お客様に向き合うことと自分の家庭。私は両方を諦めません 私の履歴書Vol.38【R-BlooM エステティシャン 三谷麗奈さん】#2
エステティシャン三谷麗奈さんは技能五輪国際大会で世界2位に輝いた、いわばエステ業界のアスリート。学生時代から高い目標を掲げ、邁進してきたそうです。そして、およそ3年前に独立し、プライベートサロン「R-BlooM」をオープン。そこでは一日2組だけしか予約を取らないのだそうです。
この後編では、三谷さんが少人数制にこだわる理由と、エステ業界では一風変わった働き方を教えていただきました。
独立
妊娠中もお客様に迷惑をかけないため、フェイシャルに力を入れたサロンに
――ガッツある三谷さんですが、これまで挫折したことは?
ありますよ。ずっと頑張り続けてきて、無理をしてしまったツケなのか、自律神経を崩して入院した時期がありました。
専門学校時代はあえてプロの世界に飛び込んだので、例えば一度乗ったジェットコースターは途中で降りることができないように、「絶対にしがみついてでも資格を取りたい」という想いで勉強していましたし、技能五輪国際大会への出場が決まってからはとにかく気を張っていました。大会後は常に「世界2位」というプレッシャーの中で働かなければいけません。きっと若いうちに一気に経験を積みすぎたんでしょうね。
でも、今ではその挫折があって心底良かったと思います。なぜなら人の痛みがわかるようになったから。それまでは周りの人に対して「できないじゃなくて、やるしかないでしょ」「甘えてるんじゃないの?」という風に厳しい目で見ていたんです。
「自分の都合でできませんと言うことは許されない」と思い込んできたからこそ勘違いしていたんでしょうね。でもいざ自分が逆の立場になると、その苦しさが身に染みてわかったと言いますか…。今では「そうだよね、できないよね」と周りの人にも寄り添えるようになりました。
それもあって、私のサロンはカウンセリングに1時間くらいかけるんですよ。お客様の内面的な部分や悩みをしっかりと聞き出して向き合っていきたいので。もちろん施術時間とは別に時間を設けていますし、カウンセリングシートもかなり細かいです。そのため、一日に2組しか予約を受けていません。結構変わったサロンですよね。
――カウンセリングに1時間も! ところで、なぜ独立しようと思われたのですか?
家庭との両立を考えたときに、この形がベストだと思ったんです。エステティシャンは「予約」で動くので、一線でバリバリ働いていた人が、出産を機に一線から退かなくてはいけなくなることも多くて。子どもは急に熱を出したりしますよね。でも指名で予約が入っていた場合、「子どものお迎えがあるので他のスタッフに代わりを…」なんてできません。
今の時代はまだ、保育園から電話がかかってくるのは大抵母親の方。そう考えたときに、子どもがほしいと思っている自分にとってサロン勤務は難しいなと。家庭の夢も、お客様と向き合っていきたいというエステティシャンとしての目標もどちらも諦めたくなかったので、自分のペースでやることにしたんです。
――なぜ一日2組限定としたのでしょうか。
将来的に子育てをしながら続けられるように、という理由もあります。でもそれだけでなく、自身の体のことを考えたときに、一日の施術人数を増やせば収入も増えますが、一方でエステティシャンとしての寿命が短くなってしまうことが怖かったんです。
だから、「一日2組のみで、お客様を一生見ていけるようなアットホームなサロン」というスタイルでやっていこうと決めました。店舗を最小限のサイズにすることで固定費も抑えられますしね。
――家庭との両立と、エステティシャンとしての未来を考えてのことだったんですね。こちらのサロンではどんなことを大事にしているのでしょうか。
エステティシャンは技術ができることが基本ですが、プラスαでどれだけお客様の気持ちをわかってあげられるか、がとても大事だと思うんです。このサロンでは、お客様の心に寄り添い、心の不調を一緒に解決していきたいと思っています。私に話すことで気持ちが楽になるのなら「私はいつでも聞きますよ」というスタンスで、お客様が良くなる方法を一緒に考えていきたいですね。
――そういえばこちらのサロンは、とくにフェイシャルメニューが充実されていますよね。
実はそれにも理由がありまして。
正直な話、エステサロンはボディメニューをメインでやった方がご来店頻度が高くなって儲かる場合が多いんです。でも、ボディの施術は妊娠してお腹が大きくなると厳しいんですよ。そうなると迷惑がかかるのは結局お客様なんですよね。だから、その迷惑が最小限にすむようにフェイシャルメインでやっているんです。
ボディが苦手なわけではないので、「どうしてもボデイをやってもらいたい」という方がいらっしゃれば、フェイシャルにプラスαとしてやっています。その場合も「将来子どもがほしいと思っているので、私が妊娠した場合はボディができなくなりますが、それでも大丈夫ですか?」とお客様にきちんと確認しています。「関係者やお客様には迷惑をかけない」を第一にやっているので、正直に全てお話ししています。それが良いのか悪いのかわからないですけど(笑)。
他に、私独特のやり方といえばご予算を先にお客様に聞いてしまうことでしょうか。
――予算を先に聞くんですか?
「こうなりたい」という希望を聞いて、「じゃあ予算内でこういうことしていきましょうか」という感じで進めていくので、予算を超える提案をすることはないですね。逆に、「今の状態ならご来店のペースをもう少し減らしても大丈夫ですよ」と伝えることもあります。
ちなみに、ここは都度払いとチケットの両方OKのサロンですが、チケットでは有効期限を徹底しています。「有効期限」を設けることがお客様を守ることになるからです。
――「有効期限」がお客さんを守る…?
エステ業界は1年で半数以上、さらに3年後には約9割ものサロンが廃業する世界です。そんな中で「このチケットは永久に使える。有効期限なし」と謳っているサロンがあるとしたら、何を根拠に? と思うんです。
例えば、サロンが数ヶ月後に閉店することになった場合、購入済みのチケットが20回も残っていたら消化できませんよね。潰れないという保証は、自分たちの努力だけではどうにもできないときもありますし…。だから「チケットは永久に使えます」と言ってしまうのは無責任だなと。
お客様を守るという意味では、私は回数の多いチケットは絶対に売りません。基本的には2〜5回分とか。最大でもブライダルの10回コースのみです。定期的に出すのは2回分チケットだけ。もはやチケットと言えるのか? というレベルなんですけど。でも、チケットを売る以上は「その期限は私が絶対に保証しますよ」と説明しています。
未来
人生を楽しめる働き方を選択したつもりです
――失礼ですが、年齢でいうと三谷さんはエステ業界では若手になりますか?
超若手です。「日本エステティック協会」の委員としてもおそらく最年少ですし。今考えると、技能五輪国際大会でも、勤めていたサロンでサブチーフをしていたときも、専門学校でも…と、いつの時代も最年少だったかも…(笑)。
今まで「若い」という印象を相手に与えないように常に意識してきました。かといって「世界2位になったから偉い」「サブチーフだからすごい」という考え方も違うと思っていて。だから、やるべきことはとにかく勉強すること。心に寄り添うという部分で発達障害、鬱、パニック障害など、色々な症状を抱える方の助けになれるように日々勉強の毎日です。
――これからどんなサロンにしていきたいですか?
このコロナ禍では、私個人の「こうなりたい」という感情だけで語るのは難しいですが…。お客様とは「その瞬間のお付き合い」に満足するのではなく、「死ぬまで一緒に歳を取っていきましょうね」というサロンにしたいんです。何年後も「このサロンじゃなきゃ嫌!」と思ってもらえるような。
私のサロンは感動して泣いてしまうお客様も多くて、「出会えて良かったです」「ギュウしていいですか?」と言っていただくこともあります。これから先も、お客様にそんな風に思ってもらえるように一生懸命向き合っていきたいですね。丁寧な接客だけが正しいとは思っていないので、何よりあたたかみのある場所になれたら良いなと。
――こちらのサロンというか、三谷さんの働き方ってエステ業界の中では斬新ですよね。
私、すごく変わっているかもしれません…(笑)。同じ人にまだ出会ったことはないですね。
人生一度きりなんだから、いかに自分が楽しく生きていけるかを考えないと。たくさんお金を儲けたら幸せかと言われれば、それは違うと思うし。楽しくて、充実感があって、人から感謝される。自分は今、最高の働き方をしていると感じています。
――三谷さんがここまでエステティシャンを続けてこられた秘訣とは?
これは声を大にして言いたいんですけど(笑)。私にとってエステの母は、国際的にも通用するエステの知識や技術を教えていただいたパメラ先生。そしてエステの父は大森先生です。
大森先生というのは、技能五輪国際大会時代にエステの日本代表チームの責任者だった方なんです。実は大会期間中、気持ちに余裕がなくて、一時感謝の気持ちを忘れかけていたことがありまして…。そんなとき大森先生に「こういうときはありがとうって言うんだよ」と指摘されたんです。「これから先、謙虚さと感謝の気持ちを忘れなければ、どんなときでも乗り切れるよ」と教えてくださったんです。
私がこれまで周りの方々に助けてもらえてきたのも、その言葉を忘れずにいたから。私に大事なことを教えてくださった二人の先生に「ありがとう!」と伝えたいです。
三谷さんの成功の秘訣
1.自分に付加価値を付けるために何をするべきかを考える
2.お客様と一生向き合う覚悟を持つ
3.楽しく生きていける働き方をする
▽前編はこちら▽
体質的に難しいと言われたエステ業で世界に挑戦! 私の履歴書Vol.38【R-BlooM エステティシャン 三谷麗奈さん】#1>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/柴田大地(fort)