大切なのはハート。誠実さと向上心こそがお客様満足度に比例する【メアリーズ・ボーテ代表 西尾麻里さん】#2
西尾麻里さんがオーナーを務める「メアリーズ・ボーテ」は、施術前後にしっかりとカンセリングを行い、一人ひとりに合わせてアロマ精油を調合するという本格的なアロマセラピーサロン。ロンドンでアロマセラピストとして独立。帰国後は一流ホテルのサロンでトップセラピスト&マネージャーとして活躍されましたが、西尾さんは肩書きやトップの座への欲は皆無。その代わりに、駆け出しの頃から変わらない一本の軸があるようです。
後編では、新規事業立ち上げの一貫としてはじめた介護アロマや、西尾さんが考える「居心地のいいサロン」の形、働き場所が増えている今大事にするべきことを教えていただきます。
アロマセラピーは高齢者の方に向いている
――ホテルサロン勤務時代はマネージャーも経験されていますよね。
実を言うと、役職などなく普通のセラピストとして働いていたかったので、頭角を隠すように静かにしていたんだけど、見つかってしまって(笑)。最初は「ウォーターサーバーを取り替えるタイミングをスタッフに指示してくれるだけで良いから」という話だったのに、どんどん業務が回ってきて、気づけば家に持ち帰って仕事するように。やっぱり根は仕事人間なので毎回このパターンなんですよね。
メニューを決めたり、スタッフを教育したり、ホテルの社員と打ち合わせをしたり…と業務内容は多岐に渡りましたが、好きなことを仕事にしていたし、自分で自由に決められたので楽しかったですよ。会社もさまざまな事業を展開し、介護施設や妊産婦クリニックなど新しい契約先を見つけ、その度に私に立ち上げを任せてくれたんです。自分で企画書をつくって、施設やクリニックに行ってプレゼンし、「ぜひうちの会社でやらせていただけませんか?」と。
――介護施設では、アロマセラピーに対して当時はどんな反応でしたか?
もともと父の介護を機にホームヘルパー2級の資格を持っていたので、高齢者に対しての接し方がスムーズだったのも安心してもらえた理由かもしれないですね。
高齢者の方の反応としては色々だけれど、人によっては、「気持ち良かったわ〜」と施術後に言ってくれるんだけど、2週間後にまた訪れると覚えていないんですよね。「アロマセラピーって何かしら?」からはじまって、また同じことの繰り返しになることもありました。
女性はおしゃべりな方が多いけど、男性は一人黙って座っている方が多くて。けれど、こちらから話しかけると饒舌になり、だんだんと表情が柔和になっていくんですよね。だから、対話することもマッサージと同じくらい重きを置いていました。
――高齢者の方にも受け入れられたのですね。
そもそもイギリスでアロマを習ったときから、「タッチの仕方やアロマの香りはお年寄りに良いんじゃないかな」とずっと思っていたんです。
車椅子に座っているとむくみがひどかったり、肌がガサガサだったり、体が硬くなっていたり。そういうところをアロマで和らげてあげられたと思いますし、明るい気持ちになっていくのが目に見えて分かったので、精神面でも貢献できると感じました。
アロマセラピーの本質を活かしたサロンへ
――なぜお店を構えたのですか?
お店を持ちたいという気持ちは特になく、結婚したら自宅の一角で細々とアロマセラピーができたら良いなぁとぼんやり思い描くレベルでしか考えていませんでした。けれど、しばらく結婚する機会もなく(笑)。マネージャーをやらせてもらった会社を諸事情で退職するときに、「他の会社で働きたいという気持ちもないし……仕方ないから自分でお店をやるか」みたいな感じで独立しました。だから全然満を持してというわけではないんです(笑)。
――どんなサロンを目指そうと思ったのですか?
ホテルサロンでは、一人のお客様にあまり時間をかけられなくて、はい次、はい次、みたいな流れ作業になってしまうことも多々あったのですが、自分のお店ではアロマセラピーの原点に立ち戻ろうと思って。
自分が習ったアロマセラピーはしっかりカウンセリウングをして、相手のバックグラウンドを把握した上で整えていくものなんです。体だけほぐれてもダメで、メンタルがほぐれてはじめて癒される。体とメンタルはリンクしているので、両方を見てあげられるサロンにしたかったんです。
そして、精油にも徹底的にこだわりました。アロマセラピーを本格的に勉強した身としてはアロマの効果を施術に活かしたかったんです。単なる香り付けや、人工的な香りではなく、お客様と相談しながら、その時々の症状に合わせて決めるというスタイルに。「どの香りが良いですか?」と単純に聞くよりも、自分の知識と感性を使って調合する方がずっと楽しいですよね。
――湘南にもサロンを構えていますが、なぜそんな遠方に?
自分にとっての癒し空間を、という気持ちでつくったんです。ただでさえ仕事人間なのに、年齢を重ねるとエネルギーが枯渇してしまうんですよね。あるとき、自然のエネルギーが自分を補ってくれる感覚を体験したことがあって。自然の力ってすごいなと。都心にいるとつい働きすぎてしまうけど、湘南にサロンを構えれば、仕事という体で都心から離れられるでしょ。お客様にとっても同じで、一日湘南で遊んでパワーチャージをすれば、都心に帰っても元気に働けるんじゃないかと。だから、現地の人に向けたサロンではないんです。
――まさに本格的アロマセラピーなんですね。「西尾さんがいないと生きていけない」と駆け込む女性が多いと聞きます。
モットーにしているのはかかりつけのサロンになること。毎回違うお客様に施術するのと、「あなたじゃないとダメ」と思ってくれるお客様に施術するのとでは、全然違いますからね。他のスタッフやスクールの生徒さんにもそれを教えています。
――それには高い技術力を持っていることが前提ですよね。
技術力はもちろんですが、一番大事なのはハートです。いくら上手い人でもリピートしたくないなと思う人っているでしょ。「人柄にすごく癒された」「励まされた」「良い時間を過ごせた」と思ってもらえれば、トータルの点数は高いと思います。
だから、「習いたてだからお客様がつかない、というわけではないんだよ」といつも教えているんです。「この人を癒したい」というハートは熟練の技術に匹敵すると思っています。
――西尾さんはアロマセラピストとして様々な形で活動してこられたようですね。働き方の多様性という観点で、何かアドバイスをいただけますか?
色々なスタイルのサロンがあり、それぞれ客層やメニューが違いますから、自分に合った働き方を見つけられると良いですよね。人によって向き不向きがあるので、最終形態が「独立」じゃなくても良いと思います。
けれど、どこで働いても大切なのは誠実にお客様に向き合うことと、向上心を持ち続けること。つまりハートです。気持ちのコアがしっかりしていれば、ホテルでも介護施設でもクリニックでも、相手に満足してもらえるはずです。
西尾さんの成功の秘訣
1. まずは経験! 働く場所に固執せず、おかれた場所で技術や知識を吸収する
2. 技術だけでなく「癒したい」というハートを持ってお客様に誠実に向き合う
3. 自分に合う働き方をして、働きながらエネルギーをチャージする
▽前編はこちら▽
ロンドンでアロマセラピストに。学生ビザ滞在中に自宅サロンで成功!【メアリーズ・ボーテ代表 西尾麻里さん】#1>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)