新人時代に努力したことは必ず自分に返ってくる。えがお美容室 久瀧ゆきさん♯2
あまり器用でなかったことからステップアップに時間がかかり、言いたいことがうまく伝えられず、新人美容師時代には叱られることもあった久瀧ゆきさん。前編では、そんな久瀧さんに新人時代を振り返ってもらいました。先輩をもっと上手に頼ればよかった、先輩に叱られたとき「自分を思って言ってくれているんだ」と思えば聞き入れやすかったはず、そして自分の意思表示をもっとすればよかったと、現在の新人の方にも参考になるお話をたくさん伺いました。
後編では、久瀧さんが新人時代と比較して変わったことをお聞きします。えがお美容室では、美容師×ファッションバイヤーを兼任することで年齢の垣根がなくなり、経験豊富なシニアのお客様に新しい提案をすることでリピート率アップ。いまは常に自分の意見を持てるようになったそうです。
お話を伺ったのは
えがお美容室
美容師×ファッションバイヤー
久瀧ゆきさん
IKKO氏に憧れ美容師になる。大手、個人サロン、フリーランスなどあらゆる業務形態を経験し、シニアターゲットのえがお美容室に転職して現在6年目。宝塚観劇が趣味で、宝塚風ショートスタイル、宝塚風カラーリングが得意。美容師×セレクトショップのファッションバイヤーも兼任し、ヘアスタイルだけでなくトータルコーディネートをアドバイスする。美容師歴14年、現在34歳。
美容師としてもファッションバイヤーとしても年齢の垣根がなくなった
――現在、美容師以外にファッションバイヤーの仕事もされているそうですね。ご自分でやりたいと言ったのですか?
いいえ。社長がやってみないか?と誘ってくれました。最初はショップスタッフという話だったのですが、ショップスタッフをやるなら仕入れも勉強になるからと、仕入れに連れて行ってもらったことがきっかけでファッションバイヤーもやることになりました。
――美容師以外の仕事もすることになったときはどんな気持ちでしたか?
ショックでやめようと思いました(笑)。知らないことが多すぎて、無理かもしれないと焦ってしまい、社長に「辞めたいです」と伝えました。
――社長からはどんな返答が?
「疲れてるんだな。一度帰って休みなさい」と(笑)。オープニングを経験したことがないのに、オープニングスタッフと同時にバイヤーの話だったので、わたしがいっぱいいっぱいになってしまって。
――オープニングスタッフと同時にバイヤー? それはいっぱいいっぱいになりますよね。
でも一旦落ち着いて考えたら、美容師以外の仕事ができるチャンスなんてなかなかないので「がんばります」と伝えました。
――ファッションバイヤーを兼任することで、美容師の仕事に役立っていることはありますか?
すごくあります。おばあちゃんだから短くしなきゃとか、こういう髪形じゃないと、おばあちゃんだからこういう服を着るべき!と思っている人が多いと思いますが、バイヤーの仕事をするようになってから、やりたい髪形をして、着たい服を着ればいい。わたしたちが、似合わせればいいと思うようになりました。
はじめて展示会に行ったときは、正直おばあちゃんがこれ着るのかとか思ったんですが、毎回作り手さんのお話を聞くたびに、その思いがすごく伝わってきて。着る人の年齢は関係ないんじゃないかなと思うようになったんです。わたしが、服に合った髪形を提案すればいい。また、この髪形にしたらこんな服が合うんじゃないかとイメージがかなり広がりました。美容師としてもファッションバイヤーとしても年齢の垣根がなくなったような気がします。
――そんなふうに美容師×ファッションバイヤーの仕事を楽しめるようになったのはいつ頃からですか?
3年目くらいからですね(笑)
――結構かかりましたね(笑)
最初は迷いもありましたし、まったく初めての仕事を一からを覚えることに精一杯だったので。両方すごく楽しいなと思えるようになったのは、本当にここ最近ですね。
新しい提案をすると、確実にリピートにつながる
――シニアターゲットのサロンで心がけていることは?
人生経験豊富な方が多いので、そこからさらに「新しい」や「やってみよう」を提案することです。「もう歳だし、こんな感じにしたほうがいいのかな」と考えるお客様が多いんですが、「白髪があるからできることもいっぱいある」と提案することを心がけています。わたしの担当は髪と服ですが、えがお美容室にはヘアメイクもいるので、トータルコーディネートが可能です。
――では、シニアターゲットの美容室にいるメリットは?
新しい提案をすると、確実にリピートにつながることです。ライフスタイルを聞いて1年通しての提案をするので、言い方悪いですけど浮気しない方が多いです。リピートが多いということは、新規獲得に労力を使わなくていいので。
何に対しても常に自分の意見を持てるようになった
――いま振り返ると、新人時代はどんな経験でしたか?
何度も泣きましたし、しんどかったですけど、あれがないと現在がない。新人時代に努力したことは必ず自分に返ってくるので、努力してよかったなと思います。
――新人時代の自分と現在の自分との違いはどんなところですか?
強くなりました(笑)。聞かれても聞かれなくても、何に対しても、「それはすごくいいことだ」とか、「もっとこうしたほうがいいのでは」と常に自分の意見を持てるようになりました。
――入社1年目でも意見はした方がいいのでしょうか?
行き違いがあっての不完全燃焼がいちばん辞めたくなるので、やりたいとか、自分がどう思ってそれをやったのかとかは言ってもいいと思います。先輩が怒ってたら、まずは謝ってからですけどね(笑)。
――では、新人のときに必要な心構えは?
絶対に何度か辞めたくなるときがあると思うんです。最初は楽しいことより辛いことのほうが多いかもしれないですし。でも、そこで辞めてしまうのはもったいない。わたしは石の上にも3年、がんばるタイプなんですけど。がんばってみる、続けてみることが大事だと思います。そうすると必ず見えてくるものがあります。
それと何年目でも努力はしたほうがいいと思います。それが絶対自分のためになるから。
――最後に美容業界の新人の方にアドバイスをお願いします。
技術がなかなか上達しなくても、先輩に叱られても、わたしはお客様と話すことだけは楽しかったんです。そういう自分が好きな部分をめいっぱい楽しむことも大事だと思います。
それから、同期や先輩ともコミュニケーションをたくさんとったほうがいい。プライベートを充実させることも大事ですが、職場でも楽しいほうが絶対にいいから。楽しみがあると続けられますよね。
久瀧さんが新人時代と比較して変わったことは
1.ファッションバイヤー兼任で年齢の垣根がなくなった
2.新しい提案をすることでリピート率アップ
3.常に自分の意見を持てるようになった
言いたいことはちゃんとあるのに、うまく伝わらず涙があふれる。そんな新人時代を過ごした久瀧さん。「先輩は自分を思って言ってくれている」、「1年目はまだ美容師の楽しみは味わえてない。だから辞めてしまったらもったいない」、「新人時代の努力は必ず自分に帰ってくる」などなど。現在新人としてがんばっている美容従事者の方に等身大のアドバイスをたくさんいただいたインタビューでした。
撮影/大崎聡
取材・文/永瀬紀子