葛藤したアシスタント時代。悔しさをバネにトップヘアスタイリストとして活躍するまで【BEAUTRIUM 前田 百合子さん】#1
銀座の一等地に店舗を構え、実力派のヘアスタイリストが多く在籍しているサロン「BEAUTRIUM 265」。開業時に責任者を任されたトップヘアスタイリストの前田百合子さんは、今年で美容師32年目を迎えます。
サロンワークのみならず、メディアでも引っ張りだこの前田さん。現在まで昔と変わらず一定の支持を集めている秘訣と共に、歩んできた道のりを振り返ります。
お話を伺ったのは…
BEAUTRIUM 前田 百合子さん
BEAUTRIUMに入社後、青山店、表参道店、南青山店の勤務を経て、2010年に銀座にある265店の責任者に就任。サロンワークで活躍するほか、メディアからのオファーが絶えない。
MAEDA’S PROFILE
- お名前
- 前田 百合子
- 出身地
- 熊本県
- 出身学校
- アーデン山中ビューティーアカデミー
- 憧れの人
- Kate Moss
- プライベートの過ごし方
- 愛車でドライブ
- 趣味・ハマっていること
- 美容に関するモノ、体を動かす
一度落ちても諦め切れない思いをぶつけ、1年越しにBEAUTRIUMへ入社
――ヘアスタイリストを志したきっかけをお聞かせください。
中学生になったときに初めて美容室に行ったことがきっかけです。
美容室の雰囲気に圧倒され、そこで働いているヘアスタイリストさんがみんなかっこよくて。自分にないものを持っているところに強く惹かれて「美容師になりたい!」と思いました。
――サロンに行ったことで憧れを抱いたのですね。
それもありますが、当時は今ほど情報網が発達していなくて、仕事の選択肢も狭かったんですね。加えて、机に向かう仕事をしている自分の姿が想像できませんでした。
美容師を目指す気持ちは高校生になってからも変わらず、美容の専門学校に進学。1年間学び、希望のサロンでインターンをし、デビューするという流れでした。
――インターンをした先はどちらだったのでしょう?
代官山のサロンでアシスタントとして入社して、資格を取得しました。
――BEAUTRIUMへ入社した経緯をお聞かせください。
実はインターン先としてBEAUTRIUMを受けたのですが、落ちてしまって。1年後、自ら問い合わせて面接の機会をいただいたんです。2度目にして、ようやく入社することができました。
――一途にBEAUTRIUMにこだわり続けた理由は?
ちょうどインターン先を選んでいるとき、美容の専門誌で見かけて衝撃を受けたんです。
当時は今ほど技術が進んでいなかったので、ラインをパツっと切る重めのヘアスタイルが主流だったところ、BEAUTRIUMでは、柔らかくてエアリー感がある真逆なヘアスタイルを提唱していたんです。私自身、重めなカットよりもBEAUTRIUMがウリにしていたヘアスタイルを作りたい思いが強くて、それからずっと忘れられなかったんです。
あとは、地元から出てきていた背景もあり、せっかく東京にいられるならしっかり基礎から学べるサロンで学びたいと思っていました。
看板に寄りかかっていたアシスタント時代。葛藤の末に磨いた技術
――念願のサロンに入社してみたお気持ちは?
嬉しかったですよ。でも、先に入社している同じ年齢のスタッフに早く追いつこうと必死でした。
――アシスタント時代について、詳しくお聞かせください。
アシスタント3年目の頃、チーフとしてサロンワークをまとめる仕事もしていました。1日100名ぐらいのお客様をスタッフみんなで協力して朝から晩まで働いていた毎日は、楽しくて充実していたと記憶しています。
問題に直面したのは本来の仕事であるカットチェックのとき。それなりに練習も重ね、いよいよチェックの段階と先輩に促されるまま受けたのですが、自分の中で完全に理解できていなかったらしく、ハサミが入れられなかったんです。その出来事をきっかけに、自分の実力がBEAUTRIUMに見合っていないと改めて実感させられて。関わっていた人たち全員に対して、申し訳なさや情けなさ、悔しさの感情が押し寄せました。
本来、負けず嫌いな性格の私はそこでようやくスイッチが入り、毎朝毎晩、練習に向き合う日々が始まりました。
――ご自身で仕事に臨む姿勢を切り替えられたのですね。
とにかく練習を繰り返し繰り返し。毎日終電ギリギリまで、さらには休日も削ってモデルハントをして、実践を交えながら場数を増やして技術を磨きました。
リピートしてもらうには「再現性」「リアルさ」を演出すること
――葛藤を乗り越えてデビューしたからこそ、現在まで活躍できているのだとお見受けしました。
ヘアスタイリストデビュー後は目まぐるしい毎日でした。サロンワークのほか、川畑タケルにきたメディアの仕事が私に回ってきたことを皮切りに依頼が増えていきました。現場でご一緒する方々とつながり、いろいろな仕事を経験できたことで自分自身の経験値を上げられたのだと感じます。
――メディアの仕事で意識していることは?
一般的にメディアでつくるヘアスタイルは作品感が強い印象ですが、私はリアルさを残すように意識しています。
――それはなぜでしょう?
サロンワークでオーダーいただいたスタイルを、再現できるようにしたかったんです。
当時は雑誌全盛期で、サロンにいらっしゃるお客様はなりたいヘアスタイルが掲載された雑誌を持っていく方法が主流でした。そのため、誌面ではできるだけ自然に日常生活に溶け込むヘアスタイルを提案し、持ってきていただいても再現できるものを考えていたんです。
誌面に掲載されているヘアスタイルをオーダーいただいたとき、再現できるようなヘアスタイルでなければリピートにもつながりませんから。どんな時代も再現性があるのか・ないのかが、選んでもらえるキーになるのではないかと思うんです。
取材・文/東菜々(レ・キャトル)
撮影/生駒由美