【美容師のカット技術】FILMS 田町.芝浦 榎本大樹さん流『骨格診断で似合わせるマッシュショート』#1
ここ数年続いているショートブームですが、ショートを得意とするサロンの中でも高い評価を得ているのがFILMS。その決め手となっているのが、カウンセリングで一人一人に行っているという独自の「骨格診断」。スタイリスト全員がそのノウハウを習得することで、より似合うヘアへの落とし込みを徹底しているのだとか。
今回は、FILMSで統括マネージャーとして活躍する榎本大樹さんにインタビュー。自らの経験をもとに後輩へ伝えていきたいこと、骨格診断のメリットやお客様のリアルな声などをお聞きしました。
「FILMS」統括マネージャー 榎本大樹さんにインタビュー
情報過多の時代、「得る力」より「選ぶ力」が重要に
−−若手時代に意識しておきたいのはどんなことだと思いますか?
好きになったものに対しての成長は、自分自身でもすごく感じていましたね。オールマイティを目指すというよりも、自分の好きなものを見つけていくのが良いと思います。僕は一時期、カラーリストになろうかなと思うくらいカラーにハマったことがありました。カットが好きになる時期、作品撮りがしたい時…その時々で夢中になれるものを突き詰めていくのは良いことだと思います。
若手の頃って、周りにいろんな人がいて、いろんなことを言われると思うんです。そういう環境でも、自分が良いなと思ったことは必ず自分の中に残っているもの。その一番良いところを取り入れていくことが大切で、これができるとぐんと前に進めると思います。「吸収する感覚」は常に意識しておくべき。
−−今は情報が多いから吸収するのも大変そう…!
ホントそうです。今は動画もあればweb媒体もあって、しかも誰もが簡単に見られる環境。こういう膨大な情報がある中で、全部を取り入れようとするのはまず無理です。情報を得る力はみんなが持てるようになったので、これからは「情報を選ぶ力」を身につけていくのが肝心。どれを選んでどう取り入れていくか。セレクトするのが上手な子って、伸びるのも早い気がします。でもその選び方自体はすごく難しいと思うので、そこは基本的に自分の好きなものから入っていくので良いと思うんですよね。
まずは何事も一回自分で受け入れること。否定せずにまずは肯定から入っていこうという「肯定ファースト」な考え方はFILMSの行動指針でもあります。いったん受け入れた状態で、自分の中で噛み砕いて、本当に正しいと思ったものを取り入れていく。そういう考え方をすごく大切にしています。
−−榎本さんは全店舗の統括マネージャーということですが、指導・教育の面で注力していることはありますか?
店舗が増えてくると、教え方の差というのが出てきてしまうんですよね。それをいかになくすかが課題のひとつ。あそこの店舗だと教え方が違うとか、チェック基準が違う、カリキュラムが違う…そういった話は周りでもよく聞きます。FILMSは現在3店舗ですが、これからもっと増えていった場合、そういうズレが出てきてしまわないようにしたいです。
−−そういった差をなくすために、具体的に取り組んでいることとは?
動画のコンテンツを作って、それを全員で見て共有しています。教える手順やポイント、対応の仕方などをまとめた動画で、みんなが同じように教えられるようにしっかり見てもらいます。そして、教えられる側も同じものを見られるようになっていて、全員で共有していきます。そうすると、店舗差も出ないし、お客様に対してのサービスも同じものを提供できる。サロンとして自信を持っている技術を、同じように提供することが目的です。
FILMSのカットの軸である「骨格診断」も、もちろんみんなができるようにしています。今は個人のブランディングもしっかりしていく時代になりましたが、そういう中でもお店としての強みもきちんと出していきたいですよね。極端な話、これからの若い子たちが個人技だけで薄っぺらい美容師にはなって欲しくないんです。
「骨格診断」でより似合うヘアへと落とし込む
−−FILMSが「骨格診断」に力を入れている理由とは?
「似合わせ」というのを全体的に考えた時に、絶対に骨格が肝になってくるんですよ。もちろん、雰囲気とかイメージ的なものもあるのですが、骨格は100年経ってもそんなに変わるものではない。似合わせ=骨格が重要、とまず考えます。
−−実際にはカット前のカウンセリングで行うのでしょうか?
そうですね。カウンセリング時に、お客様がなりたい髪型や悩みなどを聞いていくのはベースにありつつ、骨格や顔のパーツバランスをチェックしながら進めていきます。例えば、実際に頭を触って後頭部の丸みだったりハチの張り具合、左右差などを確認。ここはボリュームが出やすいなとか、高さが出にくいなとか、ポイントで認識していきます。あとは顔のパーツを見た時に、遠心タイプなのか求心タイプなのか。今回のモデルさんは求心タイプで、目元から口元までの距離が短めだったので少し幼い印象に見える、というのがカット前の印象でした。チェック項目はいろいろあって、お客様に合わせて診断しながら説明していきます。ただあまり時間をかけ過ぎてもお客様が迷ってしまうので、ポイントを絞ってテンポ良く進めていくのがコツです。
−−なるほど、すごく論理的なんですね。
そこが特徴でもあります。お客様にとっても、説明するスタイリストにとっても分かりやすいのがポイント。そして、骨格診断のノウハウをスタッフが習得する際に、教える側がすごく教えやすいというのも実は利点なんです。昔、僕が経験してきて感じたのですが、「これ、こういう風にしたら可愛いでしょ」という教え方は、理論が薄く、感覚に偏っているなということ。それよりも、例えば「この人は、顔のパーツが求心寄りだからもっと大人っぽく見せたい、だったらここをこうカットしよう」という風に、説明ができる方がゴールが明確。理論として成立させれば、肉付けもできるし、そこからコントロールもしやすいですよね。
−−確かに。お客様、スタイリスト、教える側、みんなにとって強いメリットを感じますね。習得していくのも大変そうですが…。
この骨格診断をみんなができるように、カウンセリング勉強会というのもやっています。基本的な進め方もそうなんですが、どういう言い方にしたらお客様に伝わりやすいとか、どんな言葉を選んだら良いのか。悩みをカバーするための理論を説明したいけれど、そこにネガティブな言葉が出ないように、そのあたり結構難しいポイントなのでみんなで勉強します。まずはポジティブから入ってネガティブを消していく、そんなイメージになるように。
論理的な技術を継承していくシステムは昔からあるやり方ですが、みんなが同じように習得できる反面、無断な作業も結構出てきたりするものです。そういうのをいかに省いて、筋肉質にして、現代バージョンにしてやっていけるか。そのためにはカリキュラムは常にブラッシュアップするようにしています。これはいるのか? いらないのか? そういった見直しは頻繁に行っていますね。
−−骨格診断を受けたお客様の反応はどうですか?
やっぱり良いですね。「私って何が似合いますか?」とか、「前髪ありなし、どっちが似合いますか?」とかってよく聞かれると思うんです。そういう一つ一つに対して、骨格ありきで説明していく。例えば前髪にしろ、どっちも似合わないってことはまずないので、前髪を作るのだったらこの長さにした方が似合います、前髪なしにするんだったら全体はちょっと長めにしましょうか…など。そうやっていけば骨格とのバランスも取れますからね。あとはどういう雰囲気になりたいかも大切で、その辺も理論づけして説明していきますが、それをいかに分かりやすい言葉で伝えるかがポイントになってきます。
榎本大樹さんが提案『骨格診断で似合わせるマッシュショート』
カット前は全体的に角が残るボーイッシュな質感。骨格診断により頭の形や生えグセなどを考慮しながら、丸みを作って女性らしい柔らかさのあるマッシュショートに。さらに求心的で幼な顔に見られがちな印象を、大人っぽい雰囲気へシフトさせた。
榎本大樹さん流『骨格診断で似合わせるマッシュショート』のいいところ
1.ショートだけど女性らしさも出せる
2.表面にアイロンを通すだけでスタイリングが決まる
3.ベースをキレイに切るのでスタイルが長持ち
カウンセリングに骨格診断を取り入れることで、一人一人の顔型や頭の形、髪質などを細やかにチェック。「より高いレベルでの似合わせが可能になり、お客様の満足度も上がります」と榎本さん。後半では、そんな骨格診断を取り入れた実際のカットの流れを教えていただきます。
▽後編はこちら▽
【美容師のカット技術】FILMS 田町.芝浦 榎本大樹さん流『骨格診断で似合わせるマッシュショート』#2>>
取材・文:青木麻理(tokiwa)
撮影:高嶋佳代
ヘア:榎本大樹(FILMS 田町.芝浦)
メイク:影山夏美(FILMS 田町.芝浦)
モデル:グダルジ サミラ
教えてくれたのはこの人!
FILMS 統括マネージャー 榎本大樹さん
茨城県出身。都内2店舗を経験後、FILMSへ。サロン独自の骨格診断を武器に、繊細なカット技術で最高の似合わせヘアを提供。特にショート、ボブのスタイルには定評があり、榎本さんのカットを求めて長年のリピーターも多い。現在は、統括マネージャーとして全店舗の統括・管理および、スタッフへの指導、教育などを行う。
Instagram:@eno_hair