「髪質改善サロン」へ方向転換し、山梨で美容師の働き方改革に挑む【Vesper オーナー 齊藤良さん】#2

高いカット技術が評判を呼び、山梨県内でトップクラスの売上を誇る少数精鋭サロン「Vesper」。都内の一等地のようなハイクラスのサロンを目指し、ブランディングにも成功しました。がしかし、そのブランディングが求人のハードルを上げることに…。都会と地方とで働き方にギャップがあることに気づいたオーナーの齊藤さんは、思い切って「髪質改善サロン」にシフトし、同時に働き方改善を行うことを決意。

後編では、「髪質改善サロン」に変えた背景やリニューアル後の反響、意表をついた「分業制」などについてお話しいただきます。

教えてくれたのは…

「Vesper」オーナー 齊藤良さん

高校卒業後に上京。都内で10年間働いたのち、地元の山梨県甲府市にUターン。2017年に「Vesper」をオープン。席数4席の小規模サロンでありながら、山梨県内売上トップの人気サロンへと導く。現在は髪質改善サロンにシフトし、スタッフがより働きやすい労働環境づくりに尽力中。

都心と地方では働く意欲にギャップがあり、求人のハードルも上がる


――高いカット技術を打ち出したことで、かえって求人のハードルを上げてしまったと?

カットの教育は、上手いレベルに持っていくまでにそれなりに時間も胆力も要します。東京だと向上心の強い子が多いですが、山梨でも同じとは限らない。地方にとどまって働きたいという子と、東京に出て売れたい!という子とではモチベーションに差があるんですよね。

そういう背景もあって、カット練習でつまずかせてしまい、結局スタッフが離職してしまう事態に。求人を出しても、「このサロン練習厳しそう」と応募を躊躇してしまう人も多いのかなと。うちはそこまで厳しい方ではないと思うんですけどね…(笑)。

――応募自体も少ないのでしょうか?

はい。人口も少ないですし、美容学校も県内に一校だけ。東京は物価も高いし、娯楽もたくさんあるから、お金を稼ぐ・働くことに対してわりと意欲的ですけど、地方だと生活にそこまでお金がかからないので、働くことへの意欲が薄いかもしれません。「東京ではこのくらい働くのが普通」という感覚がこっちでは受け入れられないこともあります。

だから、地方では地方に合わせた働き方を取り入れないと難しいですよね。おそらく、地方で開業する上で一番苦労するのは求人だと思います。そこが盲点になっている人は多いのではないかと。

――そういう経緯で、「カット技術の高いサロン」から「髪質改善サロン」に方向転換をしたのですか?

はい。髪質改善メニューであれば、機材やマニュアルなど、ある程度仕組みをつくってしまえば教育の負担が減るなと

実は他にも理由があって。ありがたいことに常にスタッフの手が足りない状態のため、予約が取りづらい、いつも混んでいるからお客様がリラックスできない、そしてスタッフも体力的にキツい。それで、ある程度ゆとりを持って営業できるようにしようと思ったんです。スタッフも疲弊しなくなれば、仕事の質も上がるかなと。

東京より施術レベルが下がる地方では髪質改善の需要大

休日は美しい山並みを眺めながら愛犬とお散歩

――髪質改善サロンにリニューアルするにあたり、どのような準備を?

方向転換を決めたのが去年の12月で、今年の1月頃からセミナーやオンラインサロンに入会して勉強をはじめました。そのあとメニューや商材を決め、この4月にリニューアルオープンをしたんです。

スタッフに対しては、教える側も覚える側も大変にならないように、自分の方でなるべく簡素化したマニュアルを下ろしました。

――メニューや価格帯はどのように変わりましたか?

客価格は3000円ほど上がり、カット+カラーで1万6000円に。「髪質改善」という言葉はすでに飽和状態だったので、プロセスで違いを見せる必要がありました。トリートメントとして打ち出すサロンが多い中、うちではカラーに髪質改善の要素を取り入れることに。ダメージをケアするのではなく、施術そのものをダメージの少ないやり方に変えたんです。

――メニューや価格帯が変わったことで少なからず失客はあったかと思いますが、現在の来店状況はいかがですか?

もともと予約数を整理する狙いもあったので、ある程度の失客は計算内です。価格を上げて客数をわざと減らし、サロンワークが安定してきたところで、再度集客に力を入れようと考えていたんです。が、予想に反し、5月現在ですでに7月までの予約枠が7〜8割埋まってしまい…。人手が足りない状況はまだ改善できていないです(笑)。

――山梨では髪質改善の認知度はいかがですか?

東京の人も山梨の人も髪質に違いはありませんが、山梨の方が技術や商材のレベルが全体的に下がるので、美容室での施術でかえって髪の毛を傷ませている人が多いなと感じます。都心よりむしろ地方の方が髪質改善の需要は高いんじゃないですかね。

デビューはしなくて良い。アシスタント業とカット業の分業制に

「『sins』代表の日野達也さんが運営する『酸性ストレート』の実践型オンラインサロンが個人的にすごく勉強になり、うちの施術のベースになっています」(齊藤さん)

――求人に苦労されたこともあり、現在は働き方の改善にも力を入れているようですね。

まず、実働時間8hのフレックス制を取り入れています。「拘束時間が長い」「土日休めない」を理由に美容師を辞めてしまう人をたくさん見てきたので、そこに自由を持たせられるフレックス制を導入すれば、応募も増えるんじゃないかなと。

ママさん美容師にとってもプラスになると思うんです。みんなが平等に働く時間を自由に選べるルールにすれば、ママさんも「保育園のお迎えにあわせて私だけ早上がりするのは申し訳ない」と肩身が狭くならずに済むかなって。スタッフ一人ひとりのライフスタイルに合わせて働き方を選べるのが当たり前、という環境にしたいなと。

週休3日OKとしているのもその一環です。稼ぎたい月は週休2日に、プライベートを充実させたい月は週休3日に、と各々で調整できるようにしています。固定給は20万にしているので、週休3日にしても生活はそこまで苦しくならないと思いますし、無理して働かされてる感も出ないですよね。

――美容師業の場合、勤務時間を短縮することで売上減の心配もあるかと思いますが。

単価が低いと難しいですが、客単価が高いお店であれば問題ないかと。単価が高い分「良い仕事をしなければいけない」という意識が芽生えるし、最終的に「短い時間で売上が取れるのは、自分が良い仕事をしているから」というモチベーションにつながります。そういう意味でも、価格を上げることは重要だと思うんです。「量より質」です。

――労働時間の改善にはそのような意図もあったんですね。

あと、アシスタントの居残り練習も長時間労働の大きな原因なので、うちは思い切って「アシスタントを育てない」方針を取ることにしました。

――アシスタントを育てない?

基本的には中途メインの採用にしました。少人数サロンの場合、教育に時間が割かれるのは痛手だし、営業時間内に技術練習をするのも厳しい。

だったら、最初からアシスタント業をずっと続けていきたい人を採ろうかなと。「美容業には関わっていきたいけど、スタイリストはハードルが高いし、ガツガツ働くのも嫌」と思っている人だってきっといるはず。実際、カット練習が嫌で離職してしまう若手がたくさんいるわけですから。うちでは、アシスタントのプロフェッショナルとカットのプロフェッショナルのみで構成しようかなと考えています。

――「デビューしなくてもOK」とは斬新ですね。

分業制ってやつですね。例えるなら、医師と看護師みたいな。手術するのは医師で、それをサポートするのが看護師。レベルの高いサポート役がずっといてくれたら、うちとしてはとても助かります。

――最後に、地方で働きたいという美容師さんにメッセージをお願いします。

今は、都心の有名店に入社しなければ技術が手に入らないという時代ではありません。オンラインサロンやSNSなどたくさんの学び場があるので、都心と変わらないクオリティを身につけることができます。だから、地方にいても良い仕事はできるはず。場所ではなく、自分次第だと思います。


地方で求人をかけるときに注意したいこと

1.東京と地方とで働く意欲にギャップあり。厳しい教育カリキュラムが首を締めることも

2.「どれだけ稼げるか」ではなく「労働時間」を打ち出す

3.スタイリストデビュー必須ではなく、アシスタント専門職を設けるのもあり

取材/佐藤咲稀(レ・キャトル)

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Salon Data

Vesper
住所:山梨県甲府市里吉4-4-18 TMビル 1F
電話:055-209-2343
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