セラピストは評価が分かりにくい仕事。だからこそ、自己採点で自分にOKを出せることが大事 the suite 202土屋希望さん♯1
日本で美容師免許を取った後、幼少期から続けてきたマーチングをアメリカでもプレイするため、渡米したオーナーセラピストの土屋希望さん。帰国後、クリームバスとヘナ専門サロンでの経験から、トリートメントを極めたいと再度アメリカに渡ります。しかし、同時多発テロのため、やむなく帰国。未経験での就活の末、The Day Spaに出会います。
リゾートスパでのセラピストやブランドトレーナーの業務を通して、技術だけでは選ばれるセラピストにはなれないと悟った土屋さん。自分磨きのためにさまざまな学びを深め、サロンを開業した現在は、100%いいものを提供できていると自己採点で自分にOKを出せることが大事だという心境に至ったそうです。
お話を伺ったのは
the suite 202
オーナーセラピスト 土屋希望さん
美容師免許取得後、美容師にはならず渡米。幼少期から続けていたマーチングバンドに没頭する。帰国後、音楽を続けながらクリームバス・ヘナ専門店でアルバイト開始。マッサージに興味がわき、フェイシャル・ボディトリートメントを学ぶため再度渡米。ロサンゼルスにあるElegante Beauty CollageにてEsthetic Courseを修了。同時多発テロでやむなく帰国。実務経験がない中での就活の末、The Day Spaに出会う。老舗高級旅館、東伊豆・望水内「Heavenly Spa GECCA」のオープニングスタッフとして採用される。その後、関東リゾートエリアの新店舗や初となる東京支店の立ち上げ、店長、エリアマネージャーを経て、長年ハイアットリージェンシー東京内「Spa&Wellness JOULE」の統括を担当。大磯に自身のプライベートサロン「the suite202」を開業。並行して、前職の化粧品輸入代理店業務のブランドトレーナーとして勤続18年を超える。社内教育のほか、五つ星ホテルスパの取引先への知識・実技トレーニングを担当。
住み込みで生活の9割が仕事だったが、ノンストレスで楽しめたリゾートスパ時代
――土屋さんは、美容師免許を取った後、すぐに美容師にはならなかったそうですね。
そうなんです。小学生のときから10年以上マーチングバンドをやっていて、アメリカでもプレイしてみたいという気持ちがあったので、とりあえず美容師免許を取って渡米し、アメリカと日本を行ったり来たりする生活が続きました。
3年後に帰国すると、美容学校で一緒だった友だちは、すでにスタイリストデビューしている人もいる中、自分だけまた一から始める気にはなれずにいたところ、美容室が経営するヘナ+クリームバス専門のサロンが未経験・平日のみOKという条件だったので、平日はサロン勤務、土日はマーチングのインストラクターという日々を送っていました。元々、美容学校のときからシャンプーするのは好きだったのですが、クリームバスでさらに頭皮マッサージを習得したところ、マッサージすることにどんどん興味が湧いてきて、頭皮だけではなくフェイシャルやボディも勉強したいと思い、今度はロサンゼルスにあるElegante Beauty Collageに入学することになりました。
――アメリカの美容学校はいかがでしたか?
日本人はわたしひとりだったんですが、教科書を開くと、見たことのない専門用語がズラリ。先生の言っていることもたぶん3割くらいしか分かってなかったと思います(笑)。大変な思いをしながらも、半年間のEsthetic Courseを修了したんですが、同時多発テロが勃発した後のアメリカは、移民にとても厳しい状況でした。アメリカでは、日本でいう国家資格は州ごとの資格で、試験を受けるためにはソーシャルセキュリティナンバーが必要なんですが、学生ビザではそれが下りないということになってしまって。資格を取るために行ったのに、いつ取れるか分からない。でも、実際にアメリカの美容学校に行ってみて、技術は日本がいちばんかもしれないと思ったんですね。時間ももったいないし、技術を学ぶなら日本がいいかもと、やむなく帰国することになりました。
――帰国後、セラピストの仕事をスタートさせたのですか?
実務経験がない中での就活で、The Day Spaに出会い、老舗高級旅館 東伊豆・望水内「Heavenly Spa GECCA」のオープニングスタッフとして採用されました。海が目の前で、波の音がダイレクトに聞こえる、セラピスト冥利に尽きる最高のスパです。
旅館近くの一軒家で共同生活をしながら、約半年かけて研修を受けました。当時は、バリニーズの手技が主流で、バリ人の先生が2~3ヶ月現地に滞在して教えてくださるスタイルだったんですね。住み込みで土日も関係なく、生活の9割が仕事でしたが、とにかく技術がうまいセラピストになりたいと思っていたので、丸2年間はノンストレスで楽しかったです。3ヶ月目くらいからできるメニューからゲストに入り、徐々にすべてのメニューに入れるようになりました。
現在もブランドトレーナーとしてThe Day Spaに関わらせていただいているので、勤続18年目になります。
ブランドトレーナー業務で、セラピストは技術だけではダメだと気づかされる
――現在も続けていらっしゃるブランドトレーナーとは、どんなお仕事なのでしょうか?
入社2年目くらいのときに、会社がスパの運営のほかに、化粧品の輸入代理店業務を始めたんですね。海外の化粧品を輸入して、The Day Spaの店舗でも使い、また外部にも商品を卸していく業務です。The Day Spaでは、シティやリゾートの各ホテル・旅館様のコンセプトに合ったスパを展開しているので、それぞれのコンセプトに対応できるブランドが必要になってきます。そしてスパでも結果の出るものを求められるタイミングだったため、いくつかのブランドを取り扱うようになりました。
例えば、アーユルヴェーダの叡智が取り入れられ、オーガニックでありながら結果の出るスキンケアSUNDARI、フランス発ラグジュアリースキンケアブランドBiologique Rechercheなど。ブランドトレーナーは、そういった取り扱いブランドの商品知識、使用法、技術などを社内や外部取引先のセラピストの方に教育する業務になります。
――ブランドトレーナーの業務をすることで、なにか変化はありましたか?
人に教える業務を通して、セラピストは人間性というか、全部含めてお客様に選んでいただくんだなということに気づきました。技術があるから、必ず選ばれるとは限らないんですよね。
――技術以外のものも大事だということですね。それを磨くためになにか努力されてきたことはありますか?
技術だけでなく、自分の内面を磨くことが必要です。例えば、SUNDARIというブランドを取り扱うようになったことで、アーユルヴェーダにハマること15年以上(笑)。とても奥深いものなので、これは沼だなと思ってある程度のところで学びを止めていましたが、最近新たに古典ヨガにハマったことで、アーユルヴェーダへの興味が再燃しました。アーユルヴェーダとヨガの両方をやることで、心と身体のバランスが整うことを実感しています。
それから、自分の強みを強化するために、能力開発のセミナーにも行きました。自分のサロンを開いてからとくに、自分のボディとマインドが整っている状態で、はじめてお客様にいいものが提供できることに気づかされました。
――自分磨きの成果はありましたか?
お客様に触れてから終わるまでの感じ方も変わりましたし、お客様の反応も変わったと思います。わたし、美容師とセラピストとのいちばんの違いは、セラピストはお客様に最終的な満足感で評価されることだと思うんですね。美容師は、つくった最終的な形が、お客様が思い描いていたものかどうか、その目に見えるものが気に入ってもらえるかどうかでで評価されますが、セラピストが提供しているものは、まったく目に見えない無形のもの。感覚なんですよね。例えば、お客様の体が楽になった、肌がいい状態になった。また、今日来て良かったなとか、家に帰ってから今日はいい体験ができたなど、すべてお客様が感じることなので、セラピストにとっての評価は分かりにくいんですよね。
でも、分からないからどうでもいいのではなくて、自分が100%いいものを提供できたなと自己採点でOKを出せることが大事なんだと思います。
後編では、ブランドトレーナーの業務を継続しながら、自身のサロンをオープン。ふたつの仕事をどのように並行しているのかお伺いします。