのファンやクライアントも多い。
フウガさん
アシスタント期間0日でスタイリストとなり、都内サロンで店長を務めた後、独立。ハイトーンデザインの似合わせを得意とする。サロンワーク以外でも講師活動や学生向けの発信など幅広く活躍している。
松岡諒さん
新卒フリーランス美容師のパイオニア。業界最大手のシェアサロン「GO TODAY SHAiRE SALON」にてマネジャーやマーケティング業務などを経験。現在もサロン事業部内チーム長として暑役している。同時に自身のFCシステムを展開するなど美容師としての実績も豊富。
訪れるだけで価値のある空間を意識して作られたデザインカラーが映える和モダンなサロン
――前編ではスタッフが活躍するための仕組み作りについてお伺いしました、お客さまにとってはどのようなサロンでありたいとお考えですか?
川久保:圧倒的ブランドサロンにしていきたいと思います。「ここに来れば他にはないデザインにしてもらえる!〇〇さんに担当してもらえる!」とサロンに来ること自体に憧れられるようなサロンにしていきたいですね。お客さまがご来店することに意味を持ってもらえるようにサロンの雰囲気づくりにもこだわりました。
松岡:「Null」というサロンに通っていることが一種のステータスになるようなブランドサロンでありたいと考えています。すでに川久保は個性的なデザインで客単価1時間1万円をいただくほどの人気を得ており、スタッフ全員がそのくらい高い技術とレベルを持つことを目標としています。お客さまにとっても価値のある時間を提供したいですね。
――空間づくりにおけるこだわりを教えてください。
松岡:和モダンを意識して家具もシックで高級感のあるものを選びました。盆栽を置いたり、スタッフのお母さまにプレゼントしていただいた毛筆の会社理念などを飾ったり、シンプルで洗練された空間のなかにも遊び心を入れています。全体をモノトーンにすることで「Null」が得意とするデザインカラーが映える空間となりました。参考にしたのはアマン東京などラグジュアリーホテルでもトップクラスの場所。安いものは置きたくないので設備の1つひとつにかなりこだわりました。
今後のトレンドを分析し、最先端をいくことで多くのお客さまの注目を集める
――デザインカラーをメインに推していく予定ですか?
松岡:はい。デザインカラーは市場規模で見たらまだ需要が少なく、ビジネス的な観点でどこのサロンもまだしっかり介入できていない領域なんです。まずは僕たちの力でデザインカラーの技術を確立して、そこを中心に技術を展開していきたいと思っています。その後はスタッフそれぞれの得意分野によって規模感を広げていく予定です。
――集客はどのように行っていく予定ですか?
松岡:今後伸びるであろうトレンドを研究する力をフウガが持っているので、まだ競合がいなくてこれから絶対に流行る技術をこれからもしっかりと察知して、集客の基盤にする予定です。
フウガ:たとえば今トレンドの毛先を染める「エンドカラー」は僕が名付け親なんですよ。
松岡:「エンドカラー」は昨年までは検索ボリュームがまったくなかったのですが今年は去年と比べて900%くらい検索されているんです。このように流行を読み取ることで、予約サイトやSNS、グーグルSEOなど自分たちで更新が不要なところで自動的に「Null」の名前が上がるような集客基盤を作っていきたいと思っています。
また僕自身、「GO TODAY SHAiRE SALON」での経験などから集客の基盤となるノウハウを蓄積し、フリーランスの美容師にコンサルを行い、売上をあげる新規事業を立ち上げたんです。メンバー全員の平均売上が約3倍になる実績があるので、たとえばビジネス的に強いSNSのページづくりなどを「Null」のスタッフには教えていきたいと思います。
「Null」が新しいことにチャレンジする姿を見て業界全体がいい方向にシフトしてほしい
――「クリエイターが輝く世界を作る」とのことですが、具体的にどのような人材を育てたいとお考えですか?
松岡:世の中に価値を生み出す人間になってほしいと思っています。そのためにはまず、自分自身が仕事に充実感を持ち、人生を満足して生きることがとても大切です。今うまくいかないと思っている多くの美容師も、労働条件や何かしらの不満や不安があって本質が出ないだけで、ちゃんと満たされていればどんな人でも輝くと思うんですよ。自分が輝いて初めてお客さまや世の中にすばらしいものを提供できると思うので、本当にいいものを生み出すことに集中できる、ほかのしがらみのない環境を作っていきたいです。
そうして今度はその環境を下の世代に伝えていってほしいですね。「GO TODAY SHAiRE SALON」の代表の大庭さんや、僕が起業を志すきっかけになった方であり、今では髪を担当させていただいているとある有名なな起業家の方の姿を見たときに、本当に誠実にずっと仕事をされていて。その姿を見て、自分を追い込んででも誰かのため、世の中のために本気で動ける人になりたいと思ったんです。川久保とフウガもそっち側の人間なんで。これから「Null」で働く方にはもちろんたくさん稼いでほしいという気持ちもあり、還元率も可能な限りあげていきたいと考えていますが、お金だけではなく誰かのために動ける人になってほしいです。
――美容業界全体にはどのような影響を及ぼしたいとお考えですか?
フウガ:「Null」を立ち上げるずっと前から美容師の離職率が高いことに疑問を抱いていました。僕は新卒からずっと自分が美容師を1番楽しんでいると言い切れるくらい充実して仕事ができていたのですが、いろんな人の話を聞いていると、技術があって僕と同じように働けるはずなのに、環境が原因で挫折してしまった人がたくさんいることに気づいたんです。
そんな人が当たり前に輝ける場所を作ること。「Null」と関われば自分は輝けると確信できる存在に自分たちがなるべきだと思っています。どのサロンも素晴らしい会社さんだとは思うのですが、美容師として自分のタイミングで輝くって結構難しい世界なんですよね。僕はなんとかたまたまかいくぐってこられたんですけど、そこをきちんと仕組み化してかなう場所を作りたいです。そうすると周りのサロンも危機感を持ってくれるだろうし、焦らせたい、という言い方は合っているかわかりませんが、僕たちがやっていることを見てほかのサロンも変わっていってほしいと思います。
松岡:いずれ「Null」から独立していく人も出ると思うのですが、この環境で育った人が作るサロンも同じような世界になるはず。僕らの代から環境にとらわれずに個性を発揮できる業界であることがスタンダードになればうれしいです。そのためにサロン同士の交流なども積極的に行っていこうと思います。
一方で、業界のいいところは引き継いでいきたいと思っていて。美容師の多くはアシスタントのために夜遅くまで残って練習を見てあげたり、お客さま1人ひとりを大切にしたり、誰かのためになにかをしたいという人に熱い方が多い気がします。その点は素晴らしいと思うので、それをちゃんといい形で残すためにブラックと言われない働き方を提案していいたいです。多くの美容師の見本となるような仕組み作りや姿勢を見せて業界の新時代を作っていきます。
川久保:美容師や世の中全体の感覚の解放をしたいです。みんな1人ひとり別の人間なので、その方の個性や感覚に合ったやり方をのびのびとできる場所として「Null」がパイオニア、ニュースタンダードになっていけばと思います。
「Null」が目指す新時代のサロンを作るポイント3つ
1.お客さまにとって来店自体が価値となる空間や技術を提供する
2.世の中に価値を生み出す人材を育成する
3.自身のサロンにとどまらず他のサロンを牽引する仕組みをつくる
オープン前の忙しいなか取材に応じてもらいましたが、みなさんとても楽しそうに、熱く語る姿勢が印象的でした。3名の姿勢からは美容師という仕事が本当に好きで、ほかのすべての美容師にも好きであってほしいといく気持ちがひしひしと伝わってきます。まだまだオープンしたばかり。これからの「Null」の発展が楽しみです。