「自分のビューティー」を届けたい――美容師&ヘアメイクをWワーク 私の履歴書 【美容師兼ヘアメイクアップアーティスト 井上 匠さん】#2

ヘアサロン激戦区である東京・青山の「KINGDOM」に所属し、美容師と兼業しながらヘアメイクアップアーティストとしても活躍している井上 匠さん。

前編では、最速でスタイリストデビューするまでの物語やその後の美容師としてのキャリアについてのお話、突然のオファーを受けて中国・上海に拠点を移してからの活動の様子などを中心に伺いました。

後編では、美容師としての仕事に加えヘアメイクアップアーティストを目指すことになった経緯とその後のキャリアについて、井上さんの仕事観なども含めてお話しいただきます。

「自分のビューティーをもっと広く発信したい――ヘアメイクの仕事も開始

東京でも上海でも美容師として順調だった井上さんが、ヘアメイクの道を目指そうとした理由とは?

――井上さんは現在、フリーのヘアメイクアップアーティストとしても活動されていますよね。

はい。ヘアメイクも取り入れようと思ったのは、上海にいた時です。美容師としてお客様の髪を任せていただけるのはやりがいがあります。しかし東京と上海で美容師を経験して、東京なら東京のお客様だけ、上海なら上海のお客様だけにしか、自分の作品と言いますか、「自分のビューティー」を届けられない、と感じていました。

ヘアメイクアーティストとしての作品を通じて、「自分のビューティー」をもっと海を超えて発信していきたい。まずはSNSなどから、ゆくゆくは広告やブランドのルックなどのお仕事を通じてこれが実現できたらと思い、ヘアメイクアップアーティストにもなろうと決めました。

――井上さんのおっしゃる「自分のビューティー」とは?

どこかしらに、自分のエッセンスが感じられるような作品のことかな。相手あってのヘアデザインやヘアメイクではありますから、100%自分の好みに! でなくてもいいんです。チームの一員としてプロデュースに携わった作品という“美”を、もっと多くの人に届けられたらいいなと思いました。

――ヘアメイクアップアーティストになるために、どのようなことをされましたか?

ロシア人のヘアメイクアップアーティスト・Sevil Taiさんという方に師事しました。現在はアメリカ・ニューヨークにいるのですが、当時たまたま上海にいまして。InstagramでDMを送り、ヘアメイクを教えていただけないかと頼みました。

熱意が届いたのか、短期間ではありましたがヘアメイクについていろいろと学ばせていただき、そこからは独学で技術を磨いてきました。

ヘアメイクを学んだ数カ月後にコロナ禍になり帰国を余儀なくされたので、ヘアメイクアップアーティストとしての活動を本格的に始めたのは日本に帰ってきてからですね。

――帰国後、ヘアメイクアップアーティストとしてはどのような活動をされていたのでしょうか?

まずは、仲良くさせていただいているフォトグラファーの方々と協力しながら作品撮りを繰り返し、ポートフォリオを増やしていきました。

最初の仕事は、そんな中でいただいたんです。作品撮りの現場で知り合ったスタイリストの方が、今度ご自身のファッションブランドを立ち上げるということで、そのルックのヘアメイクを担当しました。ご縁って本当に大事だと実感した瞬間でもありました。

現在は、ブランドのビジュアルやルックをはじめ、アイドルやアーティストのヘアメイクを担当したり、ファッションショーのバックステージに入ったりと、いろいろなお仕事をさせてもらっています。仕事の割合としては、美容師とヘアメイクアップアーティストは半々くらいの割合ですね。ヘアメイクアップアーティストの仕事は、基本的にご紹介いただく形でお受けしています。

美容師とヘアメイクアップアーティスト。僕がどちらもやる理由

美容師とヘアメイクアップアーティストとの二足の草鞋を履く、現在のワークスタイルの醍醐味を伺った

――ヘアメイクアップアーティストとしてお仕事をされる中で、印象に残っている出来事はありますか?

某アイドルとゲームの会社がコラボして、YouTubeでライブ配信をする企画がありました。僕は、そのアイドルのヘアメイクを担当させていただいたんです。

アイドルの方がコラボ先の会社のゲームをプレイするといった内容だったのですが、ヘアサロンのお客様に、その配信を観てくれていた方がいました。そしてそのお客様が「配信の時のアイドルのヘアメイクが、とても可愛かった!」と言ってくれたんです。この時「自分のビューティーが誰かの心に届いたんだ!」と実感できて、とてもうれしかったのを覚えています。

アイドルやタレントさんなどは本人のイメージも大切なので、もちろん基本的な路線は合わせます。しかし、時にはその魅力をよりアップさせるような、自分なりのアレンジを提案するようにもしています。

井上さんの作例の一部。(左)Brand:Mizuid/Photographer:SYOYA KITANO、(右)Brand:ANT-AID/Photographer:benz/Model:Miiya Kudo(井上さん提供)
井上さんの作例の一部。(左)Photographer:Kiyomasa Takagi/Model:由結、(右)Photographer:Keisuke Minami/Model:SUDA MEI・OSHITA SHOTA(井上さん提供)

――美容師とヘアメイクアップアーティスト、どちらかに絞らず、両方されているのはなぜですか?

それは、僕が欲張りだからだと思います(笑)。

美容師の仕事とは、数カ月に一度来店されるお客様のヘアをデザインすること。それは、すなわちお客様の数カ月間の髪をお預かりしているということだと考えています。僕はこれに責任感とやりがいを感じていて、基本的にマンツーマンの施術で一人一人のお客様とじっくり向き合うようにしています。

そのうちに、長く担当しているお客様の人生のイベントなどに携わる機会をいただけることもあります。定期的なヘアのメンテナンス、そして時にはライフイベントなどを通じて、お客様と共に人生を歩んでいるような感覚。これらは、美容師という仕事の醍醐味の1つだと思っています。

一方、ヘアメイクアップアーティストの仕事では媒体を通して、自分が関わった作品を不特定多数の人に見てもらう機会を得ることができます。美容師のように密接な関係ではないかもしれませんが、先ほどのエピソードのように、思わぬところに届いていたりする。

それぞれに違う楽しさ、おもしろさがあるんです。アウトプットの仕方が全然違って、どちらもやめられないですね。

――井上さんが、美容師やヘアメイクアップアーティストとして、お客様に施術をする上で、心がけていることはありますか?

美容師としてもヘアメイクアップアーティストとしても、僕に一切気を使わなくていいような仕事をすることです。

お客様が気負わずにリラックスできたり、モデルさんやタレントさんなどの場合ならご自身の仕事に集中できたりするような、ストレスフリーに言いたいことが言える空気感や空間づくりを心がけています。「気づいたら終わっていた」みたいなのが理想ですね。

少しの違和感も与えたくないので、相手のことをよく観察し、言動の些細な変化を逃さないように気を付けています。可能な場合は、相手の好みを事前に把握しておくこともあります。

働くことは、僕の生きた証。すなわち人生そのものなんです

多岐にわたって活躍し、楽しそうに仕事をしている井上さん。最後にお聞きしたのは、そんな彼が見据えるこれからについて

――井上さんの、今後の展望はありますか?

「自分のビューティー」を、もっともっといろんな人に届けたいですね!

現状では、特にヘアメイクアップアーティストの仕事の方はまだまだ伸び代があると感じています。チャンスがあれば、もっと大きな媒体の仕事も掴みたいですね。また、現在は国内の仕事が中心なので、海外の仕事にもチャレンジして、どんどん増やしたいと思っています。

ゆくゆくは、昔のブランドのルックなどのような、100年先にも残り語り継がれる仕事に携わりたいです。

――これから美容業界を目指す方へ、アドバイスがあればお願いします!

全体的なことから言うと「やってみたい」と感じたことには、思い切って飛び込んだ方が絶対にいいです。大変なこともあるかもしれないけどなんだかんだ楽しいし、その方が後悔もないと思います。僕もあの時、上海行きを決めて本当に良かったと思っているんです。上海での経験を通じて、あらゆる技術が向上しました。

業界に特化した観点からは、技術の習得に関していかに早くから努力できるかということはとても大切だと思います。ウィッグヘッドで山ほど練習しようとも、お客様の髪とは全然違う。できるだけ早く現場に出て、実践を通じて技術を磨くべきです。現場で得られる経験値は、質も量も段違い。2年でも5年でも、何年か先の自分のためになるようなスキルアップを心がけてほしいですね。

――井上さんにとって「働く」とは?

僕にとっては「人生」そのものです。

人の一生の間で、働く時間ってとても長いじゃないですか。そんな、人生のほとんどの時間を費やすものだからこそ、僕は働くことを通じて世の中に何かを残したい。人の心に何かを届けたいんです。

それはきっと、僕が生きた証になってくれるはず。それって、すなわち「人生」ですよね。

井上 匠さんの成功の秘訣

1. 誰よりも実際に努力できる才能

2. 知らない環境でも果敢に飛び込むチャレンジ精神とサバイバル力

3. 感覚的にならず論理的にもアプローチする姿勢

撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈


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