美容師は退職金をもらえるの?相場・仕組み・自分で備える方法を徹底解説
美容師が仕事をやめるとき、退職金は支給されるのでしょうか。実は、法律上の義務はないためサロンによって対応が異なり、必ずもらえるとは一概にはいえません。
もちろん雇う側としても、これまで働いてくれた感謝の意味も込めて、できれば退職金を支払ってあげたいもの。しかし、退職金制度の導入が難しい場合、どうすればよいのでしょうか。
この記事では、美容師の退職金のリアルな事情から、経営者・従業員双方が知っておくべき退職金に代わる制度、そして自分で将来に備える方法まで、分かりやすく解説します。
そもそも退職金とは?法的な義務はない「任意」の制度

退職金とは、従業員が退職する際に、勤務先から支払われる金銭のことです。これは法律で定められた義務ではなく、各企業の判断に委ねられる「任意」の制度です。
かつては「終身雇用」が一般的で、定年まで勤めあげて退職金を受け取るのが当たり前とされていました。しかし、働き方の多様化や経済状況の変化から、退職金制度を導入しない、あるいは廃止する企業も増えています。
りそな年金研究所が公表した最新の「統計でみる退職金・企業年金の実態(2025年版)」によると、中堅・中小企業で退職給付制度がある企業の割合は、以下の通り推移しています。
・2004年:83.4%
・2014年:78.9%
・2024年:64.2%
このように、この20年間で19.2ポイント減少しており、退職金制度を設ける企業が緩やかに減り続けていることがわかります。
引用元
りそな銀行「統計でみる退職金・企業年金の実態(2025年版)」
美容師は退職金を貰えるの?

法律上、会社に退職金を支払う義務はありません。そのため、退職金がもらえるかどうかは、勤めているサロンのルール(就業規則など)次第となります。
特に美容室は、個人経営などの小規模なサロンが多く、退職金制度を設けていないことも珍しくありません。だからこそ、これからお仕事を探す方は、求人票の福利厚生欄に「退職金制度あり」と書かれているかを、ご自身の目でしっかり確認することが大切です。
【雇用形態別】退職金の考え方 早見表
働き方によって退職金の扱いは異なります。以下に、主な雇用形態ごとの考え方を早見表のようにまとめましたので、ご自身のケースを確認してみましょう。
正社員の場合
サロンの退職金制度の対象となるのが一般的です。ただし、制度があるかどうか、またその内容はサロンによって異なるため、就業規則などで必ず確認しましょう。
契約社員・パート/アルバイトの場合
会社の退職金制度からは対象外となる場合が多いです。ご自身で備える場合は、iDeCoやNISAなどを活用した資産形成を検討するとよいでしょう。
業務委託・フリーランス(個人事業主)の場合
サロンとは雇用契約を結んでいない個人事業主となるため、会社の退職金制度の対象にはなりません。そのため、ご自身で計画的に準備することが不可欠です。国の制度である「小規模企業共済」や「iDeCo」、そして「NISA」などを組み合わせて、将来に備えましょう。
雇用保険は基準を満たせば加入義務がある

退職金とは別ものですが、「雇用保険」というものがあります。雇用保険とは、労働者を雇う場合に原則として強制的に適用される保険制度。1週間に20時間以上、かつ31日以上の雇用が見込まれる際には加入する義務があります。
スタッフの入社時に加入し、退職した際には要件を満たすと国から「失業給付」という保険金が支払われます。
引用元
雇用保険制度の概要|ハローワークインターネットサービス
雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか! |厚生労働省
関連記事
美容師が知っておきたい失業保険の基礎知識|どこでもらうの? 申請する場所と手続き方法を解説 | モアリジョブ
失業保険をもらうにはハローワークで手続きしよう
失業給付を受け取るためには、美容師をやめたのちにハローワークに行き、所定の手続きをしなければなりません。住所地にあるハローワークで求職の申し込みと「離職票」の提出を行いましょう。
受け取るには要件があるため、受給資格があることが確認されたら、受給説明会に参加します。「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を受け取り、「失業認定日」の確認をしましょう。
求職活動を行いながら、4週間に1回の認定日ごとにハローワークに行きます。認定が下りれば、その都度(支給期間内)保険金が支払われるという仕組みです。
引用元
雇用保険手続きのご案内|ハローワークインターネットサービス
美容室が退職金制度を導入する3つのメリット

退職金の準備は経営の負担に感じるかもしれませんが、制度を導入することには大きなメリットがあります。
1. スタッフの定着率向上
「このサロンで長く働きたい」と思える安心感は、優秀なスタッフの流出を防ぎます。経験豊富なスタイリストが定着することで、技術力やサービスの質が安定し、サロン全体のレベルアップにつながります。
2. 採用活動でのアピール力強化
求人情報に「退職金制度あり」と記載できることは、他のサロンとの明確な差別化要因となります。特に、将来設計を真剣に考える意欲の高い人材にとって、非常に魅力的な条件として映るでしょう。
3. 従業員満足度と信頼性の向上
スタッフを大切にする姿勢は、従業員の満足度(ES)を高め、仕事へのモチベーションを向上させます。こうした取り組みは、結果的にサロンの雰囲気や接客サービスの質にも反映され、お客様からの信頼にもつながっていきます。
将来のために備えたい、あるいは従業員のために何か形を用意したいと考えるなら、この後で紹介する国が後押しする制度の活用が有効な選択肢となります。
サロンで導入できる2つの退職金制度

①「中小企業退職金共済(中退共)」
サロン(企業)が毎月の掛金を金融機関に納付し、従業員が退職した際に、その従業員へ共済から直接退職金が支払われる、国が作った外部積立型の退職金制度です。経営が不安定になりがちな中小企業でも、安全・確実・有利な退職金制度を手軽に作れるように設けられました。
掛金について
掛金の月額は、従業員一人ひとりに対し、5,000円から30,000円までの範囲で自由に選択できます。パートタイマーの場合は、特例として2,000円、3,000円、4,000円の掛金を選ぶことも可能です。この掛金はいつでも見直すことができます。
国の助成制度
新たに中退共に加入する事業主に対して、加入後4ヶ月目から1年間、掛金月額の1/2(従業員ごと上限5,000円)を国が助成してくれます。また、掛金月額を増額する際には、増額分の1/3を1年間助成する制度もあり、導入のハードルが低く設定されています。
税制上のメリット
法人が負担した掛金は、法人税法上、全額を損金として計上できます。また、個人事業主が負担した場合は、所得税法上、全額を必要経費として算入できるため、高い節税効果が見込めます。
引用元
制度の概要|中小企業退職金共済事業本部
加入の条件|中小企業退職金共済事業本部
(試算)退職金シミュレーション|中小企業退職金共済事業本部
②「確定拠出年金(DC)」
確定拠出年金(DC)とは、毎月積み立てる掛金を、加入者である従業員自身が投資信託などの金融商品で運用し、その運用成果によって将来受け取る額が変わる年金制度です。掛金の額が確定していることから「確定拠出」と呼ばれます。
企業型DCと個人型DC(iDeCo)の違い

確定拠出年金には、企業が退職金制度として導入し、掛金を拠出する「企業型DC」と、個人が任意で加入し、自分で掛金を拠出する「個人型DC(iDeCo)」の2種類があります。
制度導入のメリット
■企業型DC 企業が主体となって導入する制度で、掛金は原則として企業が負担します。掛金の上限は月額55,000円(※)です。企業が支払う掛金は全額が損金扱いとなるため、企業側の税制メリットがあります。 ※他に企業年金がない場合
■個人型DC(iDeCo) 個人が主体となって任意で加入する制度です。掛金は自分自身で負担し、上限は会社員の場合で月額23,000円です。支払った掛金は全額が所得控除の対象となり、ご自身の所得税・住民税を軽減できるメリットがあります。
引用元
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
確定拠出年金のしくみ|企業年金連合会
個人事業主・フリーランス美容師なら「小規模企業共済」

個人事業主や小規模な会社の役員として働くフリーランス美容師の場合は、「小規模企業共済」という制度があります。これは、事業主が自身の退職金や廃業時の生活資金を備えるための、国が作った制度です。
掛金と金額
掛金は、月額1,000円から7万円まで500円刻みで自由に設定できます。納付した掛金は、共済金の受取時に利息に相当する額が上乗せされて戻ってきます。
節税ができる
小規模企業共済の最大のメリットは、掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として課税対象所得から控除される点です。これにより、所得税や住民税の負担を大きく軽減できます。
「小規模企業共済」の注意点
掛金の納付月数が12ヶ月(1年)未満の場合は、共済金を受け取ることができず、掛け捨てになってしまいます。また、任意解約の場合、納付月数が240ヶ月(20年)未満だと元本割れしてしまう点にも注意が必要です。
引用元:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済」
共済や制度を賢く利用し、将来への安心を築こう

見てきたように、美容師の退職金はサロンの規定次第であり、必ずしも支払われるものではありません。
しかし、サロン経営者にとっては、「中退共」や「企業型DC」といった制度を活用することで、従業員の満足度向上と人材定着につなげることができます。
従業員の立場であっても、勤務先に退職金制度がないからと諦める必要はありません。「iDeCo」や「小規模企業共済(個人事業主の場合)」などを利用して、自分でコツコツと将来のための資産を築くことが可能です。
まずは自店の制度を確認し、自分に合った方法で将来への備えを始めてみてはいかがでしょうか。
美容師の退職金に関するQ&A
最後に、美容師の退職金についてよくある質問をまとめました。
Q1. 退職金はいつもらえますか?
A1. 法律で支払時期は定められていませんが、一般的には退職後1ヶ月〜2ヶ月以内に支払われるケースが多いです。正確な時期は、サロンの「就業規則」に記載されているはずなので、必ず確認しましょう。
Q2. 退職金にも税金はかかりますか?
A2. はい、退職金は「退職所得」として所得税と住民税の対象になります。ただし、長年の功労に報いるため「退職所得控除」という非常に手厚い税制優遇があり、他の所得と比べて税負担が大幅に軽くなるよう設計されています。
参考:国税庁「退職金と税」
Q3. 就業規則に規定があるのに退職金が支払われません。
A3. まずは会社(オーナー)に確認をしましょう。解決しない場合は、労働基準監督署への相談が有効です。労働基準監督署は、企業が法律や就業規則を守っているかを監督する機関であり、指導や是正勧告を行ってくれる場合があります。
-min.png?q=1)

-min.jpg?q=1)

-min.jpg?q=1)
