納得のアロマブレンドが完成するまでは、ひたすら実験 アロマインストラクター 岩本明子さん#2
定期講座やスクール講師として、延べ1600名以上の受講者をもつアロマインストラクターの岩本明子さん。前編では、福袋に入っていたアロマランプがきっかけでアロマの世界に入ったこと、岩本さんの繊細な性分を知った生徒さんが、お互いに大丈夫であろう人を呼んでくれて生徒さんが増えていったというお話を伺いました。
この後編では、自らもマニアックと称するアロマブレンドへのこだわり、アロマの仕事を長く続けるための秘訣などを教えていただきます。
納得のアロマブレンドが完成するまでは、ひたすら実験

――アロマブレンドへのこだわりがすごいですよね。
マニアックなんですよね。頭で考えたものを実際にブレンドしてみると、まったく違うものができたりするので、もうひたすら実験しまくっています。
――依頼を受けて試作されるんですよね?
最初はインスタ用の「季節の香り」を作るためにブレンドを始めたんですが、時折依頼が舞いこむようになりました。あるとき拒食傾向で悩んでいる方のお母様から依頼があり、知識だけでブレンドしたら「ほら食べなさい」みたいな香りになってしまって。これでは逆にプレッシャーで萎縮してしまう。ダメだ、ダメだと延々と試作を重ねました。
――試作中はどんなことを考えているのでしょうか。
自分がクライアントだったらと考えを巡らせます。自己満足で終わらせてはいけないし、自分なりに納得したものでないとお金をいただくことはできない。最後まで気が抜けませんね。

――悩んで、悩んで、完成の決め手はどこにあるのですか。
自分に自信がないと言いながら、最後は自分なんですよね。「はい!来た」と思える瞬間があって、そこはもう自分を信じるしかないと思っています。
先日、コンビニや外食チェーンのメニューに合格か否かを出すテレビ番組を見ていたら、シェフが「ゼリーに入れるゲル化剤の微量の違いでパーッと味が際立ったり、また風味がまったく消えてしまったり。そのさじ加減が悩みどころ」とおっしゃっていて、「そうそう。わたしも一緒!」と妙に共感してしまいました。有名シェフでもそうなんだから、いつも試作の山ができてしまうのは無駄じゃなかったんだと思えましたね。
――小さな瓶にはそんな制作過程が詰め込まれているのですね。クライアントはどんな反応を?
香り自体は喜んでいただけることが多いですね。中には「まだ使ってないけど、いまはお守りとして持っています」という方も。
香りではないところで苦言をいただくこともあります。精油は高価なものだし、容器は安全第一なので超無機質。見た目の女子力を上げようと100円ショップでシールや装飾を多用していたら、「アロマにお金を落としているのか、100円ショップにお金を落としているのか分からなくなった」とその後徐々に来なくなった方がいて。それはすごく響いて姿勢を改めました。苦言を素直に聞くことで、自分がさらに成長できることを実感しています。
仕事はわたしにとって簡単ではない。だから楽しみではないかも(笑)

――アロマの仕事を長く続けるための秘訣を教えてください。
10年間活動を続けてこられたいちばんの理由は、人に恵まれたことに尽きます。活動を通して知り合えた方が「あなたに合いそうな場があります」、「あなたに合う人がいます」と次の出会いやステージへと繋げてくださって今に至ります。「人」を大事にするための自分なりのポイントは3つ。
苦言や異論を受け入れる、あるいは受けとめる。もしあのときの苦言がなかったら、支障が生じて続けていられなかったと思うことが多々あります。単独行動の自分にとって苦言は一人では気づけないことへの灯り。腑に落ちるたびにありがたいなと感じています。
わたしは同じ時間に、同じ場所で、同じ人と会うのが苦手なので人と適度な距離感をおくことを心がけています。それを許容してくださる方々のお陰で成長することができ、ここまで仕事を続けてこられました。
また神経質でこだわりが強くマニアック、さらに優等生でいようとする側面があるので、少しいい加減に捉えてみる。生徒さんが圧で息苦しさを感じないように、自分を勝手に追いこんで辛くならないように。これは今後の課題でもあります。
――ではアロマインストラクターを目指す方へメッセージをお願いします。
香り単体ではどうしても限界がありますが、香りは見えない脇役になれるので異なる専門分野と組むことで相乗効果が高まり、際限ない需要が期待できると思います。これまで音楽、写真、読み聞かせ、お花、占いなどの方々とコラボする機会がありましたが、いずれも好評でした。
お客様や生徒さんを癒す役割は、香り(精油)が担ってくれます。自分が無理にがんばらなくても、喜んでお帰りになる方々を見送る頃には、達成感とコミュ力上昇の余韻に浸れて、自信の芽が育っていきます。香りは秀逸の相方です。
もちろん合わないところやご縁がなかったところも数々ありました。申込ゼロで開催中止。しぶとく続けても結果は同じでした。仕方ないと割り切るまでに時間がかかりましたが、退くとスッキリ(笑)。合うところを探す、合うところからお声がけ頂くことに労力を向ける切替は必須です。
――最後に岩本さんにとって働くとは?
講座講師の仕事は、毎回が真剣勝負。前日は、準備万端にしていても「明日中止にならないかな…」と不安で逃げ出したくなります。目に見える以上の緊張と労苦があり、わたしにとっては簡単なことではありません。だから仕事は楽しみではないかも(笑)。
でも同時に講座を無事に終え、お風呂に浸かってホッとしている姿を想像する自分もいます。ご参加の方から頂く率直な嬉しい感想一言で舞い上がり、心から安堵して、そのときばかりは丁寧に自分を労います。
アロマを仕事にすることで、自己受容感を得ることができました。この仕事でいちばん恩恵を受け、変化したのは自分自身かもしれません。かつての閉ざしていた自分の傍に香りやアロマインストラクターの先生がいたら、もっと早く暗闇を抜け出せていたかもしれない。これからは、いま同じような辛さと向き合っている方々に、人知れず作用するアロマを届けたい。働くことで自分の存在価値を作っていただきました。「いまがいちばん」座右の銘です。
岩本さんの成功の秘訣
1.精油の持つ力に感謝する
2.自分の性分と合う方との出会いを大事にする
3.苦言を受け止める、受け入れる
精油を「この子たち」と呼ぶ岩本さんに、精油への強い敬意を感じました。自らの辛かった経験をもとに、精油をツールとして、同じ辛さを持つ方を支援する岩本さんの活動、ぜひ参考にしてください。
撮影/佐藤克己
取材・文/永瀬紀子