美容師とヘアメイクの両立について ヘア&メイクglams・小林懸さん #1
一流の人気ファッション誌でヘア&メイクアップアーティストして活躍するglams (グラムス)代表の小林懸さん。トップモデルからも信頼される存在で、すでに30年も第一線で活躍されています。
そんな小林さんですが、実は20代のころからサロンワークとヘアメイク、二足のわらじで仕事をしてきました。トップアーティストでありながら、今もなおサロンワークを怠らない理由についてお伺いしました。
映像に関わる仕事をしたくてヘアメイクを志す
――浮き沈みの激しいヘアメイク業界で、すでに30年以上も活躍されている小林さんですが、そもそもこの業界をなぜ志したのでしょうか?
「80年代の頃ミュージシャンのPVが流行していて、僕はその世界観にハマっていたんです。なので、なにか映像をクリエイトする仕事に就きたかったんですね。そこでアーティストと深くかかわるヘアメイクをチョイスしたのがきっかけです」
――当初は映像の業界で働きたかったんですね。
「はい。その後、美容学校に入学。卒業し就職した先が当時、ヘアメイクとサロンの両方を持つ“B-RUSH”(ビーラッシュ)というサロンでした」
――当時のトップサロンですね。
「僕はそこしか受けていないんですよ。だって技術を軸に考えれば、サロンワークで一般の方の施術もできて、尚且つプロ集団の中でアーティスティックな仕事もできる。そんな贅沢な仕事ってなかなかないわけですから。自分自身も若かったから、いろいろやってみてたくさんの刺激が欲しかったというのもありますね」
その後、小林さんは当時のトップ雑誌であるmc Sister、olive、nonno、Seventeenなどのファッションページで活躍します。
「僕は20代の頃からファッションページばかり担当しているんです。だから、早朝ロケがとても多い。で、雑誌の仕事が終わると昼過ぎなどにサロンに戻り、サロンワークでお客様の髪を施術するわけです。もうこの繰り返しです。B-RUSHには21歳から32歳まで所属していて、その後はフリーランスになりました」
――フリーになると、それまでのお客様はどうされたのでしょう?
「簡単に言うと別のサロンで面貸しのような契約をして、そこで施術を行っていました。このときも同じ仕事の仕方で、ほとんどは早朝から撮影、午後はサロンでお客様という2本柱でした。ファッション誌の撮影のときは、当時も今もそうなのですが、モデルさんが朝、サロンにいらしてそこでヘアメイクをするんです。で、ロケバスが迎えに来る。そんな生活が10年ぐらい続いたある日、表参道のヘアサロンで髪を切ってもらっていたら、となりの席に座った方がたまたま不動産会社の方で。その方と美容師さんの会話の中で“外苑にあるヘアサロンが移転するんだけど、ここがいい物件で…”というような話をされていて。そこで衝動的に“僕、興味あります”と言ったんです(笑)」
――ご自身のサロンを持ちたかったということですか?
「特別思っていたわけではないんだけど、そのサロンの場所はたまたまロケバスが駐車しやすかったんですよ(笑)。で、内装も倉庫みたいでかっこよかったし。じゃあ、ここで自分でやろう!って感じで即決しました」
――それが現サロンのglams(グラムス)ですね。
「そうです。外苑のイチョウ並木通りの前で、道も広くてロケバス停めやすいでしょ(笑)」
朝3時に起床。ロケをして午後にはサロンワーク
――現在の一日の仕事の流れを教えて下さい。
「午前中はファッション誌の撮影が多いので、3時頃に起床してサロンに出勤。モデルさんのヘアメイクをしたらロケバスに乗り込んで撮影をこなしていきます。昼ごろには解散ですけど、スタッフとみんなで食事をしたりしてその後、サロンに戻ります。お客様をこなし、6時ごろには僕は終了。次の日もロケだったりするので、サロンワークを長くし過ぎるとオーバーワークになってしまう。でも、撮影が少ない土日は朝からサロンワークをしていますね」
――ヘアメイクさんとしては理想の形ですね。
「僕はサロンワークも好きなんですよ。雑誌は創られた世界観だけど、サロンワークはリアルじゃないですか。この対比が心地よいというか。撮影の仕事をしていると、あの瞬間的な美をサロンワークでも応用できるんですね。美容師としても幅が広がるからお客様に“こんな感じどうだろう?”って提案力が増すんです」
ヘアメイクはフリーランス。将来的な不安が出る人がいて当然かも
――ヘアメイクをしている方でもサロンを持ちたい方は多くいますよね。
「ヘアメイクはフリーランスのカテゴリーですからね。将来が見えにくいからではないでしょうか。僕の場合は最初から2本柱でやらないといけないサロンでしたから、ラッキーなのかもしれない。幸い、その頃についたお客さまもずっと通って下さっているわけですから。やはり、ヘアメイクより美容師のほうが安定力があるのは事実かもしれないですね」
――ヘアメイクさんにはリスクがありますか?
「まぁ、あるかもしれませんね。突然、今まできていた雑誌のオファーが無くなったりすることもあるわけだから。全てはクリエイトする力で判断される世界ですからね。その点、サロンワークはお客様と自分とのつながりで構築する関係だから、ヘアメイクに比べて長い目で仕事ができると思いますよ。僕の場合はそれを狙ったわけじゃないけど、結果としてそれはいえますね」
――現在、スタッフさんは何名いますか?
「僕を含めて6名です。僕以外は女性ばかり。すでにヘアメイクとして仕事をこなすスタッフもいます」
――glamsの場合は、別のスタッフの方でもサロンワークとヘアメイクの両立ができるんですか?
「はい、そうです。僕の場合はどちらかがかけても自分らしくないから今のスタンスなんですけど、両立が全てとは思っていません。だって、よほど好きじゃないと朝3時に起きて撮影してその後サロンワークなんてできない。ただ大変なだけになってしまったら楽しめないからね。でもヘアメイクもやってみたい人には、環境がいいサロンかもしれないですね」
ヘアメイクとサロンワーク。どちらも一線でこなす小林さんの働き方は、美容業界を目指す人たちに勇気とヒントを与えてくれます。2回目のインタビューでは、小林さんがこだわる「仕草を女っぽく見せるヘアデザイン」「デジタルと美容」についてお伺いします。
取材・文/小澤佐知子
撮影/田中大三
Salon Data
glams(グラムス)
「過ごしやすく・疲れにくく・再現しやすい」。
そんなひとりひとりにフィットしたデザインを提案してくれるglams。ヘア&メイクアップアーティストとして長年活躍するオーナーの小林さんの顧客にはトップモデルや女優も多く、
ファッション誌さながらのラフで女っぽい今どきスタイルに仕上げてくれる。普通のサロンでは物足りないなんて人でも、きっと心から満足できるデザインに巡り合えるはず。
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