夢はネイリストの職業価値を上げること。ネイリスト megさんが考える後進育成に必要なこと
サロン勤務経験3ヵ月で独立し、個人サロンが人気店となった「Nail Salon “R”」のオーナーネイリストmegさん。前編ではどのようにして、似合わせと時短という武器を作ったのかを伺いました。
後編では、megさんが見据えるネイル業界の未来や、今とくに力を入れている後進の育成について伺います。努力の甲斐もあってセミナー講師として全国から呼ばれるようになり、徐々にステップアップしていったmegさんですが、そこから大きなスランプにはまったそうです。抜け出した先にあったのは、megさんが見つけた「ネイリストの職業価値を上げる」という大きな目標。その実現のため、ネイル業界では珍しいアシスタントとの分担制をとっているそうです。
お話を伺ったのはmegさん。
megさん
「Nail Salon”R”」オーナーネイリスト。ジェルネイルブランド「edit.」アートディレクター。サロン勤務3ヵ月で独立し、4年で新規受付を停止するまでの人気店に成長。現在はセレクトショップを経営する夫と、同じテナントで路面店を経営し、6名のスタッフを抱える。2児の母。
夢実現のあとの大きなスランプ。抜け出した先に見つけた次の目標
————目標だったセミナー講師は、どのようにして叶えたのですか?
最初は自分でセミナーを開きました。どうやって声が掛かるのかわからなかったし、「やりたい!」と思ったらすぐに動き出したい人間なんで、待っていられず(笑)。セミナー会場を借り、30人の定員でしたが、ありがたいことにすぐ埋まりました。その頃すでにデザインを好きだと言ってくださるインスタのフォロワーが増えていたので、ほとんどがインスタ経由での申込みでしたね。
その後、TATさんなどから声が掛かり、日本各地、さまざまな場所でセミナーをやらせていただきました。ジェルブランド「edit.」のアートディレクターとして声を掛けていただいたのもこの頃で、大きなデモンストレーションの場にも立たせていただきましたね。
————そのあたりからスランプになっていったとのことですが、それはなぜでしょうか?
今考えると、駆け出しだった頃に立てた目標をほとんど達成して、次の目標を見失っていたんだと思います。1人でサロンを経営していた頃、大変でもあったけれど、自分を信じておまかせでデザインをさせてくれるお客さまに本当に似合う、そして自分も好きなデザインを提供することがとても嬉しくて、毎日を100%楽しんでいました。でもそれが続くと、自分の性格上飽きてしまって…。次の目標に向かって動き出さないといけない時期でした。
————どうやってスランプから脱したのですか?
前から考えていた路面店の構想を実行に移しました。路面店はいつかやりたいと思っていましたが、忙しくてなかなか実行に踏み切れずにいて。ですが、憧れの筒井先生がスタッフを育成し、「mani closet」というブランドを確立したように、私も「Nail Salon “R”」を育てていきたいと思ったんです。そしてアパレル勤務だった夫のセレクトショップと同じテナントでスタートさせることになりました。
きっかけは、スランプだということを5歳上のとても尊敬している兄に相談したときでした。ネイルの原点でもあるニューヨークに行ってみたら? と軽く言われて(笑)。ニューヨークに行って、世界の最前線を見て、いっぱい刺激をもらって帰ってきたときに、やっぱり路面店をやろうと決めたんです。次の日から物件を探し始めましたね。
オンラインサロンのきっかけは、ネイリストの職業価値を上げたいという思い
————対面のセミナーだけでなく、今年からはオンラインサロンも始めたそうですね。きっかけは?
DMMさんからお声掛けいただきました。内容としては、セミナーで質問の多い「似合わせ」、「時短のコツ」を中心に、3ヵ月間毎週1本動画を出します。さらにそれを実践して、写真を送っていただき、私が添削していくのがメインです。募集をかける際は本当にドキドキしましたが、おかげさまで定員の120名にすぐに達することができました。インスタ経由の方が多いですが、今までセミナーにきてくださったリピーターもたくさんいます。
2、3時間の単発セミナーと違って、何回でも添削することができるし、毎日でもコミュニケーションがとれます。受講者の人が投げかけてくれさえすれば、とことん納得するまでやりとりできるのが私にとってもうれしいですね。
————120人の方とやりとりするのは大変そうですね…。
いえ、めちゃくちゃ楽しいですよ! この前もすごくうれしい出来事があって。時短のコツを書いた記事を読んで翌日に実践してくれた生徒さんが、今まで3時間かかっていたところを、2時間以内にお見送りできたと報告してくれたんです。そういう報告を受けると、とてもやりがいを感じますね。
————インスタでもよく、ネイリストの方の質問に答えていますね。このようなやりとりを大切にするのはなぜですか?
ネイリストの職業価値を高めたいという思いがあります。私もできる限り伝えるから、みんなでネイル業界を盛り上げよう! という思いです。これから先、ネイルサロンの経営って本当に大変だと思うんです。コロナ禍でセルフネイルする人が増えているし、プロとしての差別化をネイリスト全体でやっていかないと、サロンに通うネイル人口は減っていく一方で、それを取り合っていくことになりかねないですから。その事態は避けたいんです。
目指すのは、夢のあるネイリスト「雇用」
————ネイリストの職業価値を高めるために、ご自身のサロンで取り組まれていることは?
ネイリストとしてサロンに雇用されている状態でもちゃんと生活できるし、豊かに生きていける。そして誇りも持てる、そんな道を作るために試行錯誤しているところです。ネイル業界って特殊で、すぐみんな簡単に独立していくんですよね。かつての私もそうだったんですけど(笑)。でもこれからの時代は、さっきも言ったとおり経営が難しくなってくると思います。だからこそサロン経営者の使命として、スタッフたちが独立しなくても、豊かに暮らせる道を考えたいと思っています。
————具体的にはどのように?
それを実現するために分担制をとっています。デザインに入る前までアシスタントが担当して、それ以降をトップスタイリストが担当する流れです。ネイリストの場合、1日に施術できるお客さまの数はどう考えても1日5人が限界だと思うので、売上も頭打ちになります。またサロン全体でいきなり全員がバンバン指名をとるようになるのも難しいので、システム自体を変えなければいけないと考えたんです。
ネイリストの方のなかには、分担制はお客さまに失礼だと考える方もいるかもしれませんが、スタッフを食べさせることを考えたら、1日の売上の限界を上げていくのは避けては通れない道です。スタッフももちろん大変ですよ。同じ技術、スピード感が求められますし、厳しい環境だと思います。でもその分スキルを身につけてもらい、いいお給料をあげたいな、と。将来的には「Nail Salon “R”」で100人のネイリストを雇用したいです(笑)。夢のある雇用を作っていけたらなと思っています。
ネイル業界の盛り上げまで見据えた後進育成の3つのポイント
ネイル業界を盛り上げることまで見据えているmegさん。後進育成の3つのポイントは以下の通りでした。
1. 路面店を立ち上げ、スタッフとともにブランドを確立
2. オンラインサロンでは惜しみなく技術を伝授する
3. 分担制を取り入れて、夢が見られるような雇用を作り出す
megさんのお話を聞き、ネイル業界に対する熱い思いと、それを実現するためストイックに努力を重ねる姿を垣間見ました。ネイリストとしてもっと活躍したいという方はぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
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サロン勤務経験3ヵ月から4年で人気店へ。ネイリスト megさんの似合わせ&時短術>>