「技術×マインドセット×接客力」で自信を持って施術できるネイリストを育てる 小林あいりさん
埼玉県狭山市で、10年続くネイルサロンを経営する小林あいりさん。前編では、長年顧客から愛されるサロンづくりの秘訣を伺いました。流行にとらわれない自分の「売り」を見つけることで、思いに共感した顧客が来店するようになりサロンワークが楽しくなったほか、資材の無駄削減なども叶ったそうです。また新規顧客来店時には、信頼関係を構築し、次回予約をとることを徹底。それにより既存顧客の割合が97%となり、安定した経営がなされているということです。
後編では、さらに小林さんの講師業としての顔にも迫ります。講座内で大事にされている「マインドセット」の考えを身につけると、健やかにサロンワークを続けることができ、よいパフォーマンスが叶うそう。お客さまの満足度をあげるうえでも重要な力だといいます。また、技術力、自分の雰囲気、ターゲット層、自分の「売り」、SNS運用、サロンのインテリアなどサロンを構成するさまざまな要素に統一感を持たせる「ブランディング」の重要性についても教えていただきました。
今回、お話を伺ったのは…
小林あいりさん
ネイルサロン「Aiuto」オーナー。百貨店での化粧品販売を経て、ネイリストに転身。ネイリスト歴は16年、うちオーナー歴は10年。サロンには10年以上担当をしている顧客が訪れるなど、長年愛されるサロンづくりを実現している。自らを「自信をもって施術ができるネイリストになる為のサポーター」と称し、2021年よりサロンワークに特化した講座の主宰も務める。「技術×マインドセット×接客力」という3つの柱があってこそ、ネイリストが自信を持って施術できるようになると提唱している。
「自信を持って施術できるネイリスト」になるためのサポーターになりたい!
――小林さんは現在、ネイリスト向けの講座を主宰されていらっしゃいます。どのようなきっかけで講座を始められたのでしょうか。
ネイリストとして15年ほどキャリアを積んできたタイミングで、そろそろネイルにまつわる違う仕事でステップアップを目指してみたいと考えるようになりました。もちろん毎日のサロンワークも楽しんでいるのですが、今後ネイリストとして40代・50代とキャリアを積むうちに現れるかもしれない身体の変化も念頭に置いて、次の道を決めたいと思っていたんです。
そんな時、他店のネイリストさんたちから「あいりさんのような薄づきうるツヤワンカラーをできるようになりたい!教えてほしい!」「あいりさんのようなネイリストになりたい」と言ってもらったのです。「自分は何も持っていないネイリスト」と思っていたからこそ、そんな言葉をもらったことに驚きと嬉しさがありました。
「一人でも私を必要としてくれるなら」、「誰かのお役に立てるなら」という思いで、次のステップとして講師業をスタートさせることにしました。
自分が好きなことを見つけて、それを仕事にできるというのは奇跡的なことだと思います。きっとネイリストさんたちは私と同じようにネイルが好きで、この業界を目指してきている。だから、ネイリストが自信を持って楽しく施術できるようになってほしいですし、そんなネイリストに施術されたお客さまがハッピーな気持ちになれる世界ができたらいいなと思っています。私のネイリストとしての経験が、それを後押しできたらうれしいです。
――ネイル業界、ネイリストに対する小林さんの愛をひしひしと感じます。
もうひとつの狙いとして、ネイリストの「サロンワーク以外のキャリアアップの道」を開拓していきたいという気持ちがあります。ネイリストは技術職。技術を極めてきた身からすると、その道から外れたことをするのはとても勇気がいることのように感じます。しかし、毎日サロンワークのみを続けていると、キャリアが長くなるほどマンネリしてしまうというお悩みもよく耳にします。そんなときはサロンワーク以外のお仕事をすると、自分の知る世界が広がり、サロンワークもまたいきいきと愉しむことができるようになると思うんです。
そして、人間は必ず年齢を重ねていきます。年齢を重ねることでサロンワークが辛くなり、流行が追えなくなる→お客さまの数が減少する→収益が減りネイリストを止めざるを得ない、という連鎖が起きないようにしたいのです。長く楽しく働けるネイリストさんが増えるように、ネイリストのキャリアップのひとつの道筋を作っていきたいと考えています。
自信を持って、楽しみながら接客することが 「良いパフォーマンス」へつながる
――小林さんは「技術×マインドセット×接客力」というお考えをモットーにされていますよね。技術や接客は大事だと思いますが、そこに「マインドセット」を入れた理由はなんでしょうか。
私の所感ですが、ネイリストのような技術職の方は向上心が高い方が多いように感じるんです。「うまくなりたい!」という気持ちが強ければ強いほど、自分と他人の技術の差を比較して落ち込んでしまう傾向がある気がしています。ネイルのような「技術」には正解がないため、どこまででも追求できる楽しさがある一方、「私はこれでいいのだろうか?」と不安を感じやすい要素もはらんでいると思うのです。
「これでいいのかな。」「ネイルが早く浮いてしまったらどうしよう。」というような不安な気持ちを持ちながらネイルをすると、私の経験上、それがネイルに反映されてしまうと感じています。これはプライベートでのものの考え方も同様です。お客さまによいパフォーマンスを提供するためにも、まずは自分が施術やプライベートを楽しみ、心に余裕を持って、自信に満ちた状態で接客をすることが大事だと思っているんです。多面的な考えができるようになり、自分自身の心の持ちようをコントロールするという意味でもマインドセットという言葉を入れています。
――悩みを少なくすることが、最高のパフォーマンスにもつながるのですね。
ひとりでサロン経営をするオーナーさんは、自分の悩みを相談する先がなくモヤモヤと悩んでしまいがち。私もかつてそういった悩みを持った経験があり、技術や接客力をあげていくだけでは、その解決は難しいと思っていました。
生徒さんたちのお悩みを聞いていると、だいたい自分のなかに無意識的に存在する「こうしなければならない」という思い込みに囚われて苦しんでいることが多いように感じます。普段から物事の見方を多面的にしておき、思い込みによる苦しみをブレイクスルーできるような技術もマインドセットと呼んでいます。この考えを伝えた講座生からは、「漠然とした不安が薄くなり、楽しく働くことができるようになった」といううれしい言葉をもらいました。自分の考え方の癖をコントロールすることが、健やかにサロンワークをするうえで重要だと考えています。
自サロンの理解を深め、構成要素に統一感を持たせていくのがブランディングの極意!
――小林さんは講座のなかで、ブランディングに関するコンサルティングもされていると伺いました。
サロン運営をしていくうえで大事なものを考えると、技術力、自分の雰囲気、ターゲット層、自分の「売り」、SNS運用、サロンのインテリアなど、さまざまなものが構成要素としてあげられますが、そういった「点」を「線」で繋いでいくことがとても重要だと感じています。
たとえば小さいお子さんがいる主婦層をターゲットにしたいのであれば、SNSに掲載するネイルは長すぎないもののほうが好感を持ってもらいやすいでしょうし、サロンの雰囲気は普段忙しい主婦の方がゆっくりくつろげるようなスタイルにしたほうがよいと思います。
自分がターゲットにしている客層が、「どんなふうに情報収集をするのか」「サロンに何を求めるのか」「お店はターゲットにあったコンセプトになっているのか」を考えることが大切です。「
お店の運営の構成要素に統一感を持たせることが「ブランディング」であり、お店の運営にとって重要なことだと感じます。構成要素の「点」のうち一つでも欠けてしまうと、ストーリーが繋がらなくなり、思い描いている結果につながらなくなる実感があります。
――「点」と「点」を「線」で繋いでいくにあたり、みなさんが意外とつまずく共通のポイントがあれば教えてください。
サロンをお持ちの方やネイリストさんには「自分のお店の分析」をすることをおすすめしたいです。たとえば、お店でハンドクリームを販売しているとしますよね。「あなたのサロンでは、どんなハンドクリームが売れていますか?」と尋ねると、意外と自分のサロンの売上傾向をはっきり答えられない方が多いです。まずは、自分の顧客がどんな方々かを知ることが大事ですし、ネイルに限らず、顧客層のなかではどんなことがトレンドになっているのか、どんなものに反応しているのかを知っておく必要があると思います。
また、ネイル以外の美容業界のトレンドを掴むことも重要です。たとえると、美容師業界ではどんなことがトレンドか?アパレル業界では?と、さまざまな分野で知見を広げて、自分の顧客にマッチさせる方法で他業界のノウハウも取り入れていく必要があると思います。自分の知っているネイル業界だけで知識を完結すると、ビジネスは大きくなっていきません。広い分野で情報をキャッチしていき、自分の顧客の分析をしたうえで、情報活用していくことが大事だと考えています。
小林あいりさんに聞く、ネイリストとして長く健やかに働く3つの秘訣
1.人と比較して落ち込むのではなく、楽しんでネイルをすることでパフォーマンスを向上させる
2.物事の見方を多面的にし、思い込みを捨てて、新しい価値観をアップデートしていく
3.自分のサロンや顧客をしっかり分析し、自分やサロンにマッチする形で他業界のノウハウや知識を取り入れていく
サロン経営や講師としての想いを語る口調は穏やかながら、ネイル業界へのあふれんばかりの愛が、小林さんを情熱的に突き動かしているように感じました。ネイリストとしての今後のステップアップにお悩みの方、どのようにしたら楽しく健やかに働いていけるかお悩みの方は、ぜひ参考にされてみてはいかがでしょうか。