鈴木勝裕 interview:「独立」という目標に向かって突き進み、そして「カリスマ」に
『美容業界の風雲児』と呼ばれ、次々に斬新な経営を生み出す『元祖・カリスマ美容師』鈴木勝裕さん。その経営手腕は、他業界からも注目を集めています。人口減少により美容業界が衰退していくまさに今、新たな革命を起こそうとしている鈴木さんに、美容業界の今後を踏まえてお話していただきました!
絵と数学にロマンを感じた少年時代
「美容師になりたいと思ったのは、高校生の時です。成績のバラつき感が半端なかったので(笑)、手に職をつけないとダメだと思いました。
もともと、子どもの頃から絵を描くことと、数学が好きだったんです。絵と数学は、一見真逆のものに見えるかもしれません。しかし、数字は配列を見るとロマンがあり、音符や言葉に近いものだという感じがします。一方、絵は描く時にX軸・Y軸・Z軸、そして光と時間の流れを意識します。ダ・ヴィンチなどはまさに、立体を平面に表現する際に、座標の概念と光を巧みに使っています。そういうところが、絵と数学は重なって見えます。
また、子どもの時は野球が好きで、強い選手の打率計算をしたんですよ。カーブをどれくらい打つか、シュートをどれくらい打つか、ということを計算で出すと『だからこの選手は強いんだ』ということが目に見えて理解できます。それが面白かった! 有名選手の長嶋茂雄は、さすがにオールマイティーに打ってましたよ(笑)」
絶対に、誰よりも早く独立する! と決意
手に職を、と考え、一番手堅いと思った理容師学校に行きました。でも卒業する時に、男性だけだと髪型のバリエーションが少なくてつまらないかな、と思ったんです。そこで、さらに美容学校に行きました。同級生はほぼ100%就職をしたので、先生からは『お前、変わってるな』って言われました(笑)。こうして美容学校に入学をしましたが、絶対にこの中の誰よりも早く店を出そうと思っていました。どの辺りに店を出すか、どういう風に組織作りをするかなどを、在学中から考えていました。自分の道に迷いはなかったです。
卒業後、最初は回転率のいい大きい店に就職しました。朝は6時から夜は11時くらいまでがむしゃらに働いていましたが、1年ほど経った時、過労で倒れてしまいました。心臓が止まりそうになったんです。薄れゆく意識の中で『ああ、人間って一生懸命やりすぎると死んじゃうんだな』と思いました。行くところまで行かないと、わからないタイプなんですよね(笑)。目的は『早く店を持つ』なので、身体を壊しては何にもならない。そういう訳で、のんびりした個人店に転職しました。技術は、カットスクールに入学し直して、向上させていきました。そしてインターンが終わってスタイリストになった時、今度は新規オープンのお店に転職しました」
美容室に、資本主義の導入を。
「ここで修行をして、店長を超えた時に独立しようと決めました。さて、どこで『店長を超えた』と判断するかというと、自分でリターン率を出していたんです。少年の頃の打率計算と同じです。お客様にどれだけリピートしていただけるかを1ヶ月ごとに計算し、半年で店長を超えました。それが自分の中で節目になり、店を出しました。
その頃の美容業界は、今よりももっと労働条件が不十分でした。2店舗目を出したあたりで組織作りが必要だと感じはじめ、組織図を作り、取締役会を作り、労働条件を整えて。その中で、そもそも資本主義とはなんだろう、と考えて勉強をしました。資本主義では、労働と資金の分配が成されなければいけません。資本金を積み上げ、労働分配率を考えながら組織を作っていきました。そうやって、地元入間に6店舗を展開しました。ファッションのメッカである原宿に店を持ちたい、という思いが強くなってきたのはこの頃です。そのため、原宿にマンションを借りて、店舗数や人の流れ、立地条件など徹底的にリサーチしました。そうして2年も経つと、不動産の方とも仲良くなっていたので、条件のいい場所に新しいビルができた時すぐに教えてもらいました。こうやって、念願の原宿進出を果たしたんです」
カリスマ美容師ブームの幕開け
「原宿店は、有名美容室が軒を連ねるピカピカのビルの中。1年くらいはずっと赤字でしたが、社員はよくついてきてくれたと思います。赤字続きでしたけど、僕には『もうすぐブームが来る』という予感がありました。ずっと耐え忍んでいたある日、経済誌の取材がきました。『原宿になぜ美容室が増えるのか』というテーマとのことで、僕の考えをお話ししました。その後、また別の経済誌の取材が来て、そしてついに、TV取材のオファーが。ついに来た! と思いました。『原宿に美容室ブームが起きている』という1時間番組。おしゃれなカリスマ美容室の中で、僕は『田舎からの挑戦者』みたいな扱い(笑)。それでもいいと思ったんです。でも、全国に流れるのだから何かインパクトを出したいと考えました。撮影の日は他の店舗のスタッフも総動員してお客様をハントしまくり、100人の髪を切りました。最後の一人が終わった時、みんなで泣き崩れましたよ。大変なドラマ性があったんでしょう、電話が止まらなくなり、そこからカリスマ美容師ブームが始まったんです。
独立、店舗展開、カリスマブームと、順調に大きくなっていきました。それには何が大事かというと、夢を持つことだと思います。『もう叶っている』くらいの強い夢を持つことで、脳に暗示をかける。そうすると、脳がそれに従って動くようになるので、無駄がなくなっていきますよ!」
国に認められる、最高の事業計画を
「カリスマブームの終焉はすぐにきました。僕自身も、このブームは一過性のものだとは感じていたので、方向転換は早かったです。美容業界の置かれている立場や労働環境、マーケットなどを見つめ直しました。日本の人口はどんどん減っていますよね。人口以上に売上げは増えないというのは、考えればわかるものです。
さて、そんなマーケットの縮小の中で、働く人の夢が詰まっている職場を作るにはどうしたらいいのか。働く人の夢と言っても人それぞれ。大きく分けると、『夢を持って社長になりたい』、『とにかくお金が欲しい』、『安定して長く働きたい』。この3つだと思いました。それぞれの夢を叶える場所を具体的に作っていくために、まずは数字と事業計画を見直しました。中途半端じゃダメだ、最高の事業計画を作れないか、と模索する中で、国が事業計画を認定する制度があるのがわかりました。国に承認されれば補助金が入るし借り入れもできる。自分の考えを試すことができる。そこで、挑戦することを決意しました」
美容業界を引っ張るリーダーを育てたい
「最初に承認されたのは、老人市場に向けて福祉移動車両の提案です。こちらが受理され、実行に移しました。さらに、自分たちの美容室の方向性も定めました。写真館やペットの美容室などを備えた、総合美容のブランド『ビューティシモ』を作り、福祉車両と同時に展開していったんです。そして2回目の計画書で、ビューティシモブランドをフランチャイズ制にしました。このビジネスモデルを、まず社内から発信していこうと。それが今年の12月で切れるので、今まさに3回目の計画書を作っています。
今度は何をするかというと、美容師の育成です。美容師学校とは違い、デザインを作るための教育です。実は美容業界には、国際基準の製図板がまだありません。髪型を作るには、技術やセンスに加えて、必要なのは幾何学です。直線でカットして形を作る。これは、感覚ではなくて理論があります。それをマニュアルに落とし込むと、製図板……要はデザインテンプレートとなります。これを見れば、今まで難しかった理論がわかりやすくなります。わかりやすくなれば、美容師になる人の裾野が広がります。裾野が広がればリーダーになる人が必ず出てくる。今後は、これからの美容業界を牽引するリーダーを育てることが、僕の使命だと思っているんですよ」
女性が働きやすい環境づくりを、美容業界から始めよう
「今後は、フランスの美容室とコラボレーションして、この取り組みを広めて行こうと思っています。人口減少問題は、日本以外の先進国はすでに克服しています。特にフランスは、女性の労働環境はトップレベル。週休2日制の徹底、給与の底上げ、シッター制度の充実、休暇もすごく多い。トップスタイリストだと、年に35日のバカンス休暇がありますからね。女性が働きながら育児をしやすい環境を整えることによって、人口が安定しています。子どもが減らなくなっているから、将来に対しての恐怖がなくなっている。
方や、日本の人口はみるみる減り続けている。若い人がどんどん減って行って年配者が増えていくと、国家として立ち行かなくなるのが目に見えている。これに歯止めをかけるには、女性の労働環境を守らなくてはいけません。そのためには、一番女性を雇用している美容産業が『働きやすさ世界一』というレベルの目標を掲げ、ライフワークバランスを整えた社会構築のモデルとならなければいけないと思います」
選択肢が広がる美容室のあり方
「第一次ベビーブームの時代にはパーマが流行しました。そしてカリスマ美容師ブームの時代はカラーリングが流行しました。しかし、もう美容室単体でのムーブメントは起こりにくいと思います。来るとしたら、恐らくビューティシモが行っているような複合体が増えるのではないかと見込んでいます。髪を切って、着替えて、写真を撮って。七五三や成人式、ウェディングの記念にも。美容室だけに頼っていては売上げアップは難しい。しかし美容業界のコアになるのは美容室だと思っています。
現在の状況としては、フリーランスの美容師さんが増えています。もちろんお金を稼ぎたい人にはそれもいいでしょう。僕自身としては、長く働きたい人に対して福利厚生の充実した美容室を増やしていきたいですし、独立したい人は、小さいお店を持つのもいいでしょう。前述したように、夢は人それぞれです。面積が小さくてお客さん一人しか入れない美容室なんていうものも、これからはどんどん増えていくと思います。今後は、自分の望む働き方によって選択肢がすごく多くなる業界になると予測しています。
これを読むリジョブ読者の方は、今、転職に悩んでいる方も多いかと思います。一つの職場で修行するのも、キャリアアップを目指して転職するのも素晴らしいことです。もし悩んだ時は、そこが未来が描ける職場かどうかを考えてみてください。自分の未来、会社の未来、そして美容業界の未来。将来の夢を思い描き、未来へつなげていくことができる職場が、あなたの人生を豊かにするのだと思います」
Profile
鈴木 勝裕(すずき かつひろ)さん
埼玉県美容業生活衛生同業組合理事。
美的感覚集団美髪堂株式会社 代表取締役
24歳で独立後、地元密着の美容室運営で着々とキャリアを重ね、原宿に店舗を展開しカリスマ美容師ブームを作った『業界の風雲児』。現在、総合ビューティモール「ビューティシモ」を運営。その卓越したカット技術と斬新なアイデアで、常に注目を浴びている。
Company
ビューティシモ
コンセプトは『ホスピタリティー』。
訪れる一人一人のお客様に、最上級のおもてなしを提供する総合ビューティモールです。
ヘアサロン、ペットサロン、着物レンタルなども行う写真スタジオを備え、美容に関するサービスをワンストップで提供する。お子様やワンちゃんと一緒に。家族みんなが癒されるサロンです。
Beautissimo 所沢
埼玉県所沢市日吉町10-21 リ・クリエ所沢B館2F
04-2924-8622
公式サイト
http://www.belles-beaute.jp/
奇跡の美容室
加速する人口減少が国内での売上げを確実に低下させる。集客競争で少ない客を奪い合う時代は既に終わった。人口の爆発的な増加が見込まれる海外市場をインターネット上から開拓せよ!
美容師DREAM STREET
「金がない」「お客が来ない」「スタッフが集まらない」…。苦難続きの美容室「ストリート」を、天才的なカット技術とユニークな経営方法で、原宿きっての人気美容室に成長させた希代の美容師が書き下ろす、初のエッセイ集。