苦しいのは自分だけじゃない!それが分かるだけで気持ちがラクに【kakimoto arms ROPPONGI HILLSスタイリスト栗原彩さん】#2
先輩たちは新人時代をどうやって乗り越えてきたのかを紹介するこの企画。前編に続いてkakimoto arms ROPPONGI HILLSのスタイリスト、栗原彩さんにお話しを伺います。
前編では就職先にkakimoto armsを選んだ理由やアシスタント時代にチャレンジしたことを語っていただきました。後編では、スタイリストになってぶち当たった壁をどう乗り越えたのか、ハイクラスなお客さまを接客するための努力について直撃します。
お話しを伺ったのは…
kakimoto arms ROPPONGI HILLS
スタイリスト 栗原彩さん
2017年に国際文化理容美容専門学校 渋谷校を卒業後、kakimoto armsに入社し、ROPPONGI HILLS店に配属される。‘19年にスタイリストデビューをし、‘22年に三つ星トップスタイリストに昇格する。
「正解を求めるクセ」が、気づかぬうちにストレスに
――栗原さんは今、三つ星スタイリストです。このランクはどうやって決まるんですか?
売上で決まります。アシスタントからスタイリストになるときに星がひとつ付きます。それから売上によって、二つ星、三つ星と数が増えるんです。
――栗原さんが星を増やすのは順調でしたか?
一つ目から二つ目になるのはさほど難しくありませんが、三つ星になるのが大変で。売上を作るために、家族や親戚、友だちのさらに友だちが来店して協力してくれました。
今、来てくださっているお客さまに毎回、満足していただいて飽きさせない努力が欠かせません。お客さまが増えると、その分スキルを上げなくてはならないプレッシャーがかかるものなんですね。このとき、自分では気づかないうちに心と身体が追いつかない状態になっていました。
――どこか具合が悪くなったんですか?
食欲がなくなり、急激に体重が落ちてしまいました。病院へ行っても原因が分からず、薬を飲んでも効かなくて、しまいには立てなくなってしまったんです。それで1週間ほどサロンをお休みしました。
――原因が分からないのは困りますね。
お医者さまは「ストレスだろう」と言っていました。私のなかで思い当たるのは、何でも正解を求めてしまう性格。アシスタントの時はその都度、先輩がチェックして何が正解かをアドバイスしてもらうのが当たり前でした。それがスタイリストになると、正解はお客さまの中にしかなくて点数ももらえません。合っているのかどうかが分からない状態です。次回、またご来店いただいて、ようやく「あれで正解だったんだ!」と分かります。それが辛かったのだと思います。
――どうやって乗り越えたんですか?
ROPPONGI HILLS店には今年68才になるベテランのスタイリストがいて、その先輩が「お客さんが増え始めると、体調を崩しやすくなるんだよね。ゆっくり休めるときに休みなさい」って、おっしゃってくださったんです。ストレスを感じているのは私だけじゃない! 誰もが感じることなんだ!というのが分かって、すごく気が楽になりました。私に合う薬も見つかって、体調を戻すこともできました。
満足させられなかったお客さまから「信頼している」と言われて奮起
――スタイリストになってから、最大のピンチはありますか?
長く私を指名してくださっているお客さまを、満足させられなかったことですね。とても悲しい想いをさせてしまったのが辛かったです。私の技術不足で、直したくても対応力がなくて、どうにもなりませんでした。
お客さまは「技術は満足できないけれど、栗原さんのことを信頼しているからこそ、栗原さんに直して欲しい」とおっしゃったんです。嬉しい反面、ものすごいプレッシャーを感じました。絶対に素敵にしなければ!と思いましたね。
ですが、1回で直しきれるものではなかったので、メールでやり取りをして、定期的にメンテナンスに通っていただきました。お直しが完了するまでに半年はかかったと思います。先輩はもちろんですが、お客さまにも育ててもらっています。
――技術を磨くためにどんなことをなさっていますか?
kakimoto armsは年に一度、アームズカップというコンテストとアームズコレクションというヘアショーを開催しています。会社の上層部と雑誌の編集者が審査するこのコンテストには、入社当初から参加していて、昨年は5位に入賞しました。
ヘアショーは年によってテーマがあって、そのテーマに合わせたスタイルを提案します。昨年のテーマは「ゆらぎ」で、私は言葉のイメージから自然が奏でる音やリズム、川のせせらぎが思い浮かんで、さらにそこにいるのはどんな人なのか…と想像してスタイルを作りました。これからもコレクションやショーに参加することで技術を磨いていけたら、と考えています。
ハイクラスのおもてなしができるように体験して学ぶ日々
――技術を磨く以外に、どんなことをしていますか?
kakimoto armsにいらっしゃるのはハイクラスな方が多いので、自分もちょっと背伸びをしてお客さまと同じような体験をするようにしています。そうすることでお客さまがどんなサービスを求めているのかを少しでも理解できれば…と思っています。
社員研修でもアマン東京に泊まりましたが、自分で旅行するときはお客さまにおすすめのレストランやお店を伺って、ランクアップした経験をするようにしています。
あとは、ピラティスを始めました。仕事柄か腰を傷めてしまって、ずっと整体のお世話になっていました。でも、この仕事を長く続けるなら根本から治さないとダメだなと思って、ピラティスを習い始めました。だいぶ良くなって、腰に負担がかからないように姿勢を意識するようなっています。
――これから、どんな美容師になりたいですか?
一人でも多くのお客さまに喜んでもらえる美容師になりたいです。自分が辛かったときに支えてもらった分、次の世代をしっかり支えていきたいですね。
ずっと目標を追いかけてきたので、今後はプライベートも充実させたいですね。アシスタントの時からお世話になっていた先輩が産休に入ったのですが、ここには結婚して産休を取って、また復活して働いている先輩がたくさんいます。私も仕事もプライベートもどちらも充実したスタイリストになりたいです。
栗原さん流! 壁を突き破るための3つのポイント
1.お客さまを満足させるだけでなく、飽きさせない工夫をすること
2.ショーやコンテストに積極的に参加してスキルアップを目指す
3.ワンランク上の経験をしてお客さまが求めていることを学ぶ
入社から7年目を迎える栗原さん。教わる立場から教える立場になり、週2~3日のペースで営業後に後輩たちの指導にあたっています。「苦しいことを乗り越えたとき、仕事が本当に楽しいと思えるようになります!」とエールを贈ってくれました。
撮影/森 浩司