ネイリストの独立 一人でお店を開きたくてネイリストに。海外でフリー活動スタート Vol.19【NavyHouse chinatsuさん】#1
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな人に向けて、独立して成功されている先輩オーナーの方々の経験談をお届けする本企画。
今回お話を伺ったネイリストは、「NavyHouse」のchinatsuさん。サロンの雰囲気も、chinatsuさんのデザインも一言で表すと「ディープ」という言葉がしっくりきます。一見すると「紹介制のお店…?」とも感じさせますが、取材後はガラリとそのイメージが変わりました。
前編では、海外でネイリスト、そしてフリーランスとなられた経緯、現在の「NavyHouse」を構えるまでの道のりを教えていただきます。
オーストラリアでネイル人生をスタート
――chinatsuさんは、独立前は会社勤めをされていたとか。
商社で貿易関係の仕事をしていたんです。といっても、会社勤めをしていた期間はわずかですけど(笑)。私は組織で働くのは無理なタイプだったみたいです…。それで会社を辞めてオーストラリアに移住したんです。大学時代に海外留学をしていた場所で、もう一度そこに住みたいなと思いまして。
――ネイルとはいつ出会われたのでしょうか。
きっかけは、誘われたからです。オーストラリアに住んでいたときに、色々な古着屋や語学学校で働いていたんですが、たまたまプライベートサロンをやっているネイリストさん(のちの師匠となる方)に「うちの店で働かない?」と声をかけてもらったんです。ファッションは昔からすごく好きでしたし、ネイルだってサロンに通ったり、セルフネイルをしたりと自分にとって身近な存在だったので、特に断る理由もなく…。
――オーストラリアでネイルと出会われたのですね。そのあとどのように技術を学ばれたのですか?
私は美容学校には通っていません。私を誘ってくれた師匠のもとで、サロンワークをしながら一から技術を教わったという感じ。お金をもらいながら技術を学べたので、本当にラッキーでしたね。
――chinatsuさんは、ネイリストとしての第一歩が海外とのことですが、向こうのネイル事情はどのような感じだったのでしょうか。
何か私、逆輸入みたいですよね(笑)。
技術面では絶対に日本の方が進んでいますが、海外はネイルをする人口がすごく多いんです。学生からお年寄りまで年齢層が広いというのもあるし、医療関係や飲食関係の人もネイルOKで、職業ルールが日本よりも緩いんです。
――海外はネイルの需要が高いんですね。デザインは日本と傾向が違うのでしょうか。
向こうの人たちはスカルプとかフレンチネイルとか、デザインはシンプル志向でしたね。それに海外の人は飽き性なので、2週間ごとにデザインを変えるという感じで、頻度も高いんです。
あとは、オーダーも結構細かいですね。「この指はこうして、こっちの指はこう」という感じに。それが私の感覚と違うことも多くて、「ここにこのデザインなんだ!」って、かなり新鮮でしたね。
おそらく、海外の人ってネイルでどんなデザインができるのか分からないんだと思うんです。東京ほど技術が進んでいなかったので、ただ色を塗るだけとか、ペタッと貼るだけとか。アジア人は凹凸を出したゴテゴテのデザインが好きだけど、ウェスタンの人はそういう概念があまりないんじゃないかな。
――そういうネイル事情の中で、当時の師匠はどんなデザインだったのですか?
超ガーリーで、ピンクの世界観を持った人でした。技術力もすごく高かったですし。だから基礎を教えてもらう分にはとても良かったですね。かわいい系のデザインって、ネイルを勉強する上でいわば基本の「キ」なんですよ。
教えてもらう分には良かったんですが、自分のやりたいスタイルとは違ったので、けっこう喧嘩しましたね(笑)。最後も喧嘩別れでしたし…。自分はその頃25歳とかで、まだ未熟だったんですよ。
――師匠のもとで働いていた頃から独立志向があったのでしょうか?
ありましたね。実は、ネイルをはじめたときから一人でお店をやると決めていたんです。だから、師匠のもとを辞めたあとは街の小さなサロンに勤めながら、自分のアトリエにもお客様を呼んで施術していました。
――オーストラリアでプライベートサロンをはじめられたのですね。ちなみにどのように集客をされていたのですか?
メルボルンという街に住んでいたのですが、住民が見るコミュニティサイトのような、物件を探したり、仕事を探したりするときに使うサイトがあるんです。そこで「ネイルサロンやってます」って宣伝していました。あとは、あまり大きな声で言えないですけど、勤めていたサロンで仲良しだったお客さんが来てくれたりとか…(笑)。
――そもそもchinatsuさんがやりたかったデザインやスタイルとは?
お客様のその日の気分に合わせたオーダーメイドのオリジナルデザインをしたいと思っていました。ネイルは毎月変えられるタトゥーだと思っているので、世界に一つだけという特別なものにしたいという想いは今も変わらずです。
――独立後、chinatsuさんのデザインに対してお客さんはどのような反応だったのでしょうか。
当時のお客様の反応としては、「デザインサンプルがないというスタイルは珍しい」と言っていただくことが多かったです。「完成形がわからないから、見ていて楽しい」とか。はじめから「こういうデザインになる」とわかっていると、絶対に失敗しないという安心感はあるけど、答え合わせみたいで退屈ですよね。一緒にその場でデザインを作っていくというライブ感が新鮮だったみたいです。本当はサンプルを作るのが面倒くさい…というのは口が裂けてもお客様には言えないですけど(笑)。
――デザインの方向性がはっきりとされていたようですが、ご自身の中でやはり「一人でもイケる!」という自信はありましたか?
そんな風に思ったことはないです…。私はもともと自分に自信がないタイプなので。信じられないかもしれませんが、今でも思っていません(笑)。当時は、アトリエの契約が2年くらいで更新になるので、「とりあえず2年続けばいいかなぁ」くらいに思っていました。「続かなかったらやめて、ほかの道を探そう」というわりと軽い気持ちでいたんです。今だって、もしダメになったら山奥で野苺ジャムとかを作ろうかと思っています…(笑)。
帰国後、渋谷に「NavyHouse」をオープン
――オーストラリアで順調にネイル活動をされていたようですが、日本に帰国された理由とは一体?
私、マンガとかアニメが好きなんですよ。帰国したのもそれが理由です(笑)。海外だとマンガとかアニメを見られるツールがないので。
――意外な理由でした(笑)。帰国後はすぐに「NavyHouse」をオープンされたのでしょうか。
そうですね。向こうにいた頃から日本でお店を持つことは決めていて、ビザが切れる少し前からこの店のオープン準備を進めていました。当時はインスタが主流ではなかったので、主に活用したのはブログ。オープンの告知をしたり、オーストラリアでの暮らしやネイルデザインを載せたりしていました。
――なぜ渋谷を選ばれたのですか?
自分のネイルの雰囲気が渋谷かなと。新宿ではないなと思ったんです。あとは、当時実家暮らしだったので、そこから通いやすいということで(笑)。というシンプルな理由です。
――そういえばこちらのアパートって、すごくレトロでおしゃれですよね。
そうなんですよ。内装も面白いですよね。坂倉準三さんという建築家が建てたアパートなんですが、もともと彼の建築物が好きで、このアパートも空いていたら良いなと思っていたんです。そうしたらたまたまこの部屋だけが空いていて、本当にラッキーでした。
――集客はまた一からだったかと思いますが、どのように?
正直、集客をしようと思ったことはないんです。誰でもいいから呼び込むという考え方はなくて、大手広告サイトもあまり好きではなかったので使う気もなく…。とは言いつつも、集客しようとしたところで、当時の私にはどうやってお客さんを呼べば良いのかわかっていなかったんですけどね(笑)。
でも、オーストラリアで書いていたブログやツイッター、インスタを見て来てくれる方が結構いて。幸運なことに、集客しなくても自分が求めていた数のお客様が来てくれたんです。
プライベートサロンを持つ上での心得
ネイリストとしてデビュー後、早くもご自身のスタイルを明確にし、独立を果たしたchinatsuさん。無理に自分を売り込もうとせずとも、客足が絶えず、顧客も離れていかないのはなぜか、その秘訣を教えていただきました。
1. 目標設定(理想)を高くしすぎない
2. 素で接する
3. お客さんがサロンで過ごす時間を大切にする
後編ではchinatusさん流の接客スタイルについて詳しくお伝えします!
▽後編はこちら▽
ネイリストの独立 サロンは自分の個展ではなく、お客様と一緒に過ごせるホーム Vol.19【NavyHouse chinatsuさん】#2>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/岩田慶(fort)