「お客様の髪が広告」地方で強みになるのは、あらゆる客層に対応するマルチな技術【SLUNDRE 小松伸満さん】#2
前回に続き、福島県いわき市にある「SLUNDRE」代表・小松伸満さんにインタビュー。
東京とのギャップに対応しながら、地元のブランドサロンへと成長していった「SLUNDRE」。後編では、そんなサロンのブランディングや集客など、地方でのサロン経営についてのアドバイスをお聞きします。
お話を伺ったのは…
hairmake SLUNDRE 代表 小松伸満さん
代官山のヘアサロン「8 1/2 eight&half」に12年勤務。アトリエ店店長として若手教育や各種セミナー講師、雑誌のヘアメイクなどを務める。2014年4月、地元・福島県いわき市にて「hairmake SLUNDRE」をオープン。妻でありアートディレクターの作山友紀さん(DaB出身)とともに、福島県内や近郊サロンにてセミナー講師やヘアメイクとしても活動中。
あらゆる年代・ジャンルの人たちに対応できる
おしゃれで解放感のあるサロン作りでブランディング
――地方でサロンを経営するうえで取り組んでいることはありますか?
地方でサロン経営をしてみて感じたのは、メインターゲット層の20~30代がほとんど子育て世代だということ。だから小さいお子さんがいる方でも来店しやすい環境作りは、意識しています。
2年半ほど前にサロンを拡大移転したときに、フロアを4つに分けて作ったんです。2つのメインフロアと、ファミリースペースと個室スペース。なかでもファミリースペースは、とても人気があります。メインフロアから離れた場所にあり、扉を閉めれば個室にできるので、小さい子が騒いでもあまり気にならない。もちろん家族みんなで一緒にも使えます。
そういった子育て世代が来やすい環境を考えつつ、ファミリー向けサロンみたいなポップな雰囲気にはならないようなラインを目指してブランディングしたのが、よかったのかなと思います。
――ファミリー全体をお客様にできるのは強みになりますね。
サロンは撮影スタジオとしても使えるように作っていて、5年くらい前からサロン内に着付けチームを編成して着付けもできるようになりました。サロン内の各個室で、着付け→ヘアセット→撮影まで同時進行できるんです。また妻の作山がメイン担当のブライダル部門では、地元の結婚式場と提携して当日のヘアを担当したり、サロンでブライダルフォトを撮れたりもします。
そうして七五三や成人式など、小さいころからの家族の行事すべてに携われるようになったのは、経営面でもすごく大きかったですね。小学生のころから髪を切っていた子の成人式の撮影ができる…みたいな経験は、家族ぐるみでお付き合いできる地方ならではのいいところだと感じました。
――フロアが4つに分かれていると、いろいろな使い方ができそうです。
1階にある個室スペースはバリアフリーにしていて、受付やシャンプー台との距離も近くしています。車椅子や目の不自由な方など、あらゆる年齢層の方に対応できるようになりました。
あとは地方ならではの難しさなんですが、世間が狭い故に共演NGみたいな人同士もいたりするんです。商売敵だったり、嫌いあっているママだったり、先生と生徒だったり…(笑)。前の店舗では鉢合わせて気まずい空気になることもあったので、フロアをたくさん分けることで顔を合わせずに済むようになったというメリットもあります。
――移転前までの経験を活かしたサロン作りが、さらに良い結果につながったんですね。
前の店舗では「解放感」というキーワードがとても好評だったので、解放感を失わずにプライバシーが保てる設計にはこだわりました。同じ方向を向いている鏡がなかったり、それぞれの席間隔を2メートルぐらいあけたり。これができるのも地方の利点だと思います。60坪のなかに13席というゆとりのあるサロン作りは、都内では難しいですから。
広告は「どこで切ったの?」と聞かれるヘアスタイル
――集客面で意識していることはありますか?
集客面ですと、うちは9割9分クチコミで、広告を一切出していないんです。集客サイトを利用していないのは僕のポリシーもありますが、他店との差別化・ブランド戦略という面も大きいです。
クチコミで集客するために大切なのは、僕はやっぱりヘアスタイルがきめられるかどうかだと思っています。あとはお客さんに真摯に向き合えば、おのずと良いクチコミは広まるんじゃないでしょうか。
広告を打たない理由も、僕は一番の広告がヘアスタイルだと思っているからなんです。広告を打つよりも、1人のお客さんの髪がきまっているほうが、絶対に広告効果が得られると思うんですよ。
だからいつも考えているのは、来ていただいたお客さんに満足してもらうのは当たり前の最低ラインだということ。狙うのは、最低でも3人に「その髪、どこで切ってるの?」と言わせたり、お客さんが誰か3人に思わず「このサロンよかったよ」と言ってしまうような仕事なんです。そういう気持ちで仕事をするように、スタッフにもいつも話しています。
――地方で美容師の仕事をするうえで大切なことは何でしょうか。
ありとあらゆる層に対応できるマルチなスキルを持つことだと思います。ヘアスタイルを作る技術はもちろん、子どもからお年寄りまで相手にできる会話のスキルも必要です。
他業種の人たちとのつながりというのも、とても大切だと思います。例えば、お客さんに「どこか美味しいレストランないですか」とか「どこで服買ってるんですか」と聞かれることは多いんですが、同じように他のお店でも「いい美容室ないですか」という話になることはあるはずなんです。
そこで自信を持って紹介し合える横のつながりというのを、僕は大切にするべきだと思っています。いろんな業種の方たちとお客さんをシェアしていく感覚を大切にすると、お店がより地域に根付いていくと思うし、地域全体を底上げしていく力になる。自分たちだけが良ければいい、ではない考え方が、地方では大切なんじゃないかと思います。
大切なのはブレない自分の軸を持ちながら
出店する地域を徹底的にマーケティングすること
――現在力を入れていることや、今後取り組みたいことはありますか?
まずは地域貢献。僕たちはファッションや美容というジャンルでやっているので、地域でのその部分の底上げというのは考えていきたいです。それに伴って、人材の育成にも力を入れていきたいですね。「地方でも立派な技術者が育てられるんだぞ」というのを見せてやりたいと思っています。
他業種とは違うかたちでの美容を通した地域貢献と、ファッション・美容ジャンルを底上げする人材の育成。その一環として、地元の美容師たちと一緒にヘアショーをするイベントも企画しています。地元で美容師を目指す高校生や美容学生に見てもらいたいのはもちろん、全く美容と関係のない人たちにも見てもらって、「美容師ってこんなにいい仕事なんだよ」というのをわかってもらいたい気持ちもあります。そういった活動を通して、若い子に「自分たちもやってみたい」と思ってもらえたら。
あとは、美容師のなり手が減っているなかで「それでもやってみたい」という子を少しでも増やしたいので、会社としても一般企業と同じレベルでの福利厚生や働きやすさを与えていける会社作りを今後も心がけていきたいです。
うちは子育て世代の女性スタッフが多いので、働き方は自分で決めていいというスタンスで考えています。週休4日でやっている社員もいれば、パートとして時給でやりたいというスタッフもいますし、月16日出勤と決めて調整しているスタッフもいます。僕も小さい子どもがいて気持ちがわかるので、スタッフがどれだけ休んでも経営が成り立つようにするのが僕の仕事だと思っています。
――最後に、これから地方でサロン開業を目指す方にアドバイスをお願いします。
まずは、自分のブレてはいけない軸を1つ持って欲しいです。とくに、これから地方に行こうと思っている人は、いろいろなギャップを感じると思います。「ここだけは譲れない」という軸を持って、それ以外はできるだけ柔軟になったほうがいい。
あとは出店しようと思う地域のことを徹底的に調べること。例えば、同じ福島県でも山がある日本海側と海に近い太平洋側でまったく地域性が違ったりします。するとマーケティングも変わってくるんです。
太平洋側は話好きが多いけど、日本海側だと会話が苦手な人が多い。太平洋側の人はお店の中が見えないと不安で入れないけど、日本海側の人たちはガラス張りのお店は恥ずかしくて入れない。極端な例えにはなりますが、そういった違いが、サロン作りや接客の仕方にも影響してくるんですよね。
地域性や移動手段、人が集まる場所だけでなく、僕は年代別の人口比率や車を持っている人の数まで調べました。そうして徹底的に調べると、自ずとピンポイントの立地や作るべきお店の姿みたいなものが見えてくる。そこに、自分のブレない軸を組み合わせていけば、地方で成功するお店が作れるんじゃないかと思います。
取材・文:山本二季