美容師の独立 若手が美容師を楽しめる業界にするために僕らは動く Vol.15【SOZO 郡山恵三(KEIZO)さん、青木聡(TAA)さん】#2
独立した先輩たちにその心構えを学ぶ本企画。
前編に引き続き、インターナショナルサロン「SOZO HAIR&MAKE」の代表・郡山恵三(KEIZO)さんと青木聡(TAA)さんにお話を伺います。ターゲットを明確にして、「割引に頼らない」という潔い選択をしたお二人。そうすることで、結果として美容師が幸せになれるのだと語ってくださいました。
後編では、「お店として何をすれば美容師がもっと幸せになれるのか」について、SOZOの持論をたっぷりと語っていただきます。
お客様は技術で100%を求めているわけではない
――サロンワークで大切にされていることは何でしょうか?
青木聡さん(以下TAAさん):技術を伝えることより想いを伝えることを意識しています。この前のミーティングでもスタッフに話したことなんですが、お客様のことを「好きな人」だと思い込むこと。会ったときに自分のマインドを勘違いさせるんです。好きな人に対する行動って何をするにもずいぶん変わってくるじゃないですか。「何をしたら好きな人に喜んでもらえるかな?」って考えますよね。だから、「お客様に最初に会った瞬間に好きになってみよう」と教えているんです。
――大きな期待を持って来てくださる方が多い中、お客様との接し方で大変なことはありますか?
TAAさん:僕は技術よりも満足度を大事にしていますね。というのも、お客様は別に斬新なものを求めているわけではないからです。スタイルやデザインなどは80%できていれば、お客様はそれより先の技術力は求めていないと思うんです。だから、他の部分で100%にして、満足してもらうということを常に考えています。
技術を追求するだけではお客様は絶対に満足しません。お客様が帰るときに「来て良かった!」と思ってくれなければ、こちらが「いいスタイルに仕上がった」と自己満足していようが関係ないですからね。その20%を上げるためにさらに技術を磨こうとする人がいるかもしれませんが、それを他の部分で頑張ればお客様はきっと満足してくれると思います。
――サロン独自の付加価値ということでしょうか?
TAAさん:そうですね。接客だったりお店の雰囲気だったり色々とありますが、お客様のトータルの満足度を見るべきなんです。うちのスタッフも段々とそこを意識してくれるようになりましたね。
アシスタントは平日の営業時間中に技術練習!
――こちらのスタッフさんはどういった背景を持っているのでしょうか?
TAAさん:海外志向が強い子が集まっています。「海外で美容師をやりたい」「英語を話したい」とか。英語を全く話せなくても海外に興味のあるスタッフを育てられるサロンにする、というのが実は立ち上げ当初から考えていたことなんです。実際、そこに魅力を感じて応募してくれる人が多いですね。
郡山恵三さん(以下KEIZOさん):求人も自社サイトにしか載せていないから、目標をしっかり持っている人が検索してうちを見つけるような仕組みになっているんです。
――SOZOで働く上で、英語が話せることは必須なんでしょうか?
KEIZOさん:必須ですね。顧客も外国人を集めているので。僕らはもうベテランだから技術力もありますし、ある程度の顧客も抱えているので新規はほぼ必要ないですが、デビューしたばかりの人にとっては新規が取れないというのはマズいですよね。新規客が来ないようなサロンで働くのって不安じゃないですか。だから、その子たちのために新規を常に取れるようなシステムが必要だと思って、英語教育に力を入れようと思ったんです。外国の方が新規で来店しても担当できるようにってね。
――離職率が高いことを受け、こちらのサロンで取り組まれていることはありますか?
KEIZOさん:僕が特に懸念している点が、女性が結婚して出産すると美容師を辞めてしまう人が多いということ。せっかく技術を身につけたのにもったいないなぁ…と。川口市にcecaiという店舗を立ち上げたのも実はそういう背景があったからなんです。
cecaiでは「18時に退勤してください」という勤務体制を取っていて、それが可能になるような予約システムにしているんです。普通の美容室って何時に予約が入るかわからないから、僕らの勤務時間もそれに左右されますよね。でもcecaiは、歯医者さんと同じで次回予約を入れて帰るお客様がほとんど。3ヶ月後までのシフトを出しているから自分の出勤日に合わせて予約を取ることができるというわけです。
結婚・子育てを機にSOZOで働きにくくなった場合でも、向こうに異動すれば美容師を続けることができますよね。ちなみにcecaiの前店長は女性で、出産を機にSOZOから異動していったスタッフなんですよ。
――アシスタントの拘束時間が長いことに関してはいかがですか?
KEIZOさん:表参道って競争が激しいので、他のサロンさんは遅くまで練習しているようですが、それが良くないなぁと思っていて…。僕らのお店は夜残っていないんですよ。指導はマンツーマンで1対1、練習は週に1回のみで朝か夜の2時間だけ。でも、月に8時間だけだと技術的には足りないので、平日の昼間に練習しているんです。僕がアメリカで働いていた頃に感じたことなんですが、向こうの人達ってプライベートを優先するので、残業は絶対にしないんですよね。それを受けて、10年前にSOZOを立ち上げたときから、夜に残らなくても済むようにしようと決めていたんです。
――平日の昼間に練習ですか!
KEIZOさん:ある程度のレベルをクリアした人はモデルを連れて来て、モデルに一日中カット練習につき合ってもらうという感じ。それをレベルに合わせて3〜6日行うと月に60時間くらいは確保できるので、技術練習が足りていないってことにはならないですよね。あとは自主練です。お店が決めた練習時間は週に2時間だけなので、スタッフから文句を言われたことはないですね(笑)。
TAAさん:自主練習をしている人はいるけど、帰る人はソッコー帰りますよ。帰れない空気ってよくあると思うんですけど、うちは下の子から帰ってますからね(笑)。
――美容師業界でその光景は新鮮ですね! ちなみにスタッフさんの教育で気をつけていることはありますか?
TAAさん:これに関してはずっと勉強だと思っていて、人それぞれ合うやり方があるので毎回考えますね。1を言って10を理解する子もいれば、10を言っても2〜3しか分からない子もいる。だから人によって教え方を変えないと多分無理ですし、諦めないで教えるしかないですね。
KEIZOさん:映像コンテンツをつくったりもしています。家でカット練習ができるようにYouTubeに動画を上げたりして。通勤の電車の中で動画を観られれば、残業して練習する必要はないでしょ。
ーースタッフさんとはプライベートでも仲良くされているのですか?
KEIZOさん:仲良くするというか、「仲間」だと思っています。一緒に飲みに行く関係でなくて、「美容を通じて世界をハッピーにする」というビジョンを一緒に背負う仲間です。それに、今の若い人たちはやりたいことがいっぱいあるだろうから、こういう考えの方が時代に合っているのかなとも思いますけどね。
美容師の仕事の楽しさを伝えたい
――海外志向が強いスタッフさんなら、いずれは海外進出を機に辞めてしまうのではないですか?
TAAさん:そういう人は今までも多かったですね。
KEIZOさん:ドイツに行くとか、ニューヨークに行くとかね。うちの考え方やスタッフと合わないというわけではなく、「海外に行きたいから」という理由でSOZOを離れて行くのはすごく悔しいなと思っていたんです。それで、海外にサロンをつくると決めたんですよ。そうしたらうちのスタッフとして一緒に海外に行けるでしょ。
――逆にSOZOで働きたいという外国人の方もいますか?
KEIZOさん:すごい多いですよ。イタリア人やイギリス人、オーストラリア人…。でも、法律上外国人は雇えないので泣く泣く全員お断りしているんですよ。将来、海外にサロンを構えた暁には現地でスタッフ募集をしようと思っているんです。
――今後の展望について教えてください!
KEIZOさん:色々なコンセプトのサロンをつくりたいと思っています。今だったらアートギャラリーと美容室の融合というコンセプトでやっていますが、やりたいコンセプトが見つかったらまた出店したいですね。
僕個人の目標としては、「美容師が働きやすくてハッピーになれる環境づくり」ですね。僕、トップスタイリストとしてバリバリ売れたいという欲は全くなくて、後進がもっと活躍できる場所をどうやって提供していくか、ということにワクワクしているんです。
TAAさん:僕は現場が超大好きだから、一生現場に立っていたい。
KEIZOさん:TAAはお客様を喜ばせるのが得意なんだよね。エンターテイナーというか。
TAAさん:僕にとって髪を切ることはオプションなんです。髪を切る作業が好きなんじゃない。髪を切りながらお客様と会話を楽しんで、綺麗にして喜んで帰ってもらう。この一連の流れが好きなんです。
この気持ちをいかにスタッフに伝えていくか、が僕の目標ですね。僕がいなくてもお店が回って、スタッフも楽しく働けているのが理想なんです。トップに立っていたいなんて思っていないし、僕をどんどん追い抜いてくれて構いません(笑)。僕はただ好きだからこの仕事を続けていくだけなので。
――美容師としての「楽しい!」という気持ちを育てたいということなんですね。
KEIZOさん:スタッフ全員を大事にしています。月に一度、経営計画勉強会を開き、お店がどこに向かっているのか、今のポジション、売り上げなどをスタッフに全部見せています。若い人でも福利厚生が気になる人がほとんどですよね。だから、例えば「待遇はここを目指しているから一緒に頑張ろう」と伝えれば、スタッフも「今は休みが少ないけど、もう少しすれば増えるんだ」「給料も今の時期を耐えれば良いのか」ってなるでしょ。僕の頃は組織の内部事情なんて分からなかったし、先が見えなくて不安でしたからね。
あとね、スタッフに色々なポジションを用意するのも僕の仕事かなと思っています。美容師とプラスで他にやれることを生み出していかないと、とね。
――美容師とプラス…というと?
KEIZOさん:必ずしも「スタイリスト」の仕事だけに固執する必要はないのかなと。実は、美容塾をつくったんですよ。コロナの影響でまだ開校できていないのですが、美容に特化した英語やどの国の人にも対応できるカット技術を学べる場を用意しようと思いまして。だから、これからは講師という役職も必要だし、外国語が堪能な人には通訳になってもらえると助かります。そうやって色々な活躍の場を用意すれば、SOZOの仲間としてみんながそれぞれの得意分野を活かせるんじゃないかと。
――学校づくりから携わるサロンとは珍しいですね!
KEIZOさん:10年前にお店のビジョンを話し合ったときに、「最後は美容室ではなく美容学校をつくろうね」と決めていたんです。美容の発展途上国で日本の美容を教えたいんですよ。
TAAさん:社会貢献というか、美容貢献ですかね。
KEIZOさん:もちろん箱をつくって終わりではなくて、そこで僕らが教育をしていきたいなと。
独立を目指すあなたへ
独立してお店をつくることは簡単。大事なのは発展させていくこと、向上させることです。誰に喜んでもらえるか、何をしたら喜んでもらえるのかを僕は常に考えているし、そこに経営の面白さを感じています。また、美容業界って本当に素晴らしいということを伝えたい。これからさらに労働環境も待遇も良くなります。この先何十年は必ず必要とされる業界だし、やれることだってたくさんあります。美容師としても楽しめるし、経営者になっても楽しい。だから美容師の仕事を辞めないでほしいですね(SOZO代表 KEIZOさん)
これから先、今までのやり方が間違いにもなってくるので、常に新しい情報を持つようにしてほしいです。昔は間違いと言われていたことが今は正解になり、正解と言われていたことが間違いにもなる。色々なことが目まぐるしく変わる世の中になってくるので、「美容師」という概念にこだわらず幅広く勉強することも必要です。結果、美容師として伸びると思いますし、幸せにもなれます。もし今、美容師を辞めたいと思っている人がいるなら、その美容室がおかしいだけ。美容業界には素敵なところがたくさんありますから。先を見ていれば必ず希望はあります。(SOZO代表 TAAさん)
▽前編はこちら▽
美容師の独立 割引はしない。自社の力だけで集客できるサロンに Vol.15【SOZO 郡山恵三(KEIZO)さん、青木聡(TAA)さん】#1>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)