CHIHARU interview #2:一冊の雑誌がヘアー&メイクアップアーティストへの転身を決める
今回は、元タカラジェンヌで男役スター『矢吹翔』として活躍した経歴を持つヘアー&メイクアップアーティストのCHIHARUさんにインタビュー。宝塚歌劇団には専門のヘアメイクがおらず、1人ひとりが自分の顔と向き合い、メイクもヘアーも自らセットし、演じる役ごとにセルフプロデュースを行います。生まれ持った顔、客席から見たときの自分と真っ正面に向き合い、どうしたら美しく見えるかを日々研究しています。
今回は、そうして培われた美の哲学についてCHIHARUさんに伺いました。中編では、ヘアメイクを志したきっかけや、実際に働くなかで気を付けていることについて語っていただきます。
ヘアメイクは、セルフプロデュースに欠かせない芸の一環
――タカラジェンヌとして初めてメイクをした時の感想を教えてください。
「手が震えてしまいアイラインがきれいに引けず、まつ毛の付け方も難しく、全然うまくできませんでした。それからは、ひたすらメイクの研究をする日々でした。ちなみに役者は舞台に出た瞬間に自分がどのような役であるか観客に理解されなければならないため、メイクはセルフプロデュースに欠かせない芸の一環なんです。ライターで金棒を温めて、まつ毛にカーブを出したり、新しい化粧品がでたら試すなど、退団までの18年間はひたすら試行錯誤を繰り返していましたね」
初めてビューティー誌を見た時に受けた衝撃
――どのような経緯で、ヘアメイクを志したのでしょうか?
「舞台を踏んで、10年目くらいに『VoCE』という、ビューティー誌を見た時に衝撃を受けたんです。アイシャドウのぼかし方などが本当に美しくて、メイクだけで、こんなにさまざまなページが作れるのかと、感動して魅入ってしまいました。その時、宝塚を辞めたらヘア&メイクアップアーティストになろうと決めたんです。しかし、すぐにではなくまずは宝塚で『矢吹翔』を極めてから、次の道に進もうと思いました。中途半端に宝塚を辞めるよりも、きちんとやり抜いてから転身したほうが、その後ヘアメイク人生もうまくいくと思ったんです。退団の1年前から通信でヘアメイクの勉強を始め、その後国際ライセンスを取得しました」
タカラジェンヌの経験があるからこそできる、思いやりのあるヘアメイク
――タカラジェンヌとして活躍した経験が、ヘアメイクに生きることはありますか?
「もともと、私も舞台に立って視線を浴びていましたから、モデルさんや女優さんの気持ちがすごくわかりますね。そのため、絶対に中途半端なメイクはせず、自分が惚れるヘアメイクでなければ現場には出しません。収録中は必ず現場にいて、モニターで映りをチェックし、発言もすべて聞いています。終わった後に『あの場面はよかった』や『もっとこうしたほうがいい』など、話合うことができますからね。そうして、少しずつステップアップしてスターになっていく姿を見ることに、すごくやりがいを感じるんです」
――仕事をするうえで、とくに意識していることを教えてください。
「メイク道具を並べる順番を意識しています。モデルさんや、女優さんから遠いところからスキンケアやベースを作る道具、そして肌に重ねる順に近くに並べていき、アイメイクやアイブロウを最も近くに置きます。最初から距離を縮められると相手は心を開いてくれませんからね。化粧水などをしつつ『最近どう?』と、相手の反応を見ながらメイクを進めていきます。ヘアメイクは相手の心を開かせて、気持ちよく送りだしてあげることも仕事ですからね」
タカラジェンヌ時代から、相手の顔立ちから瞬時に魅力を引き出すメイクがわかったと言うCHIHARUさん。「下級生はもちろん上級生にもメイクのアドバイスをしていました」と言います。後編では、CHIHARUさんが思う魅力のある女性像についてや、主宰している『Love me塾』 について伺います。
Profile
CHIHARUさん
ヘアメイクアップアーティスト。Love me 塾主宰
1986年に宝塚歌劇団第72期として入団。雪組と花組に在籍し、男役スター、矢吹翔として活躍。在団中からメイクの勉強を始め、国際ライセンスを習得。2004年に退団したあとは、プロのヘア&メイクアップアーティストとして独立。現在は、雑誌の表紙や女性誌のビューティーページ、CM撮影のヘアメイクのほか、宝塚歌劇団の公演ポスター、など幅広く活躍している。
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