人間力を高めることでチーム力のあるサロンへ【Lovl 代表ネイリスト 中村キャベツさん】#2
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談を全2回でお届けする本企画。
前回に続き、人気ネイリスト「Lovl」の中村キャベツさんにお話をうかがいます。前編では、独立の経緯と20代で開業して良かったこと、独立前にしておくといいことをお聞きしました。
後編では、近年力を入れているスタッフ教育と、サロン経営のなかで気づいた「人間力」の大切さについてお聞きします。
お話をうかがったのは…
Lovl 代表ネイリスト 中村キャベツさん
早稲田美容専門学校を卒業後、都内有名ヘアサロンに入社。ヘアアシスタントとネイリストを兼任。その後、全国チェーンのネイルサロン勤務、アパレルショップでのバイヤー、渋谷にあるネイルサロン勤務を経て、2015年6月にネイルサロン「Lovl」を渋谷にオープン。現在は原宿にあるビルの3フロアで、ネイルとアイブロウの施術を展開中。
Instagram@cabbage.lovl
法人化して3年目。この1~2年はサロン運営に大きな変化が
――法人化して3年目とのことですが、きっかけは?
今サロンがある原宿のビルは、独立当初から入りたい物件だったんです。でもずっと空きが出なくて。やっと空いたタイミングで申し込んだんですが、個人事業主だったのが理由で最終審査で落ちてしまったんですね。それがきっかけで法人化することに決めました。
それまで法人化のメリットを感じていなかったんですけど、そのとき、初めて法人でないとできないことがあるということを経験しました。なので、法人にしてできることが増えるのであればしようと。
――ということは個人事業主でずっとスタッフを雇われていたんですね。
スタッフはオープンして2カ月目に入れました。すぐに予約がパンパンになって回らなくなっていたし、フットネイルとハンドネイルを同時にしたいというお声もお客様からいただいていたので。
でもそのときに初採用した子がネイル未経験だったんですよね。本当に当時の私は何も考えてなかったなって思います(笑)。経験者を採用したほうがお店はうまく回るなんてこと、少しも考えていなくて。その後すぐ独立前のサロン時代から一緒に働きたいと言ってくれていた子が応募してくれたりして、個人事業主時代は多くて5人まで採用しました。
――当時から教育もされていましたか?
技術については教えていましたが、「スタッフ教育」というものはできていなかったと思います。当時は私がもっとクリエイターに寄った考え方だったので、売れっ子ネイリストを育てるのは本当に得意でした。でも技術以外の教育は全くできていませんでしたね。ちゃんと教育をしていこうと思えたのは、1~2年前からでした。
自分の想いを正しく共有することでサロン運営が円滑に
――その心境の変化はなぜ?
初めて採用したスタッフが辞めてしまったり、私の目が届かない店舗で人間関係のトラブルが起きてしまったり、弁護士沙汰になるトラブルを持ちかけられたり…本当にいろいろあって。自分の想いと目の前の状況が乖離しすぎているなと感じたときに、自分が変わらないといけないんだと思ったんです。
そこから想いの伝え方を意識し始めて、苦手だった教育にも力を入れようと思いました。大きな失敗が意識の変化を作ってくれたんです。
――2年、教育に力を入れてみていかがですか?
すーーーっごくいいんですよ!やっぱり自分が変われば周りは変わるというのは、本当なんだなと感じました。人間関係もすごくいいですし、売り上げもクリエイティブも、ちゃんと自分が思った通りに現実がなっています。
昨年からは技術面の指導も全て私がするのではなく、上のランクの子たちに私が指導して、他の子たちの指導は任せるようになりました。全部自分がやりたくなっちゃうんですけど(笑)、そうすることによって会社の成長の機会を奪ってしまっていることに気づいて。今は人に任せることを頑張っています。
でもそれで本当にみんな成長してくれました。1年前はできなかったのに、こんなことまでできるようになったの!?って。彼女たちもできるようになったことは嬉しいだろうし、私もそれがすごく嬉しい!良い関係だなと思っています。
――教育でとくに大切なのは気持ちを伝えるというところ?
そうですね。ビジョンの共有というのは、すごく大切だと思いました。ノープランでサロンをスタートさせたけど、ノープランでやっていたらノープランな結果にしかならないというのが、よくわかりましたね。もっともっと深く自己理解、会社への理解を高めて、しっかりビジョンを固めて、それを正しい言葉でスタッフに共有していく。そうすると、思った通りの現実になると感じました。
今はサロンの地盤を固め直して会社として強くなるとき
――この春から店舗を原宿に集約。今後、店舗展開の予定は?
今は同じビルの3フロアで営業していて、他のフロアで空きが出たらすぐ増築したいなと思っています。ただ店舗展開というのは、まだ時間を使ってしっかり地盤を固めて、仕組化して体制を整えてからかなと。これまで渋谷、原宿、表参道の最大3店舗で営業しましたが、自分の目が届かないことで起きたトラブルもありましたから、きちんと地盤を整えてからでないとまた同じことが起こると思うので。80点のお店が3つあるより、200点のお店が1つあるだけで、今はいいと思っています。
――今は法人として地盤を固めるフェーズなんですね。
今のビジョンだと、「Lovl」を先5年で見ているというよりは、もっと長期戦で考えているんです。だから一時的に売り上げを落としてでも営業時間を短縮するなど、長く働ける仕組みづくりに昨年から着手しました。実際に数字を見るとネガティブな意味でびっくりはしましたが予想の範囲内でしたし、私自身も今の方が心が安定して働けています。
ネイリストなどの技術職って、結婚、妊娠したら退職する人が多いんです。だからもっと女性が働きやすい環境を整えていきたいと思っています。
――経営者として大切にしていることを教えてください。
私がスタッフによく伝えているのは「人間力」の大切さです。どんなに良いネイルができても、人間力が伴っていなかったら意味がない。「ありがとう」と「ごめんなさい」をちゃんと言おうとか、ポジティブな言葉をたくさん使おうとか、そういうちょっとしたことから人間力は育っていくし、人間関係もよくなります。そして、人から愛されるようになる。
愛されると、何かを達成するまでの成功スピードも速くなります。足を引っ張り合うことなく、チームで高めあっていけるようになりますから。
私自身、開業当初は人間力が全然足りなくて、スタッフにも感謝の気持ちを伝えられていませんでした。人間力の大切さに気づいてから教育方法も変わりましたし、みんなと良い関係を築けるようになったので、一緒に仕事をしていて毎日楽しいんです。これからもみんながそう思えるように、良いチーム作りをしていきたいなと思っています。
独立を目指すあなたへ
当時の私がそうだったのですが、独立したいとか、何かひとつ目標を達成しようとするときって、視野が狭くなりやすい。答えがA~Cの3通りしかないと思い込んでしまうけど、それをA~Zで視野を広く持つというのは大切だと思います。そのためには、自分を客観視すること、そしてたくさんの人と話すこと。
あと大切なのは、自分できちんと自己承認をして自己肯定力を上げること。本当の意味で自分のことが受け入れられると、他人のことも受け入れられるようになります。するとさらに視野が広く持てるようになりました。
私も今までは2人の話しか受け入れられず残り8人は「私は違うと思う」とつっぱねるところがありました。でも今、自分のことをしっかり認められるようになって、自分にできること、できないことがあるんだと受け入れられるようになったら、人の良いところにたくさん目がいくようになりました。
自己肯定力を上げるには、苦手なことは無理にしない。その代わり得意なことは頑張る。人って得意なこと、好きなことでしか成果を出せないと思うんです。できないことに使っている時間ってストレスもたまるし、できない自分にばかり向き合うと肯定力も下がっていく。そうじゃなくて、それぞれが得意なところで頑張ればいいんです。
会社としてスタッフがいることのいいところって、苦手なところを補い合えることだと思います。そうやって協力し合える関係が作れたら、チーム全体で成長していけるんじゃないでしょうか。
取材・文:山本二季
撮影:高嶋佳代