私は弱くないから、悪いものは私のところに捨てに来て大丈夫。私の履歴書Vol.31【「ZARAHA BEAUTY」セラピスト 仲松知美さん】#2
恵比寿のエステサロン「ZARAHA BEAUTY」の最高技術責任者のセラピスト・仲松知美さん。ゴッドハンドと称され、芸能界にもその名を轟かせる一方、仲松さんの人柄に救われている人も大勢います。
前編ではマッサージ業界に足を踏み入れることになったきっかけや独立するまでのお話を伺いました。今回の後編では、仲松さんの施術スタイルについて語っていただきます。「コースを組むのが嫌い」というその言葉には、お客様の苦しみに届く施術をしたいという意思が通っていました。
独立〜現在
コースを組むのが嫌いなんです
――仲松さんは今や「ゴッドハンド」として予約も困難だとか。仲松さんの施術に魅了されるのはどんなところでしょうか?
いまだに自分が人気があるのかわかりませんけど…(笑)。
私の場合、メニュー内容を細分化していないんです。例えば、腸マッサージに自信にあって、どの施術にも取り入れているんですが、それはその方が体の変化を感じやすいから。お客様には「仲松さんはいつも腸マッサージも一緒にやってくれるから、他のお店でわざわざ腸マッサージコースを契約しなくて良かった」と言っていただくこともあります。
カウンセリングにも時間を取らないです。というのも、時間いっぱい施術をしたいと思っているので、施術をしながら話を聞くことがほとんどです。カウンセリングの時間を施術する時間に含めてしまっていることがもったいないというか、やっぱり無駄が多いなと感じてしまうんです。そういう無駄を省きたいですね。
あとは、コースを組むのも嫌いなんです。
――コースを組むのが嫌い、とは大胆発言ですね。
何でコースを組むの? と思うんですよね。きちんとお客様と向き合って施術ができていれば、必然的に予約は入ります。私は、「月に1回、確認で来店してください」と伝えるだけなんですけど、皆さん次々と次回の予約を入れてくれるんです。それってコースを組んでいるのと一緒じゃないですか。わざわざ先に大金をいただく必要があるんだろうか…といまだに腑に落ちないんです。そのときどきでお金のことも含めて考えた方が良くないですか?
――エステではコースを組むのが当たり前という風習がありますよね。
コースを組んでいるサロンで働いたことがあるんですが、当時は今ほど法律にお客様が守られていなくて、サロンの押しに負けて泣きながらコースを契約している人もいたんです。だから私、「契約作業はしません。施術しかしませんから」と宣言していました(笑)。
契約するときはお客様の悩みにつけこんだり、コースの回数が残っている人にはカルテを漁って電話して「次はいつ来ますか?」と催促したりするんですよ。「いつ来るかなんてお客様のタイミングなんだから催促することじゃなくない?」って思っていました。
それに、コースを組むと一回の施術の価値がわからなくなるんですよ。予約するのを忘れたままの方に「期限切れで一回分なくなりますがよろしいですか?」と聞くと、「あ、わかりました」で、あっさり終わるんです。一回2、3万円くらいするメニューなのにそれでいいの!? って感じですよね。きっとご自身もまとめて払っているので、一回分にそれだけの金額がかかっている感覚がないんですよ。だから、施術を受けているときも適当になるんです。施術をする側も、高いお金をいただいているという意識が薄れて施術がおざなりになるんです。それじゃあ結果なんて出ませんよね。
――確かに、コースを組むと施術を受ける側もする側も適当になるというのは納得です。
都度払いなら、例えば1回2万円のメニューをご予約いただいたら、「私はその分の施術をしなきゃいけないんだ」と、こちらもプレッシャーを感じますよね。手抜きはできないし、お客様の体と向き合わなければいけません。私の場合は、「痛いですけど、こっちも全力でやるので一緒に頑張りましょうね」「この辺りが詰まっているみたいですが痛みはありますか?」という風に会話をしながらやっています。
私の施術料金は正直高いけど、「ほかのお店に5回通うよりも、仲松さんのところに一回来た方が良い」と言ってくださるお客様もやっぱりいるんです。ありがたいですし、もちろん私もそういう心づもりでやっています。
というか、わかりやすくエステで括っているんだけど、私ってエステティシャンなのかな…?(笑)
――実は、仲松さんをエステティシャンとお呼びして良いのか迷いました。
お客様の脳改革をするのも私の役目かなと思っていて。マイナスなことを考えていると、体もマイナスになっていくので、どうやって前向きな気持ちに導くかを考えながら会話しているんです。そういう面ではセラピストになるのかな? でも、脳がリラックスするとくびれができたり、お尻が上がったり…と結局はキレイになるんですよね。
――メンタルも関係するんですね。
心と体はイコールなんですよ。別物だとは私は考えてないです。
――一回の施術を大事にしているからこそ、その二つを結び付けて考えられるのでしょうか。
昔はただひたすら施術をしていましたからね。1社目にいた頃は予約をかぶせて取られることも多くて、施術が終わって扉を開けるとスタッフがオイルを持って待っているんですよ。「はい、次のお客様は何番です」と言われるがままに行くと、「誰? この人」みたいな(笑)。お客さんが誰かもわからないまま施術をするっていうね。
忙しさのピークが過ぎて、少し余裕が持てるようになってからお客様と向き合えるようになったんですよね。「あ、この方のこと覚えてる!」と、体に触れると思い出せるようになって、そこでお客様一人ひとりと向き合うことの大切さに気づくことができたんです。
同時に、この仕事をしてわかったんですが、私って本当に人の気を吸いやすいみたいで。施術後にゲロゲロしたり咳が止まらなくなったりすることもよくあるんです。そういうときほどお客様はキラキラして帰られるんですよね。
――体に触る仕事をしているとそういうこともあるんですね。でも、やっぱり仲松さんのお人柄にも救われている人は多いのではないでしょうか。
お喋りしに来る人もいますね。あと、悩みを抱えている方も多くて、施術中に急に泣き出したりする方もいるんですけど、そういうときは泣き止むまでゆっくり待ったりしてね。きっと何か悪いものを抜きに来ているんでしょうね。だから私は、「いらないものはここに捨てていきなさい」とよく言っているんです。私は弱くないし、弾けるので。
これから
迷子になっている人を救いたい
――はじめは歌手を目指されていましたが、今は生涯セラピストでしょうか?
必然的に求めてもらえる仕事だと思うので、自分の体が持つ限りは続けていきたいです。来年40歳になるんですけど、今はもう昔ほどガムシャラに施術することができなくなっちゃって。いつまでやれるかわからないからこそ、自分の体を見つめ直さなきゃと思っています。
病院に行っても不調の原因がわからないというのは恐怖ですよね。原因がわからず諦めて歩けなくなっている人、無意識に自分で自分を攻撃して傷つけてしまっている人、たくさんいると思います。私もこれまでにそういう恐怖を経験して克服してきた身なので、みんなにも大丈夫と伝えたいし、苦しい感情を取り除いてあげたい。私が自分の体をしっかりケアして施術できる状態にしておかないと、そういう迷子になっている人たちを救えませんから。
――これまでこの仕事を続けてこられた秘訣はなんですか?
私は何でも突き詰めたくなる性格で、あっさりと答えが出るものは向かないんだと思います。昔、仕事のためにと思って経理を勉強したことがあるんですが、私には事務作業が合わなくて(笑)。あれは一生無理ですね。それに対してマッサージには答えがありませんからね。
――これからの目標はありますか?
ハリウッド俳優に施術してみたいですね。彼らは世界中から注目を浴びている分、ストレスも相当だと思うし、そういう人たちがどうやったらゆっくり眠れるようになるのか試してみたいんです。
あとは、地元の大分に貢献できることをしたい。大分は温泉の名地なんですけど、「温泉も素晴らしいけど、マッサージも良いよね」と言ってもらえるようなコラボができないかなと考えているところです。おまけみたいなマッサージじゃなくて、質の高いマッサージ。究極にリラックスできる温泉の街にできたら良いなと思っています。
仲松さんの成功の秘訣
1.できるまでやめない
2.自分の体を大事にする
3.一回の施術に全力を尽くす
▽前編はこちら▽
自分の体を実験台にして技術を身につけてきました。私の履歴書Vol.31【「ZARAHA BEAUTY」セラピスト 仲松知美さん】#1>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)