海から学んだ、謙虚に生きるということ。感謝や尊敬の気持ちで人前に立つ【THE NEST 小林雅仁さん】#2
鎌倉市・腰越に構えるスタジオ「THE NEST」を拠点に、多数のイベントやクラスを受け持つヨガインストラクター小林雅仁さん。サーファーとしての顔も持ち、これまでの人生は「海なくしては語れない」と言います。20代前半にプロサーファーとして活躍され、その後ヨガに魅入られて勢いのままにインストラクターに転身。海とともにあった肩書きを下ろして再スタートを切りましたが、相手を思いやる器の大きさとしなやかさで瞬く間に人気講師となったようです。
後編では、小林さんが人気を得た理由、人を呼び込む上で欠かさなかったことなどを教えていただきました。
心地よい波動が生まれる空間づくり
――ヨガインストラクター1年目にして年間約500本のクラスをこなしていたとか。人気講師になれた理由とは?
わかりやすい指導も理由の一つだと思いますが、「クラスが終わったあと、何か心地いいんだよね」と言われることが多いんです。
言葉や物、人には波動があります。僕たちの体はたくさんの細胞からできていて、それらの波動によって細胞が振動します。たまに「何かここ嫌だな…」と思うことってあるじゃないですか? それは波動という目に見えないエネルギーによるものなんです。
物であったり、発せられている言葉だったり、そこにいる人たちの気持ちだったり、それら一つひとつの波動が心地いい空間を作り上げているんです。
――小林さんは、みんなが心地いいと思える空間づくりにこだわってきたのですね。
最初は無自覚でしたけどね。僕にとっては「どうしたらみんなが心地よく過ごせるか」と考えるのはごく自然のことだったんです。クラスの内容だけでなく、温度、匂い、空間の広さ、マット、置く小物など、色々試して、厳選して。そうしているうちに生徒さんにとって居心地の良い空間になっていったのだと思います。
空間にまで気を配っているインストラクターのところには、実際にたくさんのお客様が集まるんですよね。
――表層的なことだけではないのですね。インストラクターの人間性も影響しますか?
先生が疲れていれば生徒さんも疲れるし、先生が頑張っていれば生徒さんもついて来ます。だから、先生の心の持ち様次第なところもありますね。一人ひとりに感謝や尊敬の気持ちを持って接していること、要は「気遣い」が大切なんです。
――相手を尊重すること、感謝の気持ちを持つこと。そこに早くに気づけていたのですね。
サーフィン人生あってこそですね。自分は決して人の上に立てるような人間ではないし、誰よりも謙虚に生きていかなければいけない。僕はそれを海から学んだんです。海に入れば、お金も地位も関係なく、みんな平等。どんな人でも自然の上に立つことはできません。それは人間界でも一緒だなって。そう思うと誰にも頭が上がらないんです。
――生徒さんの内面をヨガを通して読み取れたりも…?
読み取れるんですよ、これがまた面白くて。体は嘘をつかないんです。
例えば「ダウンドッグ」というポーズを取ったとき、生徒さんの背中から全部が見えてきます。「この人は僕のこと苦手だな」「この人は頑張り屋さんだな」「この人は普段から手を抜く人だな」「この人は100%の気持ちでこのクラスを受けてくれているな」とかね。あとで会話してみると大体当たっています(笑)。
頭を下げなければ、人は動かない
――スタジオ講師ではなく、フリーの道を選んだのはなぜですか?
スタジオにはカラーやマニュアルがありますよね。「僕はもっとこういうヨガをしたいのに」「こういう風に教えたいのに」という気持ちがあっても、それを打破できなくて悔しかったんです。もっと自分自身を表現していきたいという想いが強かったですね。
――フリーランスとなり、スタジオ勤務とは違った苦労もあったのでしょうか?
ありました。最初のうちはスタジオ時代のお客様が60人くらい僕のところに来てくれましたが、やっぱりそのあとが続かないんです。みんな自分の生活もあるし、通っているスタジオがほかにもあると、こっちに来てくれる頻度がだんだんと下がるんです。
僕は1年で独立したので、継続させる、成長させるという指導者としてのスキルが足りていなかったんです。
――どのようにして集客をされたのですか?
とりあえず生きていかなければいけないので、なり振り構っていられません。
バイトをしながら色々な人に名刺を配ったり、カフェなど、ヨガをするのに良さそうな空間を自分で探して「ここでヨガやらせてもらえませんか?」とお願いしたり、周りの友達に「受けに来れば絶対に良い経験になるから」と声をかけたり。とにかく自分から営業をかけていきました。
ただ一言「来てね」と言っても、その場では「OK」してくれるけど、ほとんどの人が「来る来る詐欺」で終わるんですよ。だから、頭を下げるようにしていました。そうまでしないと人は動かないので。自分で引っ張って来るリード力、そして来てくれた人を絶対にがっかりさせないことを一番に考えていました。
安心できるヨガの居場所を湘南の地に
ーーヨガインストラクターになっても、ずっと湘南を拠点に活動されてきたのですよね?
はい、ずっと湘南で。僕は海が近くにないとダメで、好きとか嫌いとかじゃなく、それが日常なんですよ。
イベントやワークショップで都内に出向くこともありましたが、自分が育ったこの地で、地元の人たちとの繋がりを大切にして活動してきました。たまに都内で知り合った方がこっちに来てくれることもありますよ。人工物に囲まれていると、自然の中で深呼吸したくなりますからね。
今年オープンしたスタジオ「THE NEST」も、みんなにとっての居心地の良い場所として、気軽に集える場所にしたいなという想いでやっています。
――改めて小林さんの成功の秘訣とは?
やっぱり人のために行動することですね。全てにおいて。人は誰かのために頑張るときが最も力を発揮できるものです。だから、僕は人のために、相手のために生きていきたいです。
――人との繋がりがあってこその人生なのですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。
僕と同い年で同志の男性インストラクターと二人で、湘南でヨガのコミュニティをもっと広めていきたいなと。
このコロナ渦でヨガスタジオが軒並み閉店に追いやられ、湘南でもヨガができる場所がなくなりつつあります。ビーチや公民館などを借りてクラスを開くことはできますが、やっぱり「いつでもそこに行けばヨガができる」という安心感のある居場所が必要だと思って。
日常を豊かにできる場所があることが幸せに繋がるので、僕たちがそれをつくっていけたら良いなと。いつか「湘南でヨガと言ったらマー君」と言ってもらえることを目標に頑張ります。
小林さんの成功の秘訣
1.クラスでは心地よい空間づくりを心掛ける
2.人を呼びたければ頭を下げるつもりで本気でお願いをする
3.気遣いの心をもって、相手のために行動する
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/本名由果(fort)