夢を叶えた後も人生は続く。「好き」を仕事に生きていくために。 私の履歴書 【メイクアップアーティスト サイオチアキさん】#2
ファッション誌を中心に、ファッションショーやテレビなど多方面で活躍するメイクアップアーティスト・サイオチアキさん。学生時代からの夢を諦められず、意を決して上京。その後も様々な困難や苦労を乗り越えながら、やりたい仕事をその手で掴んできました。
後編では、メイクアップアーティストとしてキャリアアップしていった様子に加え、結婚や妊娠・出産という人生の節目を迎えたサイオさんの今後の展望についてお聞きします。
多くの人々との出会いを通じて、ファッション誌以外の仕事も増加
――独立してから、どのような現場を経験しましたか?
1年目から3年目までは、『Popteen』や『nicola』といったティーン向けの雑誌が中心でした。
その後、『Ray』や『non-no』といった大人世代の雑誌も担当したいと思い、事務所にはその希望を出していました。そのせいか、スケジュールの関係などで先輩が入れなかった現場に代わりに入らせてもらうように。そこから、知り合うモデルさんやタレントさんが少しずつ増えていきましたね。
そういったご縁が仕事を呼んでくれたのか、3、4年目くらいになると知り合ったタレントさんから直接の指名も増えていき、広告やファッションショー、テレビ番組、さらにはCMの現場にも呼んでいただけるようになりました。初めて直接指名をいただいた時は念願が叶った気がして、とても喜んだのを今でも覚えています。
――憧れだったファッション誌を中心に、活躍の場がぐんと広がりましたね!
雑誌の年齢層の幅を広げるごとに接するタレントさんの幅も広がっていくので、それが活躍の幅を広げることにつながったと思います。
タレントさんたちが私をメイクアップアーティストとして育ててくださったと思っています。また、担当したタレントさんがスターダムに上り詰める過程を一緒に歩み、信頼関係を築きながら、一緒に成長できるのもこの仕事の醍醐味です。
特にCMは特殊な現場で、影響力も大きいんです。紆余曲折ありましたが、ご縁の力もあってCMの現場を任せてもらえるようになったのはここ最近のことです。
――その分、やりがいも大きいのでは?
現場の人数も、かけているコストも大きい分、プレッシャーも大きいですかね。でも、どの現場でも私たちがやることは基本変わらないです。媒体によって、クライアントさんやタレントさんの意向を汲みつつ、どの現場にも全力で取り組んでいます。
――どの媒体の仕事が一番楽しいですか?
どの仕事にも、それぞれ違った楽しさや醍醐味がありますが、自分が最も楽しいと感じるのはファッションショーですね。
スポットライトを浴び、ヘアメイクと衣装で着飾ってランウェイを歩くモデルさんたちの姿は、一番キラキラした状態だと思うんです。トレンドの最先端を発信するファッションショーの仕事は、私のやりたいことど真ん中という感じで。達成感も大きいです。
一方、テレビやCMは信頼の積み重ねが重要な仕事。こちらでは、信頼関係の構築というまた別のやりがいを実感しています。
好きな仕事をするということ、そして続けていくために大切なこと
――好きなことを仕事にするのは、やはり楽しいですか?
幸い好きなことを仕事にすることができた私でも、やりがいや楽しさを心から実感できるようになったのはここ最近のこと。それまでは、苦労したり悔しい思いをしたりすることも多かったです。様々な面から支えてくれた両親や友人の存在も、モチベーションになりました。
――困難や苦労を乗り越えられた秘訣はなんだったのでしょう?
とにかく諦めないこと。あとは、やはり自分の「好き」を突き詰めることです。この仕事に憧れを抱いて飛び込んでくる方は多いと思いますが、ミーハーな心では夢半ばで終わってしまう世界。一見華やかに見えるけれど、特に下積み時代は地道で過酷なことも山ほどあります。だからこそ、地に足をつけて着実に続けていける人は強い。そして迷った時は、自分の「好き」をもっと極めるための努力も必要です。指名ありきのメイクアップアーティストの仕事1本で食べていくのは今でも大変ですが、好きなことが仕事になるのはいい意味で「働いている」感覚がなく、楽しいですよ!
――この仕事を続けていくために、心がけていることはなんですか?
「提案力」と「インプット」です。媒体のイメージやクライアントの要望、ファッションのスタイリングにモデルさんの顔立ち、さらにはその時のトレンドなど、ヘアメイクをする上で考慮すべきことはたくさんあります。しかしどんな現場でも、常に自分なりの提案をすることを心がけていますね。
その提案のために必要なのが、日々のインプットです。コスメのトレンドは本当に動きが早いので、常にアンテナを張るようにしています。定期的に新商品の展示会や発表会に足を運んだり、YouTubeなどの動画やSNSといったネット上の情報にも気を配ったり。時には渋谷や原宿などに出向いて、街行く人たちのヘアメイクを観察することもあります。
結婚、そして妊娠・出産。ライフステージの変化に直面し、仕事に対するマインドも変化
――2022年にご結婚され、現在妊娠中だそうですが、結婚生活と仕事の両立は大変でしたか?
大変なことは全然ありませんでした。パートナーがこの仕事に対して理解があり、むしろ良かったことばかり。それまで、仕事でのしんどいことや辛いことは基本的に1人で抱えていましたが、結婚してからはパートナーが心の支えになってくれていました。
――サイオさんにとって、結婚は大きなプラスになったんですね。出産してからも、仕事は続けていきたいと思いますか?
もちろん! 今までと変わらず、とは行かないかもしれませんが、やりたいことはできる限り諦めずに続けていきたいです。やはり、時間の制約ができてしまう部分が大きいので、パートナーと協力し合いながら子育てしていきたいですね。
――結婚・妊娠の経験が、仕事に与えた影響はありましたか?
今まで、やりたい仕事を気持ちの赴くままにやって来ました。しかし、生活に対して前よりもっと責任感を持つようになりましたね。
例えば、妊娠中はどうしても体への負担を考えなければならないことから、どんなにやりたい仕事であっても屋外のロケや拘束時間の長い現場は諦めなければならなくて…。私たち夫婦にとっては今が妊娠・出産のベストタイミングだと信じているのですが、それでも、やはり、悔しく思うことがあります。そんな時でも「この子を無事産んで、育てなきゃいけない」という気持ちが頑張らせてくれるんです。
――人生の節目を迎えたサイオさんにとって、働くこととは?
生活を豊かにしていくこと。
メイクアップアーティストは人との出会いと信頼関係が大事な仕事です。」仕事で知り合った多くの方々に妊娠を報告した時には、仕事で知り合った多くの方々が一緒になって喜び、祝福してくださいました。
自分が培ってきた信頼がとても大きく深いものだったと、この時に実感できたのがとても嬉しかったです。信頼関係を築いていくことは人生をより一層豊かにしてくれると思います。本当に素敵な出会いばかりだと、感謝する日々です。
サイオさんの成功の秘訣
1. とにかく諦めず、地に足をつけて地道に努力する
2. 自分の「好き」をとことん突き詰める
3. 仕事を通じて関わってきた人たちへの感謝を忘れない
撮影/鳥取写真家・宮川大志
取材・文/勝島春奈
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