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嶋根義明×佐藤涼 interview:「フィリピンの子どもたちに笑顔を届けたい」日本の美容師たちがハサミにこめた思いを伝える

好きな髪型をしたくてもなかなかできない環境にいるフィリピンの子どもたちを笑顔にするために、日本全国の美容師が海を渡り髪を切りに行く『ハサミノチカラ』プロジェクト。このプロジェクトに参加し、実際にフィリピンの子どもたちの髪を切ってきたSORAの嶋根さん、Yoursの佐藤さんに、美容師の仕事論を踏まえてお話を伺いました。

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――新聞などのメディアでもその取り組みが紹介され、認知されつつある「ハサミノチカラ」プロジェクトですが、参加のきっかけはなんでしょう?

嶋根 義明さん
佐藤 涼さん

嶋根さん(以下、嶋根)

「ハサミノチカラ」プロジェクトを立ち上げたのが、NPO法人アクションの横田さんという方と、美容室SORAオーナーの北原なんです。なので、僕の場合は 北原に誘われたから、ですね。毎日のサロンワークでちょっとマンネリ化していた時期でもあって、「だったら行ってみないか?」って。結果的に、すごくいい経験になりました。

佐藤さん(以下、佐藤)

僕も北原さんに誘われたからです。僕は学生時代に北原さんに髪を切ってもらっていたんです。美容師になる時には相談に乗ってもらうなどすごくお世話になりましたし、本当に尊敬している人です。その北原さんに誘われたから、瞬間的に「行きます!」と答えていました。その後、妻やスタッフにすごく心配されて「大丈夫かな…」と不安がよぎったんですけど。僕、虫がすごく嫌いなので(笑)。

嶋根

僕は環境面では全然大丈夫なんですけど、家の中でもヤモリ・イモリがたくさんいるので、びっくりしますよね (笑)。

佐藤

現地で寝ていて、なにか虫ではない重さのものがお腹にドスッと落ちてきたりしましたが、『これは夢だ!!』 と思いこんでやり過ごしました(笑)。

――そんなワイルドなフィリピン生活ですが、『ハサミノチカラ』メンバーとしてどのように過ごすのですか?

佐藤さんと嶋根さん
ハサミノチカラ

佐藤

僕が行った時は2泊3日でした。朝7時に空港に集合して、4~5時間飛行機に乗って。

嶋根

着いたらすぐ移動して、それから髪を切りまくります(笑)!

佐藤

2日間切りまくりです(笑)! だいたい、2時間で12~13人の髪を切りますね。

嶋根

ズラーーっと並んでますよね。男の子も女の子も。

佐藤

しかも外ですから。体感温度は40℃くらいの中でみんな待っている。

嶋根

何ヵ所か周りましたが、僕は孤児院と盲ろう学校に行きました。

佐藤

僕も個人宅と盲ろう学校、あと、学校にも行きました。

嶋根

僕はホームステイはしなかったんですけど、佐藤さんは一般のご家庭に泊ったんですよね?

佐藤

はい。そのおかげで、先ほどのようなヤモリネタもできました(笑)。

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――フィリピンでは、どういう髪形が流行っているのでしょう?

佐藤 涼さん
嶋根 義明さん

佐藤

女の子はロングヘアですね。男の子は刈り上げみたいに短く切る。シンプルですけど、お洒落に対する意識はすごく高いですよ。

嶋根

男の子は、ベッカムみたいに上に立てるのが好きですよね。ワックスなどのスタイリング剤が手に入りにくいので、つけてあげると喜びます。普段は糊などで立てているみたいなので。

佐藤

日本のお客さまは「お任せで」と仰る方も多いんですけど、 フィリピンの子どもたちは「こうしたい!」という思いがすごく強い ですよね。言葉は通じないんですが、ヘアカタログを見せると 「ここはこうしてここはああして」っていう要望がすごくあって。

嶋根

やり直しもあります。けっこう厳しいんですよ(笑)。それを短い時間で行うので、自分の修業にもなります。すごく勉強になりますよ。

佐藤

言葉が通じない分、何を伝えたいのかってすごく考えますよね。

嶋根

そうなんです。この子はどういう髪型が好みなのか、すごく考えます。そういうところも含めて面白いですね。「心で繋がる」とはこういうことか、と。

佐藤

言葉にするとチープになってしまうので、表現が難しいんですけど、まさに心と心で通じ合う、ということですね。日本に戻ってからもそういう気持ちでカウンセリングすると、言葉だけに頼っていた時とは仕上がりが違ってくると思います。

――現地の成人式のサポートもされたとか。

佐藤さんと嶋根さん
ハサミノチカラ
嶋根 義明さん

嶋根

はい。フィリピンでは18歳になると盛大に成人のお祝いパーティをする風習があるんですが、お祝いができない環境の子たちを集めて成人パーティを開催しました。日本からヘアメイクさんやフォトグラファーさんを連れ、衣装を持って行き、盛大で華やかなパーティを開こう、という企画でした。たぶん、彼女たちは今まで美容師さんに髪を触ってもらうことがなかったと思うんです。どういうヘアスタイルにする? って聞いてもなかなか思いつかないんですよ。伝え方がわからないんだと思うのですけど。

佐藤

男の子は町の床屋さんみたいなところがあるけど、女の子はほとんどお母さんに切ってもらっているみたいですね。「プロに切ってもらう」という感覚がなかなかない。

嶋根

今でも忘れないんですけど、それまですごく緊張して――本当に緊張していたと思うんですよね、無表情だった女の子が、仕上がって鏡を見た瞬間にぱあっと笑ってくれて、何度も何度も鏡を見て。

佐藤

日本みたいに鏡の前で切ってるわけじゃないから、仕上がったら手鏡を渡すんだよね。

嶋根

はい。その笑顔を見た時、美容師をやっていて良かったなあと思いました。切った人が喜んでくれる。それが美容師の喜びで基本なのですが、日々の忙しさにかまけて忘れかけていたものを、この子どもたちの純粋な笑顔を見て、思い出しました。

佐藤

それがこのプロジェクトの醍醐味ですね。なんというか、『ボランティア』という堅苦しい雰囲気ではないんです。だから続けていられるんですけど、僕たちがたまたま髪を切る技術を持っているから切ってあげて、それで笑顔になってくれる。仕事としてお金をいただき、髪を切ってお客さまに満足していただく、という以前のこと。純粋にできることを提供して喜びが生まれる、それはすごくエネルギーを生み出していると思いますね。

嶋根

普段のサロンワークでも、お客さまの笑顔が一番嬉しいんだ、と改めて気付かせてくれますね。

――そもそも、お二人が美容師になったきっかけはなんだったのでしょう?

佐藤さんと嶋根さん

嶋根

僕は、母が美容師だったんです。将来の目標とかは特になかったんですけど、双子の兄は美容師を目指していて、じゃあ一緒にやろうかな、と思って。もともと美容師という職業が身近にあったこともあって、自然な流れですね。

佐藤

お兄さんの写真、見たことありますよ。そっくりですよね(笑)!

嶋根

そうですかねえ(笑)。自分ではよくわからないんですけど(笑)。

佐藤

僕は、父が美容室の経営をしていました。実は跡を継ぎたいとは思っていなくて、医者になりたかったんです。医大を目指して勉強していたんですが、結局ダメだって気付いた時、人生で初めての挫折を味わいました。 医者を諦めて、なんとなく美容師になってしまいました。やってみたら意外に楽しくて、ここまで来てしまったんですけど(笑)。

――お二人とも美容師歴は長いと聞いていますが、辞めたいと思ったことは?

佐藤さんと嶋根さん

嶋根

僕は10年目です。

佐藤

僕は13年かな。

嶋根

辞めたいと思ったこと、それは何回もありますよ!(笑)。1年目は、自分の描いている理想の美容師像とのギャップにぶち当たって、3年目くらいのスタイリスト直前では、このままでいいのかという不安がありました。スタイリストになってからも、なかなか思うような結果が出せなかったり、売り上げに伸び悩む時期もありましたし、壁はいつでもありましたね。そこで辞めなかったのは、やっぱりこの仕事が好きだから、ということに尽きると思います。どなたもそうだと思いますが、一番の喜びはお客さまの笑顔です。

佐藤

僕は、辞めたいと思ったことは一度もないです。それはなぜかと言えば、挫折してからのスタートだったから。自分の中で、もう後がないと追い詰められて美容師になったから、絶対に辞めないという前提がある。その中で、辛いことも面白いことも経験してきましたね。

――美容師として確かな実績のあるお二人ですが、『ハサミノチカラ』は、まだアシスタントの美容師でも参加していいものなのですか?

嶋根 義明さん
佐藤 涼さん

嶋根

それはもう、全然ウェルカムです! 髪を切ったり、技術を教えるだけではなくて、いろいろな参加の形がありますから。

佐藤

そうですね。人手はいくらあっても足りないので、参加に興味があればどんどんしてほしいです。ただ思うのは、最近の若い子たちってすごくボランティア精神があって、『ハサミノチカラ』の話をするととても感銘してくれます。それは僕らも嬉しいし、『人の役に立ちたい』という目標を持つのは素晴らしいことです。でも、『やりがい』とか『夢』の前に日本でのリアルな美容室業務があり、その中で個々に大変なことがいっぱいあるわけです。その地道な努力をひとつひとつ積み重ねて、初めてフィリピンの子どもたちを笑わせられることができる。それを忘れてはいけないと思います。

嶋根

どんなに技術力が上がっても、悩みや苦しみはある。その逃げ場として『ボランティア』を使うよりも、その場その場で自分にできることをやっていく、という感じですね。

佐藤

フィリピンで活躍できる人は、日本でも活躍できる人ですから。

嶋根

それは絶対にそうですね!

――ハサミノチカラプロジェクトでは、将来の職につなげるようフィリピンに美容師学校を設立されたそうですが、お二人は関わられてるのですか?

ハサミノチカラ
ハサミノチカラ

佐藤

関わっていなくもない、みたいな(笑)。誰が行く、と決まっているわけではなくて、行ける人が行く感じなのですけど。

嶋根

弊社の北原と、スタッフも行きました。3年間で美容師として自立してもらうプログラムを組んで、教えています。

佐藤

現地の美容師さんにも協力してもらい、教えてもらっています。それでもやっぱり、日本からの人材は必要です。

嶋根

最初に髪を切ってあげて喜んでくれた子たちが、仕事を持って生活できるように、そして下の子たちに教えていけるようになって、初めて僕らが行った意味があります。

佐藤

そうなると、日本のカット技術、ひいては文化を伝えていくことができます。それが今の目標になっているんですよ。

――様々な経験を重ねたお二人ですが、フィリピンに行って一番良かったな、と思うことはなんでしょう。

佐藤さんと嶋根さん

嶋根

先ほど言ったことと重複するのですが、やはり自分の原点に戻ることができることが一番大きいと思います。相手の笑顔が見られること、それが自分にとって一番嬉しいことだったんだ、と再認識すること。そして、それを職業として選べた自分はなんて幸せなんだろう、ということが改めてわかったことです。フィリピンの子たちは、学校に行きたくても行けない子、やりたくてもできない職業などがたくさんあって、それが当たり前の中で暮らしている。片や自分は、日本にいて学校に行って好きな職業に就いている。それがすごく幸せなことだって、気づかせてくれますね。

佐藤

僕も、美容師の原点に戻るところです。美容師感が0になるというか。あのですね、フィリピンから帰ってきた次の日のカットは、バッチリ決まるんですよ!

嶋根

ああ、それわかります!

佐藤

ですよね! ハサミに宿るんです、心が。それがハサミノチカラ。いつものお客さまのいつものカットが、いつもより決まっちゃうんです。帰ってからの2日間くらいは、お客さま全員決まっちゃって、全員可愛くなっちゃうんです(笑)!

嶋根

もしかしたらお客さまには違いはわからないかもしれないんですが(笑)。でも、とても気持ちよくカットができるんです。

佐藤

参加したある美容師さんが、最後のミーティングで言った言葉があって。「子どもたちの髪を切る時に、心から手を通して、その先のハサミに思いを入れて、子どもたちに伝えました」って。それを聞いた時は、ぞくっとしましたよ。

嶋根

心を入れると、やっぱり違うんですよね。これは、体験してみないとわかりませんね。

――これから美容師を目指す人、現在美容師で、もっとステップアップを目指す人に向けて何かメッセージをお願いします。

佐藤さんと嶋根さん

嶋根

美容師の勉強って、終わりがないんです。最初はシャンプーから始まって、カラーができたり、パーマができたり、スタイリストになってもカットの勉強は続きます。常に勉強をしていかなくちゃいけなくて、大変なんですけど、僕はそこが良いところだと思っています。やればやるほど、自分に返ってくるのが美容師の仕事です。これでいいやって思ったらそこで終わりで、いかに自分の中で追及して頑張っていくか。そこがおもしろいところだと思うんです。 僕も、自分はダメだなって思うこともいっぱいありますけど、その時々の大変なことを乗り超えていけば、楽しいって思える部分が増えてくる。言いかえればずっと成長できる仕事でもあります。うんと楽しんで知識を深め、長く美容師を続けていって欲しいと思います!

佐藤

考えすぎる必要は何もないんです。大きな目標なんてなくてもかまわないし、なんとなく美容師になっちゃっていいと思うんです。僕なんて、今でも美容師には向いてないと思っていますよ(笑)! 美容師になった頃なんて、まさか自分がフィリピンで髪を切ってるなんて想像もしていなかった! でも、続けてきたから『ハサミノチカラ』に出会えて、日本を離れた人にまで喜んでもらっている。やっぱり、続けてきたからこそ出会えるもの、分かることがある。でも、2,3年で新しい仕事に変わったら、きっと別のものに出会ったでしょう。要は、自分の気持ち次第なので、あんまり考えすぎないで。

嶋根

これからどうなっていくのかな、って楽しめればいいですよね。

佐藤

そうそう。それと、自分の思い込みより人の評価の方が的確ですよね。「シャンプー上手いね」とか何でもいいんですが、1人でも褒めてくれる人がいたら続けてみるのがいいんじゃないかな。自分で自分の向き不向きはわからないですから、きっと。

――ありがとうございました! これからの「ハサミノチカラ」、そしてお二人のご活躍を期待しております!

Profile

嶋根 義明さん

嶋根 義明(しまね よしあき)さん

SORA 学芸大店 店長

都内に3店舗を展開する美容室SORAの中でも、落語会の開催など、異業種コミュニティとしても積極的に活動している学芸大店の店長。その卓越したセンスと柔らかな物腰で指名が絶えない人気美容師。

「ハサミノチカラ」プロジェクトは2回目から参加。

Company

SORA

SORA

広尾・麻布十番・学芸大学の 3店舗を展開。それぞれ、 ゆったりとした空間の中で、 上質なサービスを堪能できる。 WEBサイトにて、24時間予約 受付も可能。

SORA 学芸大店
〒152-0004 東京都目黒区鷹番2-5-23 サンシティー鷹番
TEL : 03-6303-4417
URL : http://sora-style.com/

Profile

佐藤 涼さん

佐藤 涼(さとう りょう)さん

Yours オーナー

郡山などに3店舗を展開する美容室のオーナー兼美容師。福島県内に広げていた歴史ある美容室グループを思いきって小規模化するなど、『美容師がいつまでも幸せに働ける職場作り』を徹底し、業界で反響を呼ぶ。
「ハサミノチカラ」プロジェクトは3回目から参加。

Company

Yours

Yours

今年40年目となる老舗美容室。 現在、郡山市内に3店舗。 病院内に出店するなど、個性の ある店舗を展開する。 佐藤さんはフォーヘアーにて スタイリストとして活躍。

Yours フォーヘアー
〒963-8041 郡山市富田町中ノ目2-2
TEL : 024-966-2660
URL :http://www.yours1974.com/

Information

ハサミノチカラ

【ハサミノチカラ】とは

日本人美容師らが集まり、フィリピンの小学校や盲ろう学校、個人宅などを周り、子どもたちの髪を無料でカットするプロジェクト。将来の職につなげるよう、フィリピン現地に美容学校を開設するなど、活動が広がっている。
詳しくはNPO法人アクション URL : http://www.actionman.jp/

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