数えきれないモヤモヤを通り抜け、自分を確立。覚悟を決めて無駄を乗りこなす余裕が大事【S.HAIR SALON 植田高史さん】#1

個々のファッションやライフスタイルに寄り添う施術で支持を獲得しているサロン「S.HAIR SALON(エス)」。オーナーを務めるのは、メディアや業界に引っ張りだこの植田高史さん。物腰柔らかで、一度話した相手は必ずその優しさに惹き込まれること間違いなしと、業界内で話題です。そんな植田さんに若い頃のお話を伺うと、さまざまな葛藤と思考が垣間見られました。

前編では、植田さんが美容師を目指した経緯やデビュー後の葛藤についてインタビュー。現在の植田さんを形成した背景を深掘りします!

お話を伺ったのは…
S.HAIR SALON 植田高史さん

高校卒業後、都内にある美容専門学校へ進学し、就職。当時では異例の速さでデビューしたのち、サロンワークのほか、仕事の幅を広げて人気を集めるも、海外へ渡航。帰国後、S.HAIRSALONを開業して話題になり、顧客のみならず業界関係者からのラブコールが絶えないサロンとして支持されている。

美容師に「決めた」から、これまで続けてこられた

学生時代は、イギリスのモッズカルチャーに影響を受けていた植田さん。「音楽とファッションが好きでした。ファッションでスーツを着ることはあっても、仕事で着ている姿を想像できないと思っていました」。

――もともと美容師を目指していたのですか?

高校の頃、特に目指すものがそれ以外になかったので、とりあえず大学に進学しようとしていたのですが…部活動でお世話になっていた先生に止められたんです。「大学は夢を探しに行くところではない。将来を考えるときに大事なのは、決めること」だと。

今になれば言っている意味は分かりますが、高校生のうちに未来について考える機会なんてあまりないじゃないですか。その言葉を受けて、難しいながらも自分なりに考えました。

――では、どんなきっかけで美容師に?

考え始めてからちょうど1ヶ月の間に、友人と一緒に美容室に行く機会があって。施術してもらっているときに「これだ!」と思ったことがきっかけです。

それまでは先のことなんて考えられないと思っていたのですが、そのとき初めて、ストンと降りてきたのを感じたんです。降りてきた…なんて言うと格好良く聞こえるかもしれませんが、女性にモテそうとか上手くいけばお金も手に入るかもと、内心ワクワクする気持ちもありました(笑)。

でも、そのとき初めて先生に言われたことが腑に落ちました。「決めるって、こういうことか!」と。美容師になると決めたあとは、美容専門学校へ進学。インターンを終えたと同時に美容師免許を取得し、都内にあるサロンに就職しました。

――直感で決めた美容師。実際に身を置いてみていかがでしたか?

最初の1年はそこそこ苦しかったし、大変でした。

当時ではわりと早く、2年半でデビュー。ただ、デビューしたからといって、すぐにいろいろなことができるわけでもなく、自分の技術に自信が持てない日々が続きました。

圧倒的経験不足は「引き出し」を増やして補う。「無駄」を通ってこそ厚みが増す

窓からは青々と茂る緑が一望でき、心地よい風を届けてくれます。

――どのようにして抜け出した?

さまざまなお客様の要望を叶えるには、とにかく自分の中の「引き出し」があまりにも少なかったんです。

何かを生み出すには、自分の中に材料が必要です。何もない空っぽのままでは、生み出すことができません。お客様に自信を持って提供できるヘアスタイルを生み出すために活用していたのが、デザインブックでした。わずかなお金で買い漁り、自分の中に知識を詰め込む。その詰め込んだ情報を施術に落とし込むことで、「自分のもの」にしてきました

――自分で何かを掴むためには、時間と労力も必要ですよね。

早いうちに、自分から積極的に学び行く習慣がつけられたのは良かったと思っています。

今は分からないことや手に入れたい情報はネットで調べればすぐに出てきますが、当時はまだネットがそこまで主流じゃない時代でしたから、アナログな方法で探すしかなかったんですね。効率が良くて便利だし、無駄がなく活用できるツールは素晴らしいと思います。でも、僕はその無駄を経験することも重要だと思っていて。ネットで検索したら一発で答えが出てくるところをわざわざ図書館や書店に行って目的の本を見つけるような、一見、無駄に思える工程を経ているのか経ていないのかで、人としての厚みや深みが変わってくると思うんです。

例えば、ネットは検索した一部しか表示されないけれど、その場に赴けば一部だけではなくもっと全体を見渡せる空間が広がっています。無駄だと思っている工程の中に大事なヒントが潜んでいて、答えにつながる糸口が見つかることも往々にしてあるんじゃないかなと。

「無駄」と思われがちな工程を経たからこそ、自分の中にある悩みや葛藤と向き合い、自分にとっての最適解が得られたのだと感じます。

もやもやは志を表す感情。上に登っていきたい気持ちを大事にして

――悩みを解決する過程で、思いがけない気づきも得られたと。
お客様と接するうえで大事にしていることは?

一番は、相手が喜んでいるかどうか。これは、僕の過去の出来事に紐づいていて。

デビューしてから3年目には、ありがたいことにたくさんの指名をいただき、サロンワーク以外でもメディアへの出演など活動の場も広がっていました。ところが、来る人来る人同じ髪型を要求されることが増え、疑問に感じてしまった時期があって。僕自身、デビュー当時と比べて経験値と知識量が上がっていたこともあり、自分が格好良いと思うヘアスタイルと求められるヘアスタイルとのかい離が生じてしまったんですね。

でも、お客様ごとにそれぞれ良いと思う髪型は存在していて、それを再現するお手伝いをするのが美容師なんじゃないかと気づいた瞬間があったんです。僕が良いと思っていても、お客様が不満そうにしていたら、それはお客様にとって良い髪型とは言えません。要望に応えられることでお客様の喜びにつながり、それが良い髪型なんだと改めて気づくきっかけになりました。それからは気楽に仕事と向き合えるようになった気がします。

――ご自身で思考を繰り返すことでご自身の問いに答えを導いてきたのですね。

植田さんが創り上げるスタイル。

モヤモヤする気持ちは、志が高くてまだまだ上にいきたいと思うからこそ生まれる感情だと思うんです。今のままで、そのときの状態で良いと満足していたら悩まないじゃないですか。志が高い分、悩む時間も長いしもやもやも大きい。僕は、そのモヤモヤをたくさん通ってきた自覚があるからこそ、今の自分につながっているのだと思います。だから、今は伸びしろが減ってしまったのか、もやもやする機会が少なくなりましたね(笑)。


取材・文/東 菜々(レ・キャトル)
撮影/塩谷哲平

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Salon Data

S.HAIR SALON
住所:東京都港区南青山5-4-3 南青山イズミビル2F
電話:03-6419-3567
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